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ブタがいた教室 [監督:前田哲]

2008-12-31 11:44:39 | 映評 2006~2008
個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

必見の傑作だと思う。

4月に小学校6年生の担任教師が教室にブタを連れてくる。
「みんなで一年間このブタを育てて、最後にはみんなで食べよう。」

だが飼っているうちにブタに愛着が沸いてきた子供たち。ブタを食べるか食べないかで教室はまっ二つになる。
そんな一年間を映画は追う。
投票そして子供たちの学級会の場面がなにより秀逸でドキュメンタリーでも観ているような気分にさせられる。
子供たちから芝居ッ気がまるで感じられない。
それもそのはず、パンフレットによると監督が子役たちに渡した台本はカギカッコの中を真っ白にしたもので、26人の子役たち全員にブタを食べるか食べないか真剣に考えさせて、彼らの生の言葉を吐かせたのだと言う。

私事でなんだが、こないだ自分が出演した(アマチュア)お芝居で主要キャスト三名が稽古でやっていたエチュードと同じことをやっていたのだと思うと、なんだかこの映画の演出法に親近感が沸いてきた。(私の役はエチュードなしの紋きり芝居でしたが)
プロでもない俳優から生の芝居を引き出すにはこれが一番で、これしかないんだと思った。
これからの自分の撮る自主映画の演出の方向性が見えた気がした。

だがそれをやるには、長い時間が必要となる。
「ブタがいた教室」の場合、撮影は廃校となった小学校を借りて行われ、子役と教師役の妻夫木聡らは毎日のように学校に通い本当の生徒と先生のように接していったのだそうだ。
子役の役名も実名のままか、実名に近い名前が付けられている。妻夫木聡も子役たちに「妻夫木聡」としてではなく「星先生」(役名)として接してもらおうと撮影の間はカメラが回ってなくても役名で自分のことを呼ぶようにしてもらったと言う。
撮影はほぼ順撮りで進められ子役たちがブタへ自然に感情移入していくようにしたという。

すべては子役26人に本気でブタの命と向き合ってほしいから。
渾身の一作だ。


そうした子供たちの生の感情に誘導され、観ている私も真剣にブタを食べるか食べないかという議論に引き込まれていく。
9月には食べない派が圧倒的に優勢だったクラスは、やがて卒業が近づくと、食べる派と食べない派の勢力が伯仲してくる。
私が生徒の一人だったら食べる派に入っただろうが、食べない派をどうすれば説得できるのか? いや、そもそも説得することが正しいことなのか?
映画のモデルとなった実際の出来事の際にもあった批判と同じく、子供たちにはこの議論は過酷すぎやしないだろうか
あくまで生徒たちの自主性を重んじたいとして学級会の見守り役に徹していた星先生だが、彼にもまた教師としての責任がのしかかる。子供たちがどのような結論を出そうとも、最後は教師として責任を持ってブタをどうするか決めなくてはならない・・・と校長先生に諭される星先生。
ブタを飼った者の責任について生徒たちが論じ合っている一方で、責任のがれをしていたことに気付く先生。
子供同様に過酷な試練を先生を与えるため、食べる VS 食べないの意見は卒業式の前日まで13対13の膠着状態のまま。
ここでも自分が先生ならどうすべきだろうかと真剣に考えさせられる。

わずか二時間弱の映画ながら、卒業式のシーンの子供たちの顔や先生の顔に、苦楽を共にしてきたような親近感を抱く。ともに悩み、ともに考えるように映画は仕向けている。
人として生きていくための業と向き合うという貴重な機会を与えてくれた作品だった。

映画は実際に一年かけて撮影したわけではなく、撮影期間は2月から4月にかけての2ヶ月強ほどだったらしい。その割りに夏のシーンはちゃんと夏らしく映画に焼き付いていて、これは美術や照明がしっかりしているからなんだろう。
ブタの「Pちゃん」も当然一頭ではなく、映画の中のPちゃんの発育にあわせて、サイズのことなる数頭のブタを使いわけたそうだ。

そんな「Pちゃんズ」は撮影後どうなったのだろう。
「Pちゃんズ」はスタッフが責任を持って食べるべきではないだろうか、などと考えてしまう。
ハリウッド映画のエンドテロップには、「この映画に登場した動物たちは専門のトレーナーのもと管理され、決して殺されたり虐待されたりはしてはおりません」的な一文をつけるのが恒例となっている。本作を海外で公開した場合そういう断り書きはつくのだろうか?

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