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春雨麗女センセイに聞く、Vtuber活動の実態:あるいはホロライブの「卒業ラッシュ」の構造に関して

2025-04-04 11:34:41 | Vtuber関連

 

 

「ホロライブ卒業ラッシュ」がトレンド入りねえ・・・正直、構造が変わっていない以上は、そりゃ続くだろうさとしか思わない。

 

もちろん、何度も言及しているように、「去る者追わず」的なにじさんじとは違い、「コミュニティ的包摂力」とでも言うべきホロライブの特性が、かえって一般企業では当たり前の退職・離脱でさえブランドイメージを毀損しかねないという皮肉な状況になっている点は踏まえる必要があるけども。

 

じゃあ何で今回わざわざまたこんな記事を書いたのかと言うと、あおぎり高校の春雨麗女がVtuber活動について述べた切り抜きが、ライバーの活動実態や苦労などをかなり解像度高く説明してくれており、これがホロライブのライバー活動やその卒業をライバー側から考える上で非常に示唆的だと思ったからだ。

 

念のため先に言っておくと、麗女は自分がオープンキャンパスでの公開質問に対して返答した時の話をしているだけで、ここでの切り抜きは「ホロライブ」とも「卒業」とも関係がない。しかし、ライバーの側から見た活動やそこにかける思い、あるいはそれにまつわる視聴者側の(必然的に持ちやすい)幻想とのギャップの説明は、(にじさんじはもちろん)ホロライブの卒業が続く理由をまた別の角度で理解を深める一助となるように感じられる。自分はこれまで麗女嬢のことを「肝が据わったおもしれー女」くらいで認識していたが、この配信を見て、ああやっぱりこれだけ活躍している人は、考え方にきちんと筋が通っているんだなと感心した次第(なお、「きちんと筋が通っている」というのは、「とにかく大学を卒業すれば~」とか、「公務員になりさえすれば…」といった自動機械みたいな発想はしていない、ぐらいの意味である)。

 

例えば「楽しいところしか見せないようにしているから、そこだけ見て楽しい仕事のように憧れられる」という趣旨の下りは、「お笑い芸人」などにも共通する幻想だと思うし、あるいは様々な企業とのやり取りを日常的に行うためコミュニケーション力が問われるという部分の話は、普段配信で「pon」な場面を見せることで笑いを取っている彼・彼女たちが、タフな折衝を日々行っているという当たり前のことも気づかせてくれるだろう。

 

これをホロライブに当てはめるなら、一種「女子高」的なコミュニティの特性に由来する庇護欲というか庇護幻想があまりに上手く機能していたことが(これはこれでマーケティングとしては成功しているのだが)、彼女たちを「企業から一方的に搾取されるだけの存在」であるかのようなバイアスを一部視聴者に生むという皮肉な現象の原因となっているように思える。これが単なる表面的な理解に過ぎないことを象徴する好例が姫森ルーナで、そのボイスと立ち居振る舞いこそ「手のかかるお嬢様」風だが、実際には運動神経が抜群であるだけでなく、

 

 

 

 

かなりリアリストでしっかりした発想の持ち主でもある。よって例えば、ルーナイト=自身のファンに姫プされるというゲームスタイルについても、それはあくまで自身のゲーム実況に特性を持たせるためのRPであり、それを本質と考えるのは単純な誤りと言えるだろう(ちなみに、彼女が最初に姫キャラで始めた頃は伸び悩んで苦労していたが、後にそれとギャップのある大人っぽさを適度に出していくことで成功のきっかけを掴み、大きく躍進していった点は興味深い)。

 

またその他にも、行動制限や誹謗中傷の苦労とともに述べた、「継続的な活動で成功するには(やや極端な表現を用いれば)狂気的とさえ言える情熱が背景にある」という趣旨の話もしているが、それは逆に言えば、「VtuberになりたいからVtuberになっている」のではなく(Vtuberとしてとにかく何でもいいから登録者数・再生回数を増やしたいワケではない)、「Vtuberで〇〇を成し遂げたい」からVtuber活動に身を捧げているのであり、ゆえにその柱が他の要素でないがしろにされる状況はレゾンデートルを否定されるのと同じであり、仮に登録者数などで成功裏に見えていたとしても、それは十分に卒業要因となりうる、ということだ(これは例えば企業に勤めて順調に出世していた人でも、自分のやりたい事ができなくなった・他にもっとやりたい事ができたという理由で離職・独立する状況を想起してみるとよい)。

 

もちろん、「やりたい事以外は何一つやらない」というライバーはいないだろうし、それで何とかなるほど確立した地位を築き上げている訳でもないだろう。しかし、上場企業として売り上げを伸ばしていくために会社からライバーに対する案件の絶対数や要求水準がどんどん上がっていくと、仮にそこに多少の選択の自由があったとしても、息苦しさを感じたり、自分がやりたい事以外に時間を取られるケースが増えるのは容易に想像できる(繰り返すが、その「やりたい事」というのは単に~が好きというレベルの話ではなく、「自身がライバーとして活動する熱源」といった己の存在理由ともリンクするものと考えると、すんなり理解しやすいのではないか)。

 

そして「要求されるタスクの負荷」が時間的・身体的・精神的圧迫として「ライバーとしての活動を続ける熱源」や「所属し続けるメリット」を超過した時、卒業という選択がなされるのだろう。

 

なるほどにじさんじであれば、「人それぞれ」の度合いが高いため、ギルザレンⅢ世を典型例として、どこまでもマイペースな活動がやりやすい。しかしホロライブの場合、人数がより少なく相対的に均質性が高いため、どのライバーも色々なものに手を出す機会が多くなる(もちろん偏りはある)。その結果として、バランスよく伸びやすいため登録者の平均値は高くなる一方で、先に述べたようなライバーへの要求水準の上昇が起こると、それが全体へと波及しやすいのだと予測される。

 

もっとも、この話はすでにリグロス結成とその狙いについて触れた2023年9月の記事でも述べているように、前から予測可能な事態であった。繰り返すが、にじさんじのように、ドミナント戦略を取っているがゆえひたすら自分の道を究めることを容認されやすい環境と比べ、ホロライブはタレントの数を絞り込んでいるがゆえにマルチさが求められやすい環境になっており、それがライバーの平均登録者数を押し上げると同時に、業務のオーバーフローも生みやすい構造となっている、と。ゆえに、新たな市場(リグロスの場合はK-POPやダンスなどを軸にした若年層や女性ファン)を開拓すると同時に、分業もどんどん進めていく必要に追われているのではないか、という話であった。

 

記事を書いた当初は所属ライバーの想定年齢も踏まえて10~20年後の話をしていた訳だが、上場したホロライブが活躍の場を急速に広げていかねばならない(売上をあげていかねばならない)速度感とその負担の増大は想定よりも早く、それが仕事内容の変質などとも相まって、すでに1~2年で複数名の卒業・配信活動終了者を出したことの背景になっている、とみることができるだろう。

 

これを解決する策は採用を加速させてライバー=分母を増やすか、あるいは業務量=分子を減らすかのいずれかしかない。とはいえ、ライバーの質を重視する運営を続けている以上は前者の選択などありえないし、また上場という名のポイントオブノーリターンを過ぎたスタートアップ企業としてビジネスチャンスをこのタイミングでみすみす逃すことはできないから、後者の選択もとりえない。以上を踏まえれば、ホロライブの業務を取り巻く構造が短期的に変化することは(少なくとも軽減される方向には)考えられないので、卒業が少なくともしばらくの間続くことに何ら驚きは感じない、という冒頭の話に戻る訳である(まあトレカで大きな収益を上げたことが注目されたように、ライバーになるだけ負荷をかけない形で大きな収入源を作る、といった企業努力もやってはいるのだろうが)。

 

以上見てきたようにホロライブの卒業が続くのは極めて必然的な現象なので、不安にかられたり、それに踊らされ妙なことを書いたり質問したりすることを防ぐためにも、適度な距離感をもってコンテンツに接するのがよいのではないか(ライバーだけでも魅力的な人は他にいくらでもいるしね)、と述べつつ最後に卒業にまつわる構造説明の動画を掲載してこの稿を終えたい。

 

 


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