今回の記事ではVtuberのいわゆる「転生」の話が出てくるので、それがイヤだという方はお戻りください。
紫咲シオンと尾丸ポルカの対談で、シオンがホロライブの活動領域の拡大が対人交流の増大→精神的疲弊となった点について触れていることを紹介した。
この点、(小鳥遊キアラや鷹嶺ルイなどが言及しているように)同じく人見知りの激しい=対人の負担が大きいガウル・グラの疲弊および卒業理由ともリンクする部分があると考えられるが、一方でシオンと対談したポルカも、自身で言うように対人交流を苦手にするエピソードは数多くあり、ここからすると、対人交流の増大が精神的疲弊として卒業理由となるなら、なぜポルカは卒業しないのだろうか?と疑問に思われる向きもあるかもしれない(桃鈴ねねとプライベートで旅行に行った時に、精神的負荷から途中で帰ろうと言ってねねもそれに理解を示して帰宅したエピソードなどはその最たるものの一つだろう)。
もちろん、詳細なことは舞台裏を知らない自分には語りようがないが、ただポルカの話とその来歴を照合するなら、彼女が「織田信姫」として2018年の4月から活動し、そこでの様々な経験と苦労から、違う存在になるために2020年8月に尾丸ポルカとしてホロライブからデビューしたというのが大きいのではないか。
そこでの活動は、様々身体を張った企画や、いじりいじられるような、言わば芸人路線そのものとも言え、芸達者の彼女の力を発揮するという意味ではよく合致した活動方針だったと言える(一応言っておくと、2018年ならホロライブでも虫を食べる企画などがあり、犬山たまきがいわゆる「おしがま」配信をするなど、認知度の低かったVtuberたちが、身体を張った過激な企画で爪痕を残そうとする動きが一般的だった)。
とはいえ、彼女の事務所からの扱われ方を見る限り、便利な芸人として使い倒されている感も強く、またファンからもあくまで芸人としての要素が濃い存在としてみなされた結果として、「愛される存在」になることを強く望んだのではないか。それが最も典型的に表れたのが天開司との対談である。
ここで彼女は、自分が活動していて「愛されたいと思った」としみじみ漏らし、天開がどう言葉をかけるべきか思案する…という場面がある。そのニュアンスを推し量ることは難しいが、すでに卒業と転生が決まっていたこの2020年2月に出てきた言葉に万感の思いが込められていたことは想像に難くない(というか、そう思わずにはいられないほどには実感のこもった話し方をしている)。
このあたり、ポルカが新たな転生先を考えた時に、にじさんじではなくホロライブを選んだ理由の話も興味深い。
自己分析が非常に的確で言語化能力も高いことに感心するが、要はどちらの事務所にも合格はできるだろうが、にじさんじの場合はそのまま芸人として活動することになり、ホロライブではアイドルとして活動することになるだろう、と。前者はこれまでの実績もあるし、また事務所の体制から以前より快適に仕事はできるだろうが、それはある種これまでの活動の延長線上であり、大きな変化はない。しかしホロライブでのアイドル路線については、これまでと違う世界に飛び込む形になる。そして、活動の中で愛されることを強く望んだ彼女は、「芸人>アイドル」のにじさんじよりも、「アイドル>芸人」のホロライブを新天地として選んだということだ(言うまでもないことだが、これはどちらが善ということではなく、自分がどのような仕事をしたいか、どのような自分でありたいか、という話である)。
このように考えてみると、尾丸ポルカがホロライブに入る理由は「アイドルとして愛される存在になりたかった」ということであり(ただしこれは単にちやほやされたいというのではなく人を惹きつけるスキルは自分に備わっているという自負の表れでもあるだろう)、言わば「二次元のアバターを持ったストリーマー」という新しい業種としてホロライブに参入した紫咲シオンとは状況が大きく違うことがわかる。つまり、その後の活動の中でギャップがどんどん大きくなっていったシオンに対し、むしろ始めからそういうものだと捉えているポルカの差異であり、前者はそれがストレスになりやすかった一方で、後者はそれほどにはストレスに感じなかったということなのだろう(ここでの諸々の齟齬を一言で表現すれば、「方向性の違い」というものと思われる)。
もちろん、ポルカもホロライブに加入した後はギャップに驚いたり戸惑ったりする場面もあったと思われる。ただ、これについては
ときのそらも述べているような過酷な活動の経験をしていること、また仕事であれば割り切れる気質と要求へのアジャスト力が高いこともあって(仕事人気質なのは前掲のホロライブ加入についての説明動画からもうかがえる)、今もなお安定的に活動を続けられているものと思われる。
紫咲シオンもまた、新しい活動の場を求めていくものと思われるが、その選択が幸福な結果につながることを祈りたい。
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