一昨日、交通マナーに関して書くのを再開した。
思えばその日は、兄の命日であった。
私が小学2年生だった。
兄は二十歳で、高速道路の分岐に突っ込んで死んだ。
横浜に住む彼女とデートの帰り、午前2時過ぎだった。
車が好きで運転が好きだった。
そのちょっと前だったと思うが、事故を起こした。
自分は無事だったが、助手席に乗っていた友達がけがをした。
二十歳になったばかりという頃だったので、両親が
相手の家に詫びに行った。
幼かった私は連れて行かれた。
小さな家で、相手の親が憮然としていて、
夜の暗さと電球の色が記憶に残っている。
帰宅すると、兄は食卓でダラリと座りタバコをふかし
テレビを見ていた。
酒も飲んでいたろうか、その態度に親が怒った。
まあ、バカ息子である。
その後、何があっても同乗者にけがが無いように、と
衝突しても車室が凹まないような、鉄パイプのようなものを購入した。
車内はものものしい雰囲気になった。
それを取り付けて、直後の事故で死んだ。
目撃したタクシーの運転手から、
自分の走っている速度よりずいぶん速く追い抜いて行ったので、
○○km/hは出ていただろう、などという話が聞けた。
いくら鉄パイプで車室を守ったって、
スピードを出し過ぎれば事故は甚大になる。
居眠りをしたのか、家に向かうよりは少し手前の出口への分岐に
突っ込んだ。
葬儀に集まった親しい人たちの前で、父が話すのを立ち聞きした。
息子をバカだと言わないでください。
そりゃ言われたくないだろう。
図星は突かれたくないものだ。
異母兄の命日の早朝、老母を乗せて車で40分の霊園へ行った。
医院へ、リハビリセンターへ、買い物へ、
母を車に乗せると、帰り着いた時にたまに母は、私の運転をほめる。
ちょっと良いヒトコマである。
その日の夕方、世田谷文学館に、岡崎京子展を見に行った。
漫画家の岡崎は、自宅近くで交通事故に遭い、休筆を余儀なくされて
20年経つ。
テーマ性も、ストーリーも、絵のスタイルも
作家として熟してきた矢先であった。
いつも新作を楽しみにしていたので、ひどく残念だ。
視線を動かすことによって操作し、意思を伝えるための
トビーという装置がある。
今、岡崎はこの機械の操作の訓練中だという。
会場の最後の展示は、トビーを使って岡崎が出したメッセージだった。
「みんな、ありがとう」
見られる、聞ける、けれど動けない、表現できない。
漫画家にとって、それはどんな苦しみだろう。
思えばその日は、兄の命日であった。
私が小学2年生だった。
兄は二十歳で、高速道路の分岐に突っ込んで死んだ。
横浜に住む彼女とデートの帰り、午前2時過ぎだった。
車が好きで運転が好きだった。
そのちょっと前だったと思うが、事故を起こした。
自分は無事だったが、助手席に乗っていた友達がけがをした。
二十歳になったばかりという頃だったので、両親が
相手の家に詫びに行った。
幼かった私は連れて行かれた。
小さな家で、相手の親が憮然としていて、
夜の暗さと電球の色が記憶に残っている。
帰宅すると、兄は食卓でダラリと座りタバコをふかし
テレビを見ていた。
酒も飲んでいたろうか、その態度に親が怒った。
まあ、バカ息子である。
その後、何があっても同乗者にけがが無いように、と
衝突しても車室が凹まないような、鉄パイプのようなものを購入した。
車内はものものしい雰囲気になった。
それを取り付けて、直後の事故で死んだ。
目撃したタクシーの運転手から、
自分の走っている速度よりずいぶん速く追い抜いて行ったので、
○○km/hは出ていただろう、などという話が聞けた。
いくら鉄パイプで車室を守ったって、
スピードを出し過ぎれば事故は甚大になる。
居眠りをしたのか、家に向かうよりは少し手前の出口への分岐に
突っ込んだ。
葬儀に集まった親しい人たちの前で、父が話すのを立ち聞きした。
息子をバカだと言わないでください。
そりゃ言われたくないだろう。
図星は突かれたくないものだ。
異母兄の命日の早朝、老母を乗せて車で40分の霊園へ行った。
医院へ、リハビリセンターへ、買い物へ、
母を車に乗せると、帰り着いた時にたまに母は、私の運転をほめる。
ちょっと良いヒトコマである。
その日の夕方、世田谷文学館に、岡崎京子展を見に行った。
漫画家の岡崎は、自宅近くで交通事故に遭い、休筆を余儀なくされて
20年経つ。
テーマ性も、ストーリーも、絵のスタイルも
作家として熟してきた矢先であった。
いつも新作を楽しみにしていたので、ひどく残念だ。
視線を動かすことによって操作し、意思を伝えるための
トビーという装置がある。
今、岡崎はこの機械の操作の訓練中だという。
会場の最後の展示は、トビーを使って岡崎が出したメッセージだった。
「みんな、ありがとう」
見られる、聞ける、けれど動けない、表現できない。
漫画家にとって、それはどんな苦しみだろう。
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