kanonを斬る

2012-06-17 17:54:04 | ゲームレビュー

この記事を書いたのはもう7年近く前のことになるだろうか(とある事情で、一度PCゲーム関連の記事はほぼ全て削除している)。作品自体も、世に出てから今や10年以上が経過した。ではなぜ、今頃そんな昔のものを取り上げるのか?それは「江古田ちゃん~『猛禽』と適応~」や次に掲載する記事と合わせてみると、おそらくよくわかるだろう。

 

[原文]

(概要)
1999年にkeyより発売されたPCゲーム。その後ドリキャスなどにも移植され、「泣きゲー」というジャンルを定着させた名作、とされる。

(感想)
プレイヤーを舐めるんじゃねえ!!
製作会社は違うが方向性の似た「one」が「泣きゲー」として売れたことを受けての内容なんだろうが、「泣かせよう」という意図が露骨すぎてうんざりする。しかも、そういった泣きの場面に至る必然性が全くない。無理やり泣きの要素を押しこんだのが見え見えなのである。

(「泣き」に至る構造)
例として、重病を患っている子のシナリオを挙げよう。学校にいつも私服で現れる子が、(例によって病名は出ないところのw)難病にかかっているとわかるのが大体シナリオの中盤くらい(それまではほのぼのとしつつ独特な掛け合いが展開される)。これは(起承転結の)「転」の場面の入口ということが出来る。通常、ここから病気との闘いや、それを応援しようとする主人公、それと絡む人間関係といったあたりが描写されるところだろう。ところが、だ。なぜかいきなり病気が治っちゃうのですw何の前触れもなく。理由付けは「奇跡」を願ったから、だそうだ。はぁぁぁ~?何じゃそりゃ!!伏線もねえし全く意味がわからんw

かように、「転」の始めから「結」の終わりまで一気にぶっ飛んでいるわけである。百歩譲って、「理由のない「奇跡」とそれによる救いがテーマだからこれでいい」という主張もありかもしれない。しかし、だ。それこそ「奇跡」を強調するためにも登場人物たちの苦悩や絶望が描かれなければおかしい。ところが実際のゲームでは、「相手の抱えているものを知る→なぜか助かる」という肝心のところが全く抜け落ちたものになってしまっているのだ。これでは、「奇跡」が必然性・脈絡のあるものと受け取れという方が無理な話だし、それどころか、主人公や相手の苦悩といったものを解釈ないし感情移入することすら不可能である。

以上より、演出的・テーマ的に完全に失敗ということがまず言える。だが、より重要なのはここからである。なぜ、そのような伏線なしの無理な展開をしてまで「奇跡」というものを入れたのだろうか?ここで、「転」→「結」という展開の中で、「キャラクターの背負っているものの明示(=Down)→奇跡による救い(=Up)」という構造が存在することに注目される。要するに「落として上げる」という単純な感動の構造である。

(製作者側の意図)
このように見てくれば、Kanonが無理をして「奇跡」というのを持ってきた意図が理解できるのではないか。つまり、感動の構造をてっとり早く演出するために(=真ん中のめんどくさい表現を省くために)「奇跡」という便利な要素を持ち出してきた、ということである。

以上のように考えた時、その裏に「どうせお前ら感動する骨組みさえあれば満足なんだろ?」というような製作者側のプレイヤーに対する侮り・嘲りを感じずにはいられない。そういった感情があるから、ヒロインの存在意義はおざなりなままだし、何で狐が人間になるのか説明しないし、自身の剣で体を滅ぼしたはずなのに何故か生きてるし、「奇跡」の伏線が全くないということ対しても平気でいられるのだろう。そんな態度に向かって、今一度繰り返したい。プレイヤーを舐めるんじゃねえ!!

(補足)
こう書いていくと、「そんなご都合どこにでもあることじゃん」という反論があるかもしれない。それは確かにその通りだ。どこまでいっても虚構である以上そういうものが付いてまわる。だがしかし、それに安住して枠組みだけ恥ずかしげもなく提示するという神経を、私は到底容認できそうにない。その理由は、先ほど述べたように、それがプレイヤーに対する侮り・嘲りだと感じるからである。


でも一番の問題は、こんな滅茶苦茶なゲームで感動したってやつが結構いるということのような気がする。「奇跡」についての伏線も、そして後付けすらもなく、「転」→「結」の中で登場人物の感情の動きが全くと言っていいほど出てこないのに、よく感動できるなとむしろ感心してしまう。このあたり、戦中のアジテート演説・映画といったものによる意識操作に通ずるものが……ないかw


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