ジャニーズ問題に関する国連調査を受けて

 

 

 

 

 

 

調査委員会の報告と被害者の会7人の会見が発表された。かなり長いので、冒頭に大枠を理解しやすいような動画を入れておく。

 

個人的には、想定よりかなり踏み込んだコメントをしてきたなと思う。まあ調査委員会が、ジャニーズ事務所にも、マスメディアにも(さらに言えば日本政府にも)「自浄能力なし」と判断した結果だろう。

 

まあ政治の腐敗やいじめ問題(校内暴力)と似ていて、「基本的にステークホルダー(たち)が利益相反の状態でも真相を明らかにしようと行動する事態は期待しない方がよい」「ゆえに、そう行動せざるをえないような、すなわちそう行動しなければより以上の不利益を被るような仕組みづくりが必要」といった話に繋がるわけで、要するにチェックアンドバランスがいかに重要かということだ(件のビッグモーターで次々と明らかにされているガバナンスの欠如なども想起されるところだろう)。

 

ともあれ今回の指摘を受けてもなお、「とにかく沈静化を待つ」という暗黙のメッセージを出している大手マスメディアは少なくないので、政府がどの程度前のめりにコミットしてくるかにもよるが、この後の推移は概ねこのようなものだろう。すなわち、

１：ジャニーズの国外進出は極めて大きなダメージを負った→国内市場のシュリンクもあり中長期的衰退は確実

２：大手スポンサーのジャニーズ離れが進む→メディアにとっても使い勝手が悪くなる

３：ジャニーズ批判が利益相反でなくなる組織が増える＝忖度する必要がなくなるので、暗部がさらに表に出てくる

４：１・２・３のサイクルの中でファン離れが加速

５：ただし一部のコアファンは残るので、衰退しながらもジャニーズの残滓は存在し続ける
　　(競合他社への流出がどの程度の量・速度で進むかにもよる)

と。

 

他の芸能事務所の調査にも乗り出しているらしいから、それらがどういう反応をするかにもよりそうだ(余計なことをしやがってとジャニーズ事務所へのヘイトが高まるのか、あるいは利害の近い共犯者的にタッグを組むような動きをするのか)。まあ「閉鎖的業界で暗黙知によって運用していると、どういう事態になるか」という好例にはなりそうだが、ともあれこのことで大手マスメディアの性質が変容するとも考え難い。つまり、戦前・戦後の変わり身と同じで、潮目の変化を見てとるや、「始めから問題があると思っていました」ぐらいの顔でジャニーズ叩きを始め、「自分は常に正義のポジションにいる」とアピールしようとするだろう(これは『心でっかちな日本人』で述べられた頻度依存行動と相補均衡とつながる。周囲≒組織という物差ししか持ちにくい日本人にとって、基本組織利益に反する行動は少数派のものとして潰され、結果として組織の自浄作用が働きにくいという話だ)。

 

というわけで、今回の件によって日本のマスメディアの変容はもちろん中長期的衰退が止まることはなく、今後選択肢の幅が狭まり余裕の無くなったマスメディアという名の官僚主義的機構は、さらにいっそう勝ち馬に乗る阿り集団と化すことが予想される。

 

まあともあれ、今回の件でも日本のマスメディアは報道の自由度ランキングが低い理由を自ら証明したわけであり、また旧NHK党が躍進した社会的背景もより明快となり、日本が短期的には決して浮上しえない構造的問題(経済的問題に限らない合併症的状態)を提示した点においては、被害者救済という点では言うまでもないとして、より広い範囲においても、多少の社会的意義があったと評価できるように思う。

 

ちなみに、この報道を受けて国連の問題点や他国の報道の問題点を指摘する向きもあるが、それは当然である。完全無欠の人間などいないように、「完璧な組織」など存在しない。だからこそその欠を補うためのルールが存在する(ちなみにジャニーズ問題へ最初に言及した際、私はカトリック教会の児童虐待とその隠蔽についても触れている)。その意味で言えば、批判者＝全く非のない存在ではないのであり、この状況に対して他国のことをあれこれ指摘すれば自分たちのダメージをコントロールできるかのような発想は、極めて短絡的な二項対立構造でものを捉えており、何ら益のない行為と言える(まあそれでも批判される対象と自己が癒着した意識を持っていれば、感情的に反発してしまうという心のあり様は理解できなくはないが。なお、これについてはジャニーズファンをしている記者たちの座談会というサイゾーウーマンの試みが少し興味深かった)。

 

というわけで、事態の推移を見守っていきたいが、問題点を鋭く指摘しつつも、過剰な期待はせずにドライな判断で仕組みの構築について考えていくのがよいと思われる。

 

以上。