野良犬とか野良猫とか言う。
野良をわざわざ『日本国語大辞典』で引くと、
①野、野原。草などのしげっている所。
②田、または畑。田畑。
とある。
地面ですね。
野良犬とか野良猫とか言うけれど、
野良鳥とは言わない。
鳥は野良ではなく空に住むものだからか。
②の意味の野良は作物に関わるので、所有権がはっきりしているが、
空は誰のものでもない。
そういう違いも有るかもしれない。
あくまで生活感覚においての話をしている。
しかし私が今日書くのは、のらどりのことである。
鳥ではなく、鶏。
にわとりである。
飛べないので、空に住むものではない。
地を歩くものであるし、作物に深く関わる。
深く関わるって、生む、ってことだ。
なんたって、卵を生む。
いやしかし、私が今日書く野良鶏は、
おんどりなんである。
卵を生まない。
ただの野良鶏なんである。
そういう野良鶏が、
うちの庭に居着いた。
困る。
※
45年前にここに引っ越してきた時、
隣は鶏小屋だった。
我が家の寝室から数メートルのところが鶏小屋だった。
早朝、鶏たちが時を作る。
早朝?
そう、早朝5時に鳴く。
と思っていたら、ある時期から4時に鳴くようになってきた。
と思ううちに3時に早まった。
そうやって年々シフトアップしていき、
数年後、しまいには1時頃から鳴き始めるようになった。
夜中じゃないか。
※
鶏小屋は今は無い。
朝は鶏が鳴くのが当たり前だと思って育ってきたので、
朝、鶏の声が聞こえないのは、なんだか寂しい。
※
鶏の声は、慣れると聞こえなくなる。
引っ越してきてしばらくは、鶏の声で目が覚めたものだが、
そのうち、そうでもなくなった。
聞こえて目が覚めたとしても、気になるというほどのことは無い。
コッケコッ、コーーーーー
のどかな響きだ。
※
久しぶりに、鶏の声で目が覚めた。
久しぶりに鶏の声がするから、鶏の声で目が覚めたわけだ。
隣の農家がまた鶏を飼い始めたのだろうか。
ご主人が亡くなってから、すっかり鶏は飼わなくなったはずだが。
翌朝も、鶏の声で目が覚めた。
3時だよ。
もう少し寝かせてくれよ。
声のデカい鶏だなあ。
いや、デカいんじゃない、近いのか。
むむ?
ばばばばば
コッケコッ、コーーーーー
鳴く前の羽ばたきの音もはっきり聞こえる。
近い。
えーと。
隣からではなく、ウチの庭のほうから聞こえている。
ほうからっていうか庭からか。
飼い犬も目を覚ました。
外を見て落ち着きの無い様子だ。
※
この頃は朝5時頃に犬の散歩に行く。
犬は鶏の声がしてから、寝付けなくなった。
落ち着かない。
そうなるとこちらも眠れない。
4時に散歩に出ることにした。
まだ暗い。
玄関を開けて暗い中へ出た。
と、
犬が立ちすくんだ。
闇の中に白い姿が見える。
胸をスッと伸ばした、堂々たる白色レグホンだ。
こいつか。
※
犬は、散歩には行きたいが、
見慣れない生き物が立ちはだかっているので、
足を踏み出そうか出すまいか、戸惑っている。
でも散歩には行きたい。
だったら素早く通り過ぎたい。
犬が鶏のわきへグッと進んだ瞬間、
鶏は犬の顔面に飛び蹴りを食らわせた。
夜明け前の近所中に響きわたる大きさで
我が犬ウーゴくんは「キャウン!」と鳴いて跳びすさった。
と思ったら鶏は連続で私にも蹴りを入れてきた。
「うええっ!」
私の声も閑静な住宅街に響いた。
※
逃げるように散歩に出かけた。
ドッグランでウンチをしたり、
朝早くに散歩する顔見知りの人と挨拶を交わしたり、
一ヶ所だけ初めての道を歩いたりして
家まであと20メートルという辺りまで帰って来て
やっと思い出した。
あいつ、いるのか?
いた。
門先にいる。
立っている。
堂々と、立っている。
我が犬ウーゴくんはそれを見るとすかさず回れ右。
おいおい。
家に帰らないのかい。
私は鶏を蹴っ飛ばしてやる覚悟で突き進
もうとしたが、
我が犬ウーゴくんがビビってしまって進みたがらない。
尻を落としてグイグイと逆方向へ引っ張る。
そんな犬を引っ張りつつ、野良鶏へ近付く。
犬の後方へのベクトルと私の前進ベクトルと鶏の敵意のベクトルが
衝突したり反発したり。
※
結局、人間である私が、身体の大きさと重さを盾にして進み、
野良鶏を蹴っ飛ばして道を切り開き、
玄関へと我が犬ウーゴくんを引きずり導き、
なんとか帰宅した。
※
午前中に隣家に行って聞いてみたが、うちのではない今は飼っていない
とのことだった。
この後、数日間この野良鶏に私は悩まされることになる。
つづく
野良をわざわざ『日本国語大辞典』で引くと、
①野、野原。草などのしげっている所。
②田、または畑。田畑。
とある。
地面ですね。
野良犬とか野良猫とか言うけれど、
野良鳥とは言わない。
鳥は野良ではなく空に住むものだからか。
②の意味の野良は作物に関わるので、所有権がはっきりしているが、
空は誰のものでもない。
そういう違いも有るかもしれない。
あくまで生活感覚においての話をしている。
しかし私が今日書くのは、のらどりのことである。
鳥ではなく、鶏。
にわとりである。
飛べないので、空に住むものではない。
地を歩くものであるし、作物に深く関わる。
深く関わるって、生む、ってことだ。
なんたって、卵を生む。
いやしかし、私が今日書く野良鶏は、
おんどりなんである。
卵を生まない。
ただの野良鶏なんである。
そういう野良鶏が、
うちの庭に居着いた。
困る。
※
45年前にここに引っ越してきた時、
隣は鶏小屋だった。
我が家の寝室から数メートルのところが鶏小屋だった。
早朝、鶏たちが時を作る。
早朝?
そう、早朝5時に鳴く。
と思っていたら、ある時期から4時に鳴くようになってきた。
と思ううちに3時に早まった。
そうやって年々シフトアップしていき、
数年後、しまいには1時頃から鳴き始めるようになった。
夜中じゃないか。
※
鶏小屋は今は無い。
朝は鶏が鳴くのが当たり前だと思って育ってきたので、
朝、鶏の声が聞こえないのは、なんだか寂しい。
※
鶏の声は、慣れると聞こえなくなる。
引っ越してきてしばらくは、鶏の声で目が覚めたものだが、
そのうち、そうでもなくなった。
聞こえて目が覚めたとしても、気になるというほどのことは無い。
コッケコッ、コーーーーー
のどかな響きだ。
※
久しぶりに、鶏の声で目が覚めた。
久しぶりに鶏の声がするから、鶏の声で目が覚めたわけだ。
隣の農家がまた鶏を飼い始めたのだろうか。
ご主人が亡くなってから、すっかり鶏は飼わなくなったはずだが。
翌朝も、鶏の声で目が覚めた。
3時だよ。
もう少し寝かせてくれよ。
声のデカい鶏だなあ。
いや、デカいんじゃない、近いのか。
むむ?
ばばばばば
コッケコッ、コーーーーー
鳴く前の羽ばたきの音もはっきり聞こえる。
近い。
えーと。
隣からではなく、ウチの庭のほうから聞こえている。
ほうからっていうか庭からか。
飼い犬も目を覚ました。
外を見て落ち着きの無い様子だ。
※
この頃は朝5時頃に犬の散歩に行く。
犬は鶏の声がしてから、寝付けなくなった。
落ち着かない。
そうなるとこちらも眠れない。
4時に散歩に出ることにした。
まだ暗い。
玄関を開けて暗い中へ出た。
と、
犬が立ちすくんだ。
闇の中に白い姿が見える。
胸をスッと伸ばした、堂々たる白色レグホンだ。
こいつか。
※
犬は、散歩には行きたいが、
見慣れない生き物が立ちはだかっているので、
足を踏み出そうか出すまいか、戸惑っている。
でも散歩には行きたい。
だったら素早く通り過ぎたい。
犬が鶏のわきへグッと進んだ瞬間、
鶏は犬の顔面に飛び蹴りを食らわせた。
夜明け前の近所中に響きわたる大きさで
我が犬ウーゴくんは「キャウン!」と鳴いて跳びすさった。
と思ったら鶏は連続で私にも蹴りを入れてきた。
「うええっ!」
私の声も閑静な住宅街に響いた。
※
逃げるように散歩に出かけた。
ドッグランでウンチをしたり、
朝早くに散歩する顔見知りの人と挨拶を交わしたり、
一ヶ所だけ初めての道を歩いたりして
家まであと20メートルという辺りまで帰って来て
やっと思い出した。
あいつ、いるのか?
いた。
門先にいる。
立っている。
堂々と、立っている。
我が犬ウーゴくんはそれを見るとすかさず回れ右。
おいおい。
家に帰らないのかい。
私は鶏を蹴っ飛ばしてやる覚悟で突き進
もうとしたが、
我が犬ウーゴくんがビビってしまって進みたがらない。
尻を落としてグイグイと逆方向へ引っ張る。
そんな犬を引っ張りつつ、野良鶏へ近付く。
犬の後方へのベクトルと私の前進ベクトルと鶏の敵意のベクトルが
衝突したり反発したり。
※
結局、人間である私が、身体の大きさと重さを盾にして進み、
野良鶏を蹴っ飛ばして道を切り開き、
玄関へと我が犬ウーゴくんを引きずり導き、
なんとか帰宅した。
※
午前中に隣家に行って聞いてみたが、うちのではない今は飼っていない
とのことだった。
この後、数日間この野良鶏に私は悩まされることになる。
つづく
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