デスピサロの描写について:勝手に「いい人」改変することが、むしろ有害であるという話

2024-08-08 11:35:23 | ゲームよろず

 

 

ドラクエ4の勇者の故郷が襲われるシーンか・・・以前「ドラクエとかたき討ち」でも書いたが、スタートから「君は勇者です。魔王を倒しなさい。以上」なドラクエ1~3と違い(それは旅立ち前の「儀式」に過ぎない)、ドラクエ4・5においては身近な人間が目の前で殺されるという演出により、「かたき討ち」という形で敵を倒す動機づけが創出される(ドラクエ6はこの構造から脱却しようとしたのか、「夢の世界」なるものを設けた結果、ゲーム性としてはともかく話のダイナミズムが失われて迷走した感があった)。

 

ドラクエ4は、その後でデスピサロが(エビルプリーストの陰謀とはいえ)ロザリーを人間に殺されたことによって絶対人間滅ぼすマンになるという構造が皮肉な訳だが(これってピサロナイトを倒さなかったら防げたのでは…)、ともあれその前に、勇者の周囲の人間を皆殺しにしているという点は銘記しておくべきだろう。

 

というわけで、PS版をプレイした時に追加された第6章で陰謀に気付いたピサロと共闘する段になっても、自分は「お前が薄汚い友人殺しである事には何ら変わりはない」と思いながらプレイしていたものだ(ドラクエだけで説明するとわかりづらいので、ここでは「undertale」などを想起してもらうのがよいかな)。

 

言い換えると、第6章での共闘はあくまで「手打ち」であって、決して「赦し」ではない。共通の目的のために今は鉾を収めるが、それはお前の所業を肯定したという意味では全くない、という言い方もできるだろう。歴史においてもこういう事例は多々見られるので(外交ではしばしば「ごめんね(怒)」「いいよ(怒)」というやり取りが生じるw)、ここまで含めてそれなりに納得できる展開である。

 

しかし、だ。伝聞情報なので間違っていたら申し訳ないのだが、ドラクエモンスターズ3では、「勇者の村を滅ぼしたのはデスピサロの影武者が勇み足でやってしまったこと」という後付け設定をしているらしい。これを聞いて、英雄とかを作り出すためによく使われる歴史修正の実例がこちらデス(・∀・)と思わず笑ったものだ。要するにこれは、デスピサロを主人公に据えた作品でプレイヤーの違和感を緩和するためのに(つまり製作者側の都合で)、「根っからの悪者ではない」という好感度調整を目的とした改変を行ったのだろう(ちなみにこの辺りは、例えば『北斗の拳』のシンやサウザーについて、同情すべき面ばかりが強調されがで、それまで行った残虐行為のことはほとんど綺麗に忘却されていることなどとも関係するものがある)。

 

実際の歴史を考えてみると、他者であれ社会であれ歴史であれ、ノイズなき存在では決してありえない。つまり理解が難しい側面であったり、両義的な評価ができるものだったり、理解はできるが自分にはどうしても承諾しがたいものだったりと、様々な懸隔や軋轢が自分との間に存在するのが当たり前なのである。

 

よって、ピサロがたとえ仲間になってともに「真の悪」を倒そうと闘っても、決してピサロの過去が消滅するわけでもなければ、全て肯定できる訳でもない。その残余があるからこそ、極めてご都合主義的な第6章の追加は、ギリギリ許容できるものになっていたのではないか。

 

しかしここにきて、周りの人間が忖度して勝手にやったこと=ピサロ自身は悪くないという設定を追加することで、主人公ピサロを受け入れるための様々なハードルを下げ、無理くり受容可能な存在に仕立て上げたというわけだ。

 

その意味で言えば、「すり寄りのためのノイズ排除」によって生み出された欺瞞に慣れ親しむことは、ゲームとしては単なる演出の一つで結構だが、現実には他者理解・歴史理解いずれにおいても極めて有害であると言っていい。

 

そうした単純化された物の見方の先には、「陰謀論」という名の奈落が待ち受けており、そこでは、都合のいい時はひたすら持ち上げ、ひとたび不都合なことがあれば袋叩きにするという全肯定=信者と全否定=アンチのバカ騒ぎに終始することになるだろう(まあその方が、葛藤や不安に陥ることがないから「快適」なんだよね)。

 

たとえ好ましいと思っている存在であっても、悪しき部分は受け止める。あるいは逆に自分が好ましいと感じていない存在であっても、その合理性や必然性など良き部分をきちんと理解しようとする態度に立つ(無理に肯定しろという話ではないので悪しからず)・・・これこそ、複雑化する社会の中で求められる姿勢と言っていいのではないか。

 

その意味では、いかなる手法を用いれば懐疑の視点や是々非々の思考ができない人間を創造(量産)できるかの参考事例として、今回述べたドラクエ4からドラクエモンスターズ3の「歴史改変」は興味深かったので、言及してみた次第である。


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