自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ

映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

ワールド・オブ・ライズ [監督:リドリー・スコット]

2008-12-24 02:00:21 | 映評 2006~2008
個人的評価: ■■■□□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

「ブラックホーク・ダウン」「キングダム・オブ・ヘブン」と最近イスラム世界と西洋世界との異文化衝突を好んで映画にしている感のあるリドリー。
「ブラックレイン」も「1492 コロンブス」も【西洋人の異文化体験もの】とくくれば、その辺をリドリーが追いかける題材のカテゴリーの一つとして分類できるかもしれない。(強引だが「エイリアン」だってそのカテゴリーに入れることができる。)
そういうわけで6度目の異文化体験もの作品にして、ラッセル・クロウとの4度目のコラボ作品である本作。イラク情勢からもとってもタイムリーな題材。過去の事件から現代を透かして見せた「ブラックホーク~」や「キングダム~」と違い、現代劇でもう一度この題材に取り組むあたりにリドリーの本気を感じる。

しかしながら本作は「マッチスティック・メン」以来2度目の【騙し合いもの】でもある。「マッチスティックメン」は個人的には死ぬほどつまらない作品だったののだけど、もともとやや大味感のある監督なだけに脚本の巧さで魅せるようなドラマは苦手なのだと思う。そういえば「ハンニバル」だってちょっとアレなデキだったっけ。「誰かに見られている」もあわせるに、サスペンスものを作るとロクなものにならないジンクスがリドリーにはある。
今回もそのジンクスは破れなかった。

本作の場合、さらに加えて、複雑な中東情勢や、スパイの手口やCIAのハイテク機器の説明もしなくてはならない。政治ものはそれでなくても敷居が高い。
難しさを緩和するため、登場人物を4人の男(CIA現場担当、CIA作戦室担当、ヨルダン情報部のボス、テロリストの親玉)に絞って対立構図を複雑と単純のギリギリラインまで落とし込んだのは巧い。それでいてイスラム側を深く突っ込むのは始めからあきらめ、アメリカ人のイスラム観をメインテーマとしたことも無理がなくていい(リドリーの【異文化体験もの】の常套手段だけど)。
それでも、畳掛けるようなテンポの良さと臨場感ある映像が邪魔をしてか、人物も、スパイの手口も超早口で紹介されるかのごとく、次から次へと出ては消えて、あれこいつ誰だっけ・・・と物語の整理にいっぱいいっぱいになってしまう。
さらに脚本自体もあまりデキがいいとは言えず、結局のところ前半部分ってデカプリとラッセル・クロウのキャラクター紹介以外にあまり存在意義がなく、いつまでも本題に入らないようなもどかしさは、かったるさにもなって、映画は長く感じる。眠気覚ましのごとく定期的に入るアクションシーンもいまいち盛り上がりにかける。(けれども、デカプリが「RPG!!」と叫ぶところは「ブラックホーク~」の恐怖が蘇ってきて、リドリー作品いっぱい観といて良かったと思った)
「ライズ」をタイトルに冠したくらいの物語だから、観客を騙しにくるだろうと、伏線となるシーンを見逃さんぞ・・・と力んで観ていたのに、クライマックスにつながる伏線もどんでん返しみたいなものは何もなかった。
物語上一番無難な結末へと無理なく捻りなく着地。
はっきりいえばあまり面白くなかった。

だが見所がないこともない。
なんつっても俳優たちの熱い演技合戦が楽しい。
デカプリ氏の拷問されて痛がる演技は思わず観てるこっちまで痛く感じるくらいに迫力あって凄い。凄いついでに看護婦に注射されるシーンでも拷問シーンばりの痛がり演技を披露してくれて痛がるデカプリ演技を堪能させてくれた。
役のためだろうがデブデブに変貌したラッセルは、イスラムを普通に見下すムカつきデブを好演。西洋人代表のようなイスラム観を、醜悪な姿で演じさせるリドリーの気持ちは判るし、それに応えるラッセルもさすがだ。ラストで寿司を食うラッセルだが、この人、和食を食うシーンが多いような気がする。「インサイダー」とか。他思いつかないけど。
そしてなんといってもかっこいいのが、ヨルダン情報部のボスを演じたマーク・ストロングという男。デカプリとラッセルを喰うくらいにかっこいい。礼義正しい紳士だが拷問好きという変わった設定が魅力だ。テロリストを一網打尽にする現場にも指揮官自ら乗り込んでくるが、その際も汚れもしわもないバリっとしたスーツ姿で悠然と現れる。彼には身だしなみは重要らしい。ジェームズ・ボンドか、お前。

音楽はハンス・ジマーでない。ジマーとリドリーは数々の名曲を生んだ名コンビだったのに。
本作の音楽担当はマルク・ストライテンフェルトというドイツ人で、ジマーのアシスタントだった人。「プロヴァンスの贈り物」「アメリカン・ギャングスター」に続くリドリー作品3度目の登板。でもジマーの音楽の方が、かっこいいしメロディもキャッチーだし、変幻自在なリズムで映像と共存していたし・・・ずっと良かったなあ。

********
↓面白かったらクリックしてね
人気blogランキング

自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« トウキョウソナタ [監督:黒... | トップ | 08年度 映画賞 前半戦 »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (pop)
2009-11-08 18:07:26
"サスペンスもの"という大味なくくりで適当な読みをしているだけのようですが・・・。
先入観で映画を見るべきではないと思います。
「マッチスティックメンから連想して勝手にどんでん返しを予想する」なんて、普通に馬鹿じゃないかと思いました。
自分の変な勘ぐりを責めるべきであって、映画を責めるものではないと思いますが。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映評 2006~2008」カテゴリの最新記事