ファストフード的コンテンツとの付き合い方

2022-10-25 11:21:21 | 日記

 

 

「いわゆる『ファスト教養』とその問題点」という記事で、「ファスト教養」の特徴を「ファストフードのように簡単に摂取できること」、「ビジネスに役立つか否か」という視点が全面化していることの2つだと述べた。

 

そして1については、そもそも簡便に理解できるよう加工されたマテリアルは昔から多々存在しているのであって、ひとり「ファスト教養」のみの特徴ではなく、またそもそもどのようなマテリアルであれ鵜呑みにせず一度カッコに入れて理解したり、クロスチェックをすることが大事であると述べた(例えば、本の形態であれば信頼してよく、一方You Tube動画であれば疑うべきなどというのは、ただの権威主義でしかない)。

 

というわけで一例として、百年戦争の中でも有名な戦闘の一つ、ポワティエの戦いを取り上げた動画を冒頭で紹介してみた。非常に興味深いのは、戦闘そのものだけでなくその経緯、つまりイングランド側の略奪行為とそれに対するジャン世(やフランス軍)の怒りを描き、略奪物のため移動が遅くなってフランス軍に追い付かれたこと、また、荷馬車を利用し弓兵に対する側面攻撃の選択肢を消しておいた=正面から突撃せざるをえない状態にしたことがわかるような造りになっている。

 

その後の戦闘についてはそれほど難しい点はないだろう。ロングボウへの対策を施した騎兵は正面攻撃を跳ね返したが、側面に回り込んでの攻撃により結局崩されてしまった。その後はフランス歩兵の進軍に対しまたも弓兵の攻撃が絶大な効果を発揮し、何とかイングランド歩兵の元までたどり着いて白兵戦に持ち込んだものの、敗れ去った。

 

ここでイングランド兵が祈りを捧げるシーンになった後、フランス側の重装歩兵による波状攻撃を受け、一時破綻の危機にさらされるが、後方に隠して(温存して)おいた騎兵を投入してフランス軍に側面攻撃をしかけ、これで戦線が崩れたところを正面・側面から攻撃して押し返し、ジャン2世を捕らえるにいたって勝利した、という展開である(一応言葉で説明はしたが、動画を見た方が圧倒的にわかりやすいのではないかと思う)。

 

さて、ではこれを見て全てがわかるかと言えば、もちろんそうではない。これを軸に深められるものを列挙していくと、

〇イングランド側は何で略奪してたん?
→「騎行」と呼ばれる敵方を疲弊させるための戦略的な略奪行為
→そもそもイングランド軍はフランスに渡っていたため物資を現地調達する必要があった(cf.馬車限界・クレフェルト『補給戦』)

〇馬から落ちて全然動けないのは何で?
→プレートアーマーの重さは40キロ程度になることもあり、装着したままで俊敏に動くのは困難だった

〇何で荷車使ったの?さすがに他になかったの?
→対騎兵という意味では、クレシーの戦いでは馬防柵が持ち入れられた。しかし、イングランド軍は移動中フランス軍に捕捉された状態のため、そんな陣形構築の時間はなかったのである。ちなみに騎兵突撃(ランスチャージ)の威力は驚異的なのでこれに対抗するために地形を利用するなどの工夫は他でもなされ、有名なのは金拍車の戦いである(長槍を扱ういわゆる「パイク兵」も、対騎兵として重宝された)。

〇いろいろな武器があるけどこれは何なん?
→ぱっと見でわかる弓、槍、剣の他は、ハルバートやモーニングスターなどが使われている(以前書いた「歴史を変えた技術・モノ」なども参照)。

〇王は殺さず捕虜にするの?
→貴人は捕虜にして身代金を分捕るのが一般的。

〇略奪かましまくってる奴らが「主よ感謝いたします」とかタチの悪い冗談だろ( ゚Д゚)
→そういうダブスタが普通にありましたよ、という話。ちなみにカトリック同士でこうなのだから、まして異教徒のユダヤ人やムスリムであれば十字軍のように次々と殺していくケースはあったし、大航海時代やそこで活躍したコンキスタドーレスたちは、キリスト教徒じゃないから現地民を酷使して死んでも知らんがな状態だったわけである。こういう場合、思想ではなく実際の行動がどのようなものであるかに注目した方がよい。

などなど。

 

一方で、次のような突っ込みもできる。

△当時の剣では身体を両断はできないんでは?
→少なくとも片手剣によって、動いている人間をあのように切り倒すのは無理だろう(後世ランツクネヒトのツヴァイハンダー=両手剣とかならどうなんやろな)。基本、剣は日本刀と違って切断というより叩き潰す側面が強かったので、あんな斬鉄剣みたいな切れ味は期待できませんよと😅

△馬って弓矢が刺さったらこんなに倒れるの?
→こんなにバスバス倒れない。が、暴れて制御できなくなり、結局騎馬突撃は破綻する。

という具合に。

 

つまり、繰り返すが、こういう動画をフック・土台として有効活用する構え=疑問点をきちんと掘り下げる意思と、穏健な懐疑主義に基づいた鵜呑みにしない姿勢が重要なのである。そも無謬な動画などというものを期待するのが間違っているのであり、始めから知識のストックであり、言い換えればストックでしかないという戒めを常に持っておくべきと言えるだろう。

 

逆にここからは、「ファスト教養」について、「ビジネスに役立ちさえすればいい」という2の性質から、「正確さや厳密さを求めないし別にいちいち検証しようともしない」という姿勢になりやすく、それが過剰に単純化したコンテンツと結びついた時に決めつけやレッテル貼りに類似する行為が横行しやすいという危険性と結びつく、と改めて指摘しておくことができる。

 

というわけで今回は以上。

 

次回は「検証する態度の養成」という少し別の角度から記事を書いていこうと思う。では。


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