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ブレイキング・ニュース

2006-05-08 01:59:20 | 映評 2006~2008
やっべー、むちゃくちゃおもしれー
初めて知りました。香港にまだこんな天才がいたなんて。ジョニー・トー!!! 今まで何を観ていたんだ、俺は!!

香港映画で警察映画の傑作にして犯罪映画の傑作・・・といえば即座に「インファナル・アフェア」が思い浮かぶだろうが、この「ブレーキング・ニュース」はそれに加えてアクション映画の傑作である。
あらゆる宣伝資料にくどいくらい書かれている「冒頭7分間のワンカット・銃撃戦」・・・・凄すぎ・・・
ステディカムとクレーンで縦横無尽に街路を動きまわり、弾着効果やら台詞のタイミングやら、だいたいクレーンやカメラの影どうやったら写さずに撮れるんだ・・・と、もう私には実現不可能にして計画も不可能。デジタル加工で消してるのか?ともかく「度肝ぬく」とはこのことだ。かっこよすぎる。

その冒頭7分の後は、普通のアクション映画のカット割となるが、物語はそこからヒートアップしていく。

冒頭のアクションシーンにおいて、犯人グループに両手を上げ命乞いする警官の姿が報道され、挙句に犯人を取り逃がし批判集中の香港警察。人気挽回の策としてケリー・チャン演じる若き女性警部補は、ワイヤレスカメラを装備した特殊部隊を使い、市民に犯人グループ逮捕の瞬間を実況中継しようとする。一方で犯人グループは高層マンションの一室に逃げ込み退路を絶たれるが、警察に対抗してメディア戦略を展開。
多分これだけでも充分に面白い物語となっただろう。
だが、この映画はその警察VS犯人のメディア戦争というシンプルな物語に多数の異物をぶち込んで、物語をヒートアップさせる。

純度が高ければ高いほどいいと思われがちな物質に微量の異物を混入させるということが、化学や物理の実験でよく行われる。不純物を加えることで化学反応を強めたり、合金の強度が上がったりするのである。
「ブレーキング・ニュース」のシナリオはそんな科学実験のごとく、シンプルな警察VS犯人のストーリーにいくつもの不純物が投入され、それがストーリーを予期せぬ方向に引っ張ったり、緊張感を高めたり、さらにバイオレントな描写へと展開させていったりする。

不純物(1)・・・命令をきかない刑事(尋常でない根性のダイハードな若い刑事と、すぐに屁をこく定年間近のコメディメーカーなベテラン刑事)

不純物(2)・・・問題のマンションにたまたま居合わせた殺し屋コンビ

不純物(3)・・・犯人の人質となる家族(臆病な父親と勇敢な子供)

投げ込まれた不純物がまた全て2人コンビであるということ。かつそれぞれのキャラの性格設定と描き分けが明確で、彼らの言動を見聞きするだけでも楽しいのに、物語はどう転がるかわからない危うさに、一触即発の緊迫感をも伴いヒートアップしていく。

人質息子:  「警官が市民に銃を向ける?」
犯人リーダー:「息子の方が利口だな」

人質息子:  「だから逃げようって言ったんだ」
犯人メンバー:「父を敬え」

犯人リーダー:「料理で頭の整理さ」
そういって悠々と飯作る(しかもかなりの腕前)

人質息子:  「悪党と乾杯はしないぞ!!」
犯人リーダー:「勇敢だな。将来は警官になれ」

殺し屋:   「お前、根性あるな」
刑事:    「お前こそ、いっそ警官になれ」
(全てうろ覚え)
・・・などなど、わくわくする台詞の応酬が、銃撃戦なみの興奮を誘う


おまけにアクション描写は冒頭7分で息切れすることもなく、派手さとテンション維持しつつ要所要所に盛り込まれる。

・手榴弾のブービートラップでマンションを揺るがす爆破
・ガス缶転がし→間一髪退避する刑事たち→ガス缶を狙って発砲する犯人→爆発
・エレベーター縦割りセットにおける上中下3段ぶち抜き銃撃戦
・またやるか!!長回し!!バスで逃げる犯人と盗んだバイクで追っかけるダイハード刑事の長回しカーチェイス銃撃戦

爆発・銃撃てんこ盛りの展開を楽しんでから宣伝ちらしを見ると「香港版『踊る大捜査線2』」とかふざけたコピー考えたやつを蹴飛ばしたくなる。あんなゆるいもんと一緒にするんじゃねえ!!本気臭むんむんのマジなアクション映画だぜ。

************
そんなこんなでほぼ大満足な映画であるが、強いて苦言を呈すると、ケリー・チャン扮する若くて美人の女性指揮官。
犯人も刑事も殺し屋も人質も、生き残るため或いは任務遂行のため必死でしかも誇りと信念かけて全力で戦っているのに、ケリー・チャンだけがキャラが弱く、本気を感じない。
いかにも客寄せのための女の子キャラだ。
この程度の役回りの女ならばマギー・チャンとかコン・リーとかその辺のクラスの女優に演じてもらわねば説得力がない。
どうしてもケリー・チャン級の女優を使いたいなら、もっともっと精神的にギリギリなところまで追い詰められるような展開にしてほしかった。
たとえば、「お前は所詮広告塔だ、TVで愛想よくしてりゃいいんだ!!」とか言われ、セクハラまがいのこともされつつ、内への怒りを外(犯人)への憎悪と執念に転嫁させるとか・・・・
この映画は規律正しい警察機構がかっこよく描かれ、警官たちは女性指揮官に対して誰一人「女のくせに」という見下した態度をとらない。もっとも、実際の警察や軍隊なら上官に対して当然のことであろう。若くて女だからってだけで見下すような部下は女上官自らがボコボコにするのだろう。
それはともかく、この映画では犯人だけが「美人だな。もてるだろ」とステロタイプな反応を示す。
その辺、香港警察のヨイショ映画でしかないのかもしれない。でもそんなリアリティなどどうでもよく、女性蔑視というわけでもなく、主要人物の中で唯一「血反吐はかず、余裕かましている」キャラが若い美人であることがもったいないのだ。
彼女が、銃弾飛び交いガラスの破片浴びながら血を滴らせて全力疾走している姿が、本気で戦っているところが観たかったのだ

・・・ま、そんなことはごく些細なこと。
久々マジで燃えた傑作アクション映画として強烈な印象を残す作品である。
必見。
ジョニー・トー。なんつう監督だ。他の作品も見てみよう。

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3 コメント

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ジョニー・トー (RIN)
2006-05-10 19:55:13
こんばんは!

ビバッ!ジョニー・トゥーですよ!

どんどん見てください!ハズレも多いんですけど

ハズレなりに面白く、愛すべき監督ですよ!

今年の香港アカデミーもジョニー・トーの

「黒社会」が圧勝でしたよ!

でも、日本で公開されるのかどうか・・・
コメントどうもです (しん)
2006-05-11 00:47:05
>RINさま

ハズレ多いが、ハズレなりに愛せる・・・っていかにも香港な監督ですね。

バリー・ウォン、ツイ・ハーク、ジョン・ウー、リンゴ・ラムらメジャー級からしてそんなんだもん。

ジョニー・トーは香港遺伝子の正当継承者のような気がしてきました。おすすめのハズレ映画を教えてください。(当たり映画はチラシやネットや受賞歴ですぐわかるから)
香港映画 (RIN)
2006-05-11 01:24:24
こんばんはー♪

アンディ・ラウと組んでる作品は、基本的に

どれも、「オイオイ・・・」と

目を覆い、かつ、指の隙間からついつい見ちゃう

B級香港エネルギー爆発ですよ。

「ナゼこの映画が、インファナルを押さえて?」

という受賞歴はあるけど、他人には勧めにくい

「マッスルモンク」とか、ジョニー・トーの魅力が

満載なのではないでしょうか?

「フルタイムキラー」も、完全ハズレなんですけど、

アンディ・ラウの愛すべきキャラが生きてますし。

「1:99電影行動」とか「パラダイス」なんかは

私的には「アタリ!」です。

「PTU」は、「ブレイキング・ニュース」で家族を

置いて逃げた、お父さん=ラム・シューが、主役

になっているので、結構お勧め度高いです。

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