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かもめ食堂 【監督:荻上直子先生、出演:小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ】

2006-08-23 06:09:13 | 映評 2006~2008
地味に大好きな「恋は五七五」の荻上先生の新作です。インテリ批判・無知推奨な「恋五」に対して、本作はいきなりヘルシンキロケでアキ・カウリスマキ映画の俳優起用とかちょっと映画インテリ(オタク)っぽい作品となった・・・と見せかけ、中身は相変わらず気負いのない、好きなことを好きなように撮っている映画である。

潔いタイトルの出し方にちょい感銘を受ける。
映画のファーストカットは、主役三人の静止画をバックに「かもめ食堂」とシンプルなゴシック体の文字。
最近の日本映画はドラマの影響か、タイトル前に長々とプロローグを持ってくるのが主流だ。タイトルの前に出す必然性のない普通のシーンがほとんどであり、効果的でもなんでもない。必然性がなくたってウケ狙いで面白く作ってりゃそれもいい。寅さんの夢のシーンとか、007のオープニングアクションとか・・・けど、面白いオープニングシーンを作ろうってんでもなく、単にタイトルの前にプロローグつけるのが決まりだから・・・って感じでつけているだけな映画が多い。
それにくらべりゃ「かもめ食堂」は映画本編に一直線で潔い。
実を言えば、まずタイトルだけ出してすぐ本編ってのは最近のハリウッドの流行りだったりする(スピやイーストウッドが好きな手法だったが2000年以降ハリウッドの主流になった)。ハリウッド型娯楽志向の監督なのかもしれない。

ヘルシンキロケによる映像で、妙に芸術ぶった、あるいは映画祭や賞ねらいの映画だったらどうしようと勝手に不安になっていた自分に、ガッチャマンの歌を歌うフィンランド人という脱力系ギャグが飛んでくる。
続いてフィンランドといえばやっぱムーミンとばかりに、ムーミンの小ネタ。
ああやっぱしアニメっ子、漫画っ子節全開だった「恋五」の監督だ。
ガッチャマンなんてどちらかっていえば男の子の感性。
片桐はいりの台詞「弟が好きだったもので・・・」
きっと荻上直子の家族関係を表している。ぜったい僕と同世代の漫画好きアニメ好きの男の子がごく近くにいる環境で青春を過ごしたのだ。(多分、そういう兄弟がいたのだろう)

そんなこんなで脱力系のんびり映画が展開する(脱力系のんびりといえばカウリスマキ映画もそんな雰囲気あるので、その点映画インテリくさくはあるのかもしれない。「フィンランドといえばムーミン」な発想の物語ゆえ、フィンランドといえばカウリスマキ風と深く考えずにやってるだけかもしれん)

面白いのは主人公三人に対する作り手のスタンス。
印象的な台詞がある
片桐はいり「いいですね。やりたいことをやってらして」
小林聡美「やりたくないことはやらない。それだけです」


なんてことない会話であるが、この映画の登場人物たちの性格や人生観を象徴しているように感じる台詞である。
この映画では彼女ら三人のフィンランドでのスローライフが描かれるが、都会のあくせくした生活に疲れていた過去がなんとなしに示される。嫌なこと、つらいこと、いっぱいあったのだろう・・・が、彼女たちはそうした過去をほとんど語らない。
言葉で上手く伝えることができない。だから語らない。
語りたくない。だから語らない。
語ってもしょうがない。だから語らない。

まことに潔い。

彼女らの性格描写が、そうした映画的効果を狙った結果・・とも思えない。
監督あるいは原作者自身の性格の反映とも思える。
フラッシュバックで日本でのつらい出来事、嫌な思い出を描くこともできるが、わざわざ描いたところで、見るものにその内面を上手に伝えることができない。つらい出来事を描くのが好きでもない。
だから描かない。
まことに潔い。
そう、この映画のタイトルの出し方と一緒である。過去も未来もない、「ただそこにある現在」を描こうとする作り手の思想から考えて、プロローグなしでタイトルを提示するのは、しごく当然なことだったのかもしれない。

特にドラマらしいドラマも起こらないまま映画は進む。さすがに何も起こらなさすぎたのか終盤ややだれた気もするが、それだって減点要素にはならないように思える。
むしろだれるくらいの方が、この映画が身にまとっている「まったりオーラ」が増幅され、心地よい読後感(観後感)を味わう。
無理やり面白くさせる映画も好きだが、無理に面白くしない映画というのもいいもんだ。
そうはいっても、中盤のもたいまさこvsフィンランドおばさんのウォッカ対決のシーンは緊迫感漂い息詰まる名シーンだ!!(その作風とのアンバランス感が笑いを誘う)

荻上直子先生。やっぱいいよ、この監督。
無理しない。野心ない。娯楽志向だがヒットも名誉も望んでいない。のんびりマイペース。元気のいい「恋五」と正反対な映画のように思わせて、自分の引き出しにあるものしか使わない姿勢・・・という点においてやはり同じ監督なのだと思う。
次回作が待ち遠しい。

---------
ところで、私はこの監督、荻上直子という方は、前作「恋は五七五」を観て「男を見下している」と思った。別にだから嫌いとは思わず、男なんて所詮こんなもん的描き方がむしろ潔く、女の子へのエールのような物語にも効果的だった。
しかし、本作で思ったのは、男を見下しているというより、男を必要としない思想を持っているのだろうか・・ということ。
本作の女たちは風変わりな共同体を築く。家族ではなく、同性愛でもなく。ただ普通に女だけが集まる共同体。現実世界では別にめずらしくもないが、映画の題材となる女社会としては珍しい。ドラマを組み立てるのに情も利害も必要ない、ただ女が一人いれば勝手に女たちがよってくる・・・こんな物語はやっぱりめずらしいと思う。
映画に男は何人か登場する。アニメ好きな男の子と、かもめ食堂のテナントの元の店主。だが彼らはかもめ食堂店主の生活に必要なパーツとしては組み込まれない。ただそこにいるだけである。それに対し女たちは、かもめ食堂という社会の重要な構成員となる。女は女に苦しみを打ち明けたり、溶け込もうと努力し、それを受け入れたり、お互いがお互いのプライベートへ踏み込んでくる。しかし男は添え物的に存在しているにすぎない。
主役三人は当然、それなりに恋愛を経験してきただろうし、あるいは結婚も経験したかもしれない。だがフィンランドの地で彼女たちは恋愛と無縁な、つまり男無用のユートピアを築こうとしているように見える。

この映画には、男などいなくても幸せは作れる、女が集まれば・・・という情も利もなく、ただ女性たちを信じ求めている姿がある。
・・・と思いきや・・・

小さな小さな台詞が男不要のユートピアに、愛の対象としての男の影を大きく映し出す。
それが、「デブデブでぶかっこうなおにぎり」についての発言だ。
冒頭のナレーションで主人公は、デブな動物が好きだったことを語る。デブ猫が死んだ時には泣いたが、母が死んだ時には泣かなかった・・みたいなナレーション。
なんとなく聞き流していたこのナレーションが、終盤でふっと思い出される。
主人公は父のつくったデブデブなおにぎりがどんな御馳走よりもずっとずっと大好きだったと語る。
おにぎり中心の店を作ったことも、デブな動物が好きだった事も全ては、父への思慕からだったのではと思わされる。
フィンランドに女たちのユートピアを築きつつある主人公は、母との確執に悩み、父の不在を埋め合わせたかったのだ。
男なんかいらないんじゃない。ただひたすらに父の面影を追い求めているのかもしれない。
その辺のちょこっと複雑なキャラクター造形が素晴らしいと思う。

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しっかし、スナフキンとミイが兄妹だったなんて、衝撃でございました!!

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6 コメント

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描かない (kimion20002000)
2006-08-30 10:42:38
TBありがとう。

ここにいたる3人の背景を、ほとんど説明しないのが、いいですね。ただ、この空気と現在を見て欲しいと。まさしく「だから描かない」ですね。
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-09-08 16:30:42
>kimion20002000さま

貴方のかもめ評が、いろいろ観た中で一番感銘うけました。

説明過剰な映画が多い中、こういう必要最低限どころか、説明を必要としない話づくりはいいですね

返信する
TBありがとうございます。 (安曇野のパンダ)
2006-09-09 09:56:06
見ていて心地いい映画でした。

気持ちのいい日常が撮影されていました。

この日常を映画だけの日常にしておくのはもったいないと思いまいた。

返信する
コメントどうもです (しん)
2006-09-12 23:15:09
>安曇野のパンダさん



私は塩尻のペンギンです。

私も現実の日常にしたくてフィンランドに行きたいけど、あんな小さな食堂見つかりそうも無いから心細いです。
返信する
こんばんはー (RIN)
2006-09-23 23:30:00
ご無沙汰してます。

オンナ目線で見ると、この映画の登場人物(女性)

たちは、オトコに優しかったと思います。

コーヒーおじさんとか、頼りないオトコばっかり

出てきてるんですけど、見下してる感じがなくって・・・。

なんか、オトコとかオンナとか超えた、人への慈しみみたいなのを感じました~
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-10-06 02:30:01
>RINさま

こちらこそご無沙汰してます。

頼りない男たちと頼れる女たちって感じでしたね。

男を見下してるんじゃなく女の団結を叫んでいる人なのかもしれないです。楽しい団結ね
返信する

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