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サントラCD評 ジェームズ・ニュートン・ハワード『NIGHT AFTER NIGHT』

2024-04-12 21:00:00 | 映画音楽
思ってたより遥かに素晴らしいアルバム
作曲家ジェームズ・ニュートン・ハワードが手がけたM・ナイト・シャマラン監督作品の音楽集。サントラそのままではなく、JNHが編曲し直し、オーケストラとコーラスに加えて、ジャン=イブ・ティボーデのピアノと、ヒラリー・ハーンのバイオリンが印象深くフィーチャーされている。
特に原曲ではそこまで入らなかった、あるいは全く入らなかったピアノが全曲にわたって添えられて、まるでJNHのピアノ協奏曲の趣き。
映画音楽としては「職人」的な仕事の多いJNHだが、彼は本当はこんな美しい曲を思う存分書きたい人なんだ。そしてJNHにそうした音楽の場を提供し続けてきた監督はM.ナイト・シャマランだけだった。





ジェームズ・ニュートン・ハワードは90年代以降、ハリウッドのフロントラインを走る作曲家だ。誰もが知るヒット作も結構手がけている。「プリティウーマン」「逃亡者」「キングコング」「ダークナイト」三部作。それからテレビの「ER」のメインテーマも彼によるものだ。
しかしながら…
これだけ有名な映画をたくさん手がけているのにおそらく誰も音楽を覚えていない。
彼はジョン・ウィリアムズのようにキャッチーなメロディを書く人ではない。映像の後ろにそっと寄り添うような、そういう音楽を書く人だ。決して音楽がオレオレ言わない。
そしてまた彼はエンニオ・モリコーネのような強烈な個性があるでもない。
むしろ没個性。どんな曲でも注文を受ければ器用に作る。
かつてジェリー・ゴールドスミスは「ロック以外ならなんでも書ける」と言ったが、ジェームズ・ニュートン・ハワードはロックも含めてなんでも書ける。ロック好きなマイケル・マン監督の「コラテラル」でハワードが書いたロック風BGMのえらいかっこいいことったら
そんななんでも書ける彼はそれゆえハリウッドで重宝されるポジションについた。しかし本当に彼がやりたかった音楽はなんだったのか…その問いの答えがこのアルバム「NIGIT AFTER NIGHT」にあるような気がする。

シャマランといえば、ほとんどの人は「シックスセンスは面白かったけどさ、あとはク…」みたいに思ってる人が多い気がする。ちなみに私はシックスセンス以降の00年代の作品群の方
がむしろ好きだったりするのだが…
しかし彼の映画の音楽に耳を澄ませば、そこにはいつもジェームズ・ニュートン・ハワードの美しくも恐ろしいスコアが流れていたことに気がつくハズだ。

アルバムの曲順もいい
最初はメルギブ主演の宇宙人との恐怖のファーストコンタクトを描いた「サイン」
たしか、公開当時サントラが発売されなかったはずだ。

二つ目はシャマラン作品で唯一のアカデミー賞作曲賞ノミネートを果たした「ヴィレッジ」

三つ目にシャマラン最大のヒット作で代表作「シックスセンス」

そして映画はとんでもだが音楽は、個人的には、JNHの最高傑作かもしれないくらい素晴らしい「レディ・イン・ザ・ウォーター」

以降
「アンブレイカブル」
「エアベンダー」
「ハプニング」
「アフターアース」
最後にもう一回「エアベンダー」からの曲で締める。

「サイン」は宇宙を彷彿させるピコピコ響く木管の音、原曲では電子音だったと思うけど、記憶違いかも。ただこのアルバムでの木管の音も電子音ぽく聞こえる。電子音ピコピコと言えば「未知との遭遇」を思い出しつつ、あれも生楽器の音を電子音風に加工したものだっけ。音の使い方は「未知との遭遇」へのオマージュかもしれないけど、そこに重なる繊細なオーケストラとピアノの美しい音が感動を誘う。

「ヴィレッジ」ではヒラリー・ハーンのヴァイオリンが印象深い。
音楽だけ聴くとあの変なホラー風サスペンス映画のサントラだとは思えないくらいに、美しく哀しく情感のあるスコア。ヨーロッパ系ミニシアター作品な雰囲気の音楽。アクション映画もロマンティックコメディもやるJNHだけど、本当はこういう曲の似合う映画をやりたい人ではないのか

「シックスセンス」
映画の有名さに比べて音楽はあまり注目されない作品だが、映像もストーリーも意識せずじっくり音楽に集中して鑑賞すると、映画音楽としてのテクニックが詰まっている。
JNHの音楽は徹底的に脇役となって、目立たずに寄り添う音楽だ。だから映画と離れて音楽単体で聴くと弱くなるかと思いきや、しっかり心に刺さってくる

「レディ・イン・ザ・ウォーター」
JNHのもしかすると最高傑作。いや「ハプニング」の音楽もすごいのだけど。徹底的に無機的な「ハプニング」に比べ「レディ〜」は超大作ファンタジー映画の音楽みたいな、スケールの大きさが魅力だ。知らない人に「ロード・オブ・ザ・リング」の音楽だよと言ったら多分信じると思う。(そういえばハワード・ショアの代役で担当したのが「キングコング」だったな)なのに映画のあのショボさとのギャップもまた最高だ。それでも何度聞いてもメロディもオーケストレーションもほんと魂に熱く響く。

「アンブレイカブル」
ドラムがノリノリで響くメインテーマは残念ながら本アルバムにはないが、映画の中でも印象的なやたら感動的な第二テーマは、サントラよりさらに厚く熱く響いて(映画の内容を忘れて)感動で泣きそうになる

「エアベンダー」
「レディ〜」でファンタジー大作っぽい音楽を披露したことがなにか影響したのか、本当にファンタジー大作をシャマランが作ってしまった。…が、しかし、シャマラン史上最大の大コケをぶちかましてしまった作品(とは言えむしろ「アンブレイカブル」から「ハプニング」まで大コケせずにやってこれたことが映画史の奇跡のように感じる)
もともとロードオブザリングのように3部作にする予定だったとか。しかしあまりの大コケのため、明らかに中途半端な続編ありきな終わり方だったにも関わらず、続編は作られる事なく…
ちなみに元々は「エアベンダー」というタイトルではなく「アバター」というタイトルで企画が進んでいたのだが、キャメロンの野郎のせいでそのタイトルが使えなくなったのだった。
シャマラン大好きだった私を持ってしてもオイオイなんだよこれ…と苦笑が漏れるだけだった映画だった(そうは言っても当初の予定通り三部作になっていたら、全部観に行っただろうけど)
別にこれと言って面白いことの起こらない第一部だけに音楽も地味…とは言え改めて音楽だけ聴くと、ちょっとミニマルミュージックっぽいノリで悪くもない

「ハプニング」
トリュフォーの伝説的な名著「ヒッチコック映画術」でトリュフォーとヒッチコックが『鳥』のくだりで「今度は花がその香りで人を殺すなんてどうでしょう」「それは素晴らしいアイデアだ」みたいな多分冗談で語っている箇所がある。シャマランがその冗談を真にうけて作ったような超常現象サスペンス。実は個人的にはシャマラン最高傑作と思っている本作は音楽も素晴らしい。
シャマラン映画のJNHの音楽は基本的にどれも「情感」があった。しかし本作は植物が人を殺す映画だからか、恐ろしいほどに無機質。メカニカルと言ってもいい。それでいてメロディは割と心に残る。「レディインザウォーター」を音楽面の最高傑作のように書いたが、もしかすると「ハプニング」のスコアの方が傑作かもしれない。誰にもおすすめはできないが、チェロの音が醸す恐怖は一度聞いてほしい。(チェロ奏者はマヤ・ベイザー)

「アフターアース」
これだけ映画を観ていないのだけど、安定のシャマラン風JNH節

映画音楽が好きな人なら、シャマランなんてさぁなどと言わずぜひ聞いてほしい素晴らしい素晴らしいアルバムだ。
ジェームズニュートンハワード大好きで良かった!






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