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父と暮らせば (貴方の心に響いた台詞は?)

2005-03-14 02:53:44 | 映評 2003~2005
この作品は・・・いまんとこ(05/3/14現在)今年のベスト1(といってもそんなに観てないが)だ。
ローレライ」のようなハリボテ映画と違い(いや、むちゃくちゃ面白かったんだけど)、戦争と真摯に向き合っている。
ローレライ」のように原爆を軽く扱っていない(いや、その軽い扱いが面白かったけど)。

この映画は被爆者である"娘"が、原爆で亡くなったはずの"父"と語り、"父"が娘の恋を応援し心の再生を見届ける物語。まあ、ファンタジーと言えばそうだ。

いま、会いにゆきます」という映画があった。"死"をファンタジーとしてしか捉えられない底の浅い映画だった。
ローレライ」(そんなに何度も比較対象とするもんではないが)は、"戦争"も"原爆"も現実感のないファンタジーのごとく扱い、国家論を熱くぶっても中身は空っぽだった。

父と暮らせば」は作品としてはファンタジーであるが、その内容は"死"も"戦争"も"原爆"も、はっきりと演技と演出により形づくられており、空虚どころかリアルな質感を伴って映画の中に横たわっている。かっこいいCGでの再現とかそんな猿っぽい意味でのリアルではない。

「あの日の広島では死ぬるが自然で、生きるは不自然じゃったよ」(台詞うろおぼえ、広島弁はよくわからんので)

「絵になるようなものも無い、詩も小説も無い、学問になるようなものも無い、一瞬で全てが失われてしまった」


登場人物は宮沢りえ原田芳雄、それに浅野忠信の三人のみ。浅野忠信の出番はごくわずかなので、実質的に二人芝居が中心となる。ときおりフラッシュバックで原爆投下時の回想などが入るが基本的には室内に限定し二人の会話だけで映画は進む。
むろんこんな地味な作りの映画では売れるハズがない。だが、宮沢りえ&原田芳雄の力強い演技合戦は観るものをぐいぐい引き込む。戦争で生き残った人間が生き続けることの苦しさと、生き続けることの大切さ、親子の愛情の深さをたっぷりと語り、カメラワークだのセットの作りだの物語構成がどうのだのそんな考えふっとばされて落涙。底の浅い純愛の嘘っぽい涙とは違う。

演劇タイプの会話劇としたことには訳がある。
主張するためだ。観客の心に響くメッセージを主張するため。対話は原田芳雄宮沢りえに、宮沢りえ原田芳雄に語っているのではない。黒木和雄監督が観客に語っているのだ。二人の演技を利用して観客の心に響かせる。いってみりゃプロパガンダだ
といっても「ローレライ」のように(またか)、「大人の始めた戦争に、子供をまきこんで悪かった」なんてアホ丸出しな主張はしない(泣いたけど)。
宮沢りえの台詞
「話をいじらず、前の世代が語ってくれた話をそのまま伝えるんが、私の役目よ」
それに黒木和雄の代弁者原田芳雄が、微調整を加える。
「誰でも知っとる昔の話に、ヒロシマの話を差し込むんじゃ」

そうして語るのは思想ではなく生々しい事実
原爆が凄まじい破壊力を持つことくらい「ローレライ」のスタッフ(オタク)でも知ってる。
だが奴らに「頭上わずか500~600mのところで太陽2個分にあたる12000度の火の玉が光る」ということの本質的な恐怖が判っていたのか?熱線で屋根瓦が剣山のようになり、石の地蔵が融けるということの恐怖が。瓦礫にうまり炎に包まれた父が逃げ出そうとしない娘に自分をあきらめさせる気持ち、そして逃げた娘はそのことがトラウマとなり生きる希望を見失うということが
理屈では理解できる、だがその本質はCGなんかではなく人間の生の声によってのみ伝わるのである
いいように黒木和雄に乗せられてしまった。見事なり。

空間限定で会話のみによる進行。原田芳雄が一席ぶつところでは、露骨にスポットライトを当てる。
なんてことない。こんなの演劇じゃんか。映画にする意味あんのかよ。なんて思ったら大間違い。
ラストショットで見せるヒロシマへの哀悼・・・カメラはただティルトアップするだけなのに、フレームは空間を飛び越え原爆ドームに。放射能で汚染された瓦礫の中に咲く二輪の花・・・これは映画でしか描けない最高のショットだ。何より宮沢りえの息をのむほど美しい表情、刺すような視線・・・これは映画だ。演劇じゃない。「父と暮らせば」の宮沢りえの存在感は映画だけのものだ。
「おとったん。ありがとありました」
この一言とその時の宮沢りえの美しさ・・・映画ってすばらしいと思った一瞬だった。

黒木和雄。小品ではあるがやはり巨匠の映画だった。「美しい夏キリシマ」に続いて、イラク戦争に加担する日本に投げかけた静かながらあまりに熱いメッセージ。ま、ヒットしなきゃ問題提起も無意味なんだが・・・

ただ一つ残念なのは、ここまで会話劇に徹するなら、何カットか挿入される原爆投下のVFX映像・・・CGによる空虚な"リアル"に目が奪われたその一瞬がいけない。
そんなのなくても、融けたガラス瓶や被爆者による絵、宮沢りえ原田芳雄の芝居で充分に伝わっていた。CGは蛇足だった。しかもちょっとヘボいCGだし・・・

・追記というか余談
私は長野県松本市の隣の塩尻市在住です。地方の中の地方である中信地区ではミニシアター系映画など半年遅れやビデオリリース後でも公開されればまだいい方で、未公開のままってのが普通。
塩尻東座という映画館の尽力のおかげでかろうじて、ミニシアター作品が見れる。去年まで松本中劇シネサロンという映画館でも精力的にミニシアター作品を上映していたが、中劇がつぶれてしまい、現在はビデオプロジェクターによる上映を細々続けている。ただ・・・やっぱ正直行って、映画はフィルムで観たい。
東京での公開からだいぶたってしまったが、この傑作をフィルムで観ることができた。ありがとう、東座。

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13 コメント

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TB有り難うございました (海音)
2005-03-14 08:54:08
 こちらでもつけさせて頂きました。

 本当にこの映画は見てよかった映画ですね。

 「ローレライ」と比べたら、「ローレライ」が可哀想過ぎます(笑)。今年が戦後60年だから、戦争映画が多いかと思ったけれど、そんなことがないみたいでちょっと残念。やはり、戦争映画はあんまり見に行く人が少ないから儲からないので作られないんでしょうね。角川春樹さんが「男たちの大和」を作っているのですが、彼は大衆向けが好きだし、主役は反町に獅堂と軍服の似合いそうな人達が出てくるので、ちょっとは楽しみにしています。松本市は東京に近いと言っても、わざわざ東京まで映画を見に行かないですものね。私も神戸なんですが、大阪に来ていても神戸でしない映画が多いです。大阪まではやっぱり遠いし・・・。多くの映画を地元で見たいですよね。映画産業が盛り返してきているんで、見る人が増えると映画館も増えてくる。もっと、いろんな面白いのとか、すごいのとか作って、観客を増やして欲しいですね。

>海音 様 (しん)
2005-03-16 00:27:22
2~3年前はわざわざ映画観に東京まで、足しげく通いました。平日会社終ってから日帰りで行ったことも・・・

シネコンがあちこちできて地方でも映画が観れるようにはなってきましたが、ミニシアター系、アート系、マニアック系、超B級、アンダーグラウンド、文化映画・・・はなかなか地方では観れない



>すごいのとか作って、観客を増やして欲しいですね。

そういう意味ではローレライでいいかもしれないけど・・・(微妙な笑い)
TBありがとうございました (yocco)
2005-03-16 01:05:37
初めまして、yoccoです

こちらからもTBさせていただきますね



>CGは蛇足だった。しかもちょっとヘボいCGだし・・・



半年も経つとその部分はほとんど忘れています

きっと、おっしゃるように蛇足だからでしょうね(笑)







TBありがとうございます (Tamtarm)
2005-03-16 22:27:38
トラックバックいただいた記事での僕の書き方が悪いので、僕がこの映画を見た様に思うかもしれませんが、僕は広島でダイジェスト版を見ただけなのです(^^;。

ただ、その中での宮沢りえさん演じる美津江の台詞

「うちは生き残ったらいけんかったんよ!」(だったと思う)

と言う言葉の思い、地元広島に住んでいながら、実際に被爆した人の多くが抱いていたこの思いを知りませんでした。

被爆された方が見ても、かなりリアルに心が描かれているんだそうです。



こちらからもTBさせていただきますね。
コメントどうもです (しん)
2005-03-18 02:42:42
>yocco様

うん、蛇足すぎたです。でも取るに足らない些細な不満ですけどね。



>Tamtarm様

広島には一度行きました。ひろしま映像展を見に。

市街地でチェイスしてるかのような路面電車が面白かったです。

ドームももちろん見ました。

たった一発でこれだけの街が消滅するのか・・・と恐怖を感じたっけ。

原田芳雄の一人芝居のシーンでの語り・・・力強く・・・それは原爆資料館で感じた言い様の無い苦しみ、悲しみ、無念を思い起こさせ、語り継ぐとはこういうことかと原田芳雄と黒木和雄に対して感銘をも受けたのでした。
初めまして。 ()
2005-03-23 20:14:59
ローレライでトラックバックを頂いたので覗いてみたのですがローレライよりこっちにコメントしたくなったのでこっちにします。笑

私は12月に父と暮せばを見ました。

ローレライと比べてしまうとどうしてもローレライが可哀相になってくるのでしませんけど。笑

実際の戦争シーンなどはほとんど見せてないのに戦争の引き起こす(残した)悲しさ、苦しさが伝わって最後の方は泣けて泣けてどうしようもなくなってしまいました。

宮沢りえは素晴らしかった。ちょっと可愛げのある原田芳雄も。



>皇さま (しん)
2005-03-24 03:46:50
コメントありがとうございます。いまさら(東京基準)この映画にコメント/TBくれる方も少ないので嬉しいです。



泣かせるには根底に「怒り」が必要と思えた映画でした。

こういう映画こそ売れるべきと思うけど、ま、無理ですよね。

「ローレライ」もある意味頑張ってるんですけどね(苦笑)
古い記事に対不起 (RIN)
2005-08-06 00:06:19
はじめまして、RINです。

古い記事、ひっぱりだしてきて

TBさせていただきました。

すんません。。。
コメントどうもです (しん)
2005-08-09 00:00:51
>RIN様

返事おくれましたが、8/6にいただいた記事を8/9に返すのも思わせぶりでいい感じと思って下さいませ
なーるほど・・・ (RIN )
2005-08-09 00:34:10
しかし、よくセリフ覚えていらっしゃいますねー。

私は、広島弁あやふやなんで、適当に「共通語」

訳にして、記事書いてしまいましたが・・・。

やっぱ、館内でメモるんですか???

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