菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

顧問と報告義務

2012-02-18 11:08:49 | 日記

 過日、日本経済新聞から取材を受けました。

 具体的には「大王製紙側と創業家側とで激しく争っている現状下、10月に同社の顧問を解職された井川高雄氏が『不当に解職された』と主張しているが、この事象について、法的にどう解釈できるのか」という取材内容でした。
 会社側は顧問の解職理由として、①創業家の支配権を薄める必要がある、②井川高雄氏は息子である井川意高氏の不祥事を知りながら取締役会に報告しなかった―などを挙げ、一方、井川高雄氏は①息子である井川意高氏の不祥事と自身はそれぞれ独立した社会人である、②取締役でもない私に報告義務はない―と主張しているのだそうです。

〔顧問の意義〕
 顧問とは、法的な規定が無く、いわば企業が任意に定めた職制です。多くの企業においては、経営に対する意見を述べる役職ではありますが、意志決定を行う権限を持たせていません。引退した役員(特に代表取締役などの経営トップ経験者)が就任する例が多く、取締役を兼任しない相談役に近似していると考えれば宜しいのではないでしょうか。

〔法的な位置づけ〕
 法的には委任ないし準委任の契約によるものと考えられます。したがって、その職責は各社の委任契約の内容によることとなり、一律に議論することはできません。なお、委任は委任者と受任者との間の個人的な信頼関係を基礎として成り立っている契約ですから、この信頼関係が損なわれた場合を考慮して、民法上は各当事者はいつでも委任契約を解除することができます(同法651条1項)。

〔本件の検証〕
 確かに取締役には法律上の報告義務がありますが(会社法357条等)、取締役を兼任しない顧問である場合、その報告義務の有無は、あくまで顧問任用(委任)契約の内容によります。したがって、大王製紙の顧問契約の内容を精査しなければ、その当否を検討することはできないものと思料いたします。また、解職の可否についても、契約の解職事由を検証する必要がありますが、委任契約の性質からは、おそらく会社側からの一方的な解職通告にも一定の理由があるのではないかと考えます。

 以上のコメントが要約され、2月15日の日経産業新聞には、
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 社長や会長経験者が就任することが多い顧問だが、会社法にその規定はない。会社
が任意に顧問という職制を定め、独自に顧問委任契約を結ぶケースが多い。弁護士で
慶応義塾大学大学院の菅原貴与志教授は「顧問の報告義務の有無は、顧問委任契約の
内容による。多くの企業で顧問は経営に意見を述べる役職だが意思決定の権限は持っ
ていない」とし、顧問に報告義務があるとは言えない場合が多いと指摘する。
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と記事に掲載されました。



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