11月12日の日経MJの「駆けるeベンチャー」の囲み記事で、ドリームクリエイトという会社が紹介されていた。ヤマト運輸の社内ベンチャーから発足した会社で、業務内容は簡単に言うと「雑誌に掲載されている商品をお取り寄せ」するというものだ。
「ネコレ」というサービス名でサイトが立ち上がっているけれど、ニュースリリースの文章を読むとこう書いてある。
雑誌に掲載されている商品に興味を抱いても、時間がない・遠い等の理由で購入できないお客様(読者)の不便を解消するため、ヤマトグループのネットワークでメーカーから商品をお取り寄せする事業を展開します。
そして、読者と、メーカー、出版社それぞれのメリットが書かれている。読者にとっては自宅にいながら雑誌に載っている商品を購入することができるメリットが、メーカーには新たな流通網を整備することなく顧客が増えるメリットが、出版社にとっては「お取り寄せサービス可能」ということが他誌との差別化に繋がるメリットがあるということだ。
現状では、このお取り寄せサービスは女性ファッション誌の「style」に掲載されている商品について適用されているのだけれど、今月22日に発売される「Ray」という雑誌でも全掲載アイテム(4000から6000アイテム)の通信販売代行が可能となるみたいだ。どんな雑誌でもいいというわけではなく、あくまでも提携先の雑誌のみの運用となっているようだけれど、それでも魅力的なサービスであるとは言えると思う。
このサービスが特に威力を発揮するのは、主に地方在住者にとってだろう。ファッション誌自体は全国どこのコンビニでも発売されているけれど、中に掲載されている洋服は東京のショップに集中することが多く、近くの店では扱っていない。
その結果、雑誌の気に入ったアイテムの載ったページを何度も繰り返し眺めながら、そのアイテム風の品物を近くのショップで探す。もちろん、同じようなアイテムがあるはずもなく、かといって旅費を払って東京にまで出るわけにも行かず、結果として断念する(あるいは妥協する)。本当にどうしても欲しいアイテムだと思い余ってメーカーに電話をしたりするのだけれど、取り寄せに応じないショップがあったり、取り寄せができても入金方法などが煩雑で面倒だったりする。そんな苦労(?)をしてきたファッションにこだわりのある10代後半から20代前半くらいまでの人にとっては、かなり喉から手が出るようなサービスなんじゃないだろうか。
社長自身(まだ20代後半)も学生時代は地方都市に住み、雑誌を読みながら、欲しい商品がなかなか近くで手に入らないいらだちを感じていたのだという。まさにありそうでなかったサービスだけれど、ヤマト運輸の社内ベンチャーから出来上がったというところに必然性のようなものがあって面白い。ただのアイデアを、自前の配送網をバックに現実のものとするのだから。やっぱり、起業をする人には客観的にインフラ等を考えながらも、あったらいいなを形にする強い熱意があるのだろう。
ただし、問題はコストだ。記事によると代行手数料は送料込みで、商品単価1万円未満は一律3150円なのだそうだ。そこから2万円単位で1000円から2000円上乗せされていく。そして最終的に10万円から30万円未満では15000円の手数料となる。その手数料収入は、ドリームクリエイトと提携先の雑誌社で折半するのだそうだ。もちろん、サービスの利用客の増加に合わせて、手数料は段階的に引き下げていく予定ではあるようだけれど。
この手数料のさじ加減が結構考え抜いたところなのだろう。メーカーに取り寄せをする手間隙や、メーカーに商品を取りに行く運賃、顧客のところへ送る運賃、間に絡む様々な人件費、そして利益。そういった部分を勘案してこの金額に落ち着いたのだと思うのだけれど、一消費者としてはやっぱり高いような気がしてしまう。10000円のセーターを買うために、3150円の手数料を支払うというのは、いくら雑誌に載っている商品だと言っても、ちょっと高いように思えてしまうのだ。確かに新幹線代よりは随分と安いけれど、かと言ってもろ手を挙げて喜んで払うことのできる金額じゃない。
感覚的に言うと、高くても1500円くらいなんじゃないかという気がする。
ちなみに、5月のニュースリリースでは売上目標が3年後に年商5億円だったのだけれど、MJの記事の会社概要では07年3月期に売上高1億円を目標と変更になっている。これは逆に、現実的に事業としての分岐点が見えてきたということなのだと思うのだけれど。
あとは、その手数料を高いと感じるか安いと感じるかは、やっぱり誌面づくりの力によるのだろうなと思う。地方に住んでいる人が、あるいは都内に住んでいても忙しくて買い物に行くことができない人が、雑誌を見て「これこそが私の欲しかったものだ」と思えるような商品をいくつ掲載することができるか。これはもう、本当に編集者の力だ。
そして、そういった雑誌でありさえすれば、「相対的にこの服」ではなく「絶対的にこの服」になるわけだから、手数料は相対的に安く感じられるようになるのだろう。また、誌面の魅力も高まるだろうし、その結果同じような雑誌の中での差別化も可能となるだろう。
いずれにしても、インターネット時代の紙媒体の魅力を高めるためにも、この新しいサービスがうまくいけばいいのにと思う。
さて、3年後には、どうなっているのだろう?
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お知らせ
日経MJ(流通新聞)は面白いですよ。カラーページも多く、読みやすいし。