金融義賊:認知の歪み、巨額投資詐欺、プロパガンダの手法理解

2022-12-27 10:49:49 | 感想など

 

 

 

 

 

 

 

これまでは、あたかも「能力を持った人間が苦しい環境から努力して這い上がり、世のシステム的不公正を正す」かのような展開だった「金融義賊」が、大学時代の話から一転、巨額投資詐欺を仕掛ける後半戦の話となっている。

 

元々主人公の顧客は様々な姿にカリカチュアされていたが、それは最初の方こそ「鴨」という(ある意味第三者視点での)冷笑的・批判的ニュアンスが強かったものの、これ以降は主人公の認知の歪みをそのまま表象するものとして視聴者に受け止められるようになるという演出は巧みだと感じた(この辺り、突如出てきたものではなく、「こいつがこうなったのは親・環境のせいだ」というフレーズをやたら繰り返すなどちゃんと伏線も張られていた)。

 

特に第9話では、もっとストレートに自分とは違う苦悩を抱える他人(不動産会社オーナーの孫)を理解しようともしない主人公の姿が描かれており、これは主人公との距離を感じさせることにより、巨額投資詐欺のような犯罪を助長しているわけではない旨を論理・心理の両面で伝えようともしているのだと伺わせる(単にそういう物語というのではなく、証券会社の「本音くん」シリーズなどと連動して「世の中の仕組み」を説明する内容にちゃんと構成しているもあたりさすがF氏というところか。今回も主人公から距離を取る演出をわかりやすく入れることで、投資詐欺の注意喚起という性質がわかりやすく出るようにもなっている)。

 

「無能投票」で最後に選考の注意点という「オチ」をつけるのもそうだが、視聴者の心理を読むのに本当長けているなと思う。なお、こういう登場人物たちへの感情移入のコントロールを理解することは、各種プロパガンダの制作メソッドを理解しそれと距離を取ることとも深く関連しているのは言うまでもない。その意味でも、今回の一連の主人公の見せ方は非常に示唆に富むものであり、「弱者」が他の「弱者」の弱みを理解できるとは限らない、既存のシステムにただ適応していれば何とかなると思っている人間は無知(つまり「ゼロリスク世代」のようなマインドに未来はない)、といった視点とあわせて参考になる部分が様々あると言えるだろう。


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