菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

講義録: 株式会社の基本構造(3) ~所有と経営の分離(後編)

2012-02-01 00:00:00 | 会社法学への誘い

 金を持っている人間が必ずしも商売がうまいとは限らないし、逆に、資金の無い人間だからといって会社経営の能力が劣っているとも限りません。ここでいう資金を持っている人間とは、会社に出資する資力のある者のことですが、これが株式会社に出資すれば、株主となるわけです。株主は、実質的には会社の所有者の地位に立ちます。出資することによって、会社を割合的に共有するからです。

 所有者である株主が、必ずしも商売がうまく会社経営の能力があるとはいえません。むしろ商売の才覚の長けた者に会社の経営を委ねたほうが、効率的な企業経営実現のためには合理的です。特に株式会社では、株主が多数にのぼる可能性もありますから、自分で会社の経営に直接当たることができません。そこで、株主としては株主総会を組織し(会社法295条)、その総会を通じて取締役を選び(同法329条)、経営の専門家である彼らに会社の経営を任せました。株式会社では、会社として上手に金儲けをするために、このように原則的に会社の所有と経営を分離せしめたのです。

 もう一度繰り返しになりますが、株主は株式会社のオーナーです。株主が集まったオーナー会議のことを株主総会というわけですが、ここで会社のすべてを決めるわけではありません。なぜならば、このオーナー会議に参ずる人々は、確かに出資をする財力はありますが、経営が上手いかどうかわからないからです。そこで、オーナー会議では、株主のメンバーのなかからでも構いませんが、外からでも構わないので、とにかく経営能力がある商才に長けた人物を選び、会社の運営を委ねます。それが株主総会の取締役選任決議となるわけです。

     

 会社法331条2項には「株式会社は、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない」と規定しています。定款とは、その会社の基本ルールです。たとえば「うちの会社の経営者になるのなら、会社の株式を持ってもらわないと、責任経営ができないからね」と言うのは自由ですが、定款に「当社の取締役は、当社発行株式を一株以上保有しなければならない」などと定めても意味がありません。株主のなかに経営者の資質ある人物がいれば、取締役に選んでも構いませんが、「株主でなければ、経営者になれない」というルールは御法度なのです。これが所有と経営の分離の表現規定の一つであります。

 しかし、現実の経済社会では、中小規模の同族的な会社など、株主構成が固定化し、相互の人的関係が密接な株式会社が多数存在しています。このような閉鎖的な株式会社においては、定款で株式に譲渡制限が付され、実質的に一人のオーナー経営者によって会社運営がなされており、所有と経営の分離が希薄になっています。この点、先ほどの331条2項にも「ただし、公開会社でない株式会社においては、この限りでない」との但書きがあります。

(次回に続く)