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Mr. & Mrs. スミス [家の呪縛を受ける家族について]

2005-12-23 13:47:03 | 映評 2003~2005
家族というものを考えるとき、どうしても「家」というものがセットにして考えさせられる。逆に「家」を考えると家族という小社会がセットになって思い浮かぶ。家族というと普通は親子三人以上の集団をさすが、「Mr. & Mrs.スミス」は子供のいない夫婦である。恋人以上家族未満の関係かもしれないが、広義の「家族」の範疇には入っていると言っていい。不完全ながら「家族」である。
さて家だ。
私のようにアパート住まいが長いと、中々実感として「家」というものが捉えられないが、それでも家族にとって家がいかに重要で大切なものかは理解できる。「七人の侍」で川向こうの家が炎上するのを観て泣き叫ぶ家族の気持ちも、カトリーナの直撃で水没したニューオリンズで避難命令が出されても頑として家から出ようとしない人たちの気持ちも、理解はできる。
家一軒立てるなんてウン千万円とか億とかかかる大事業だし、思い出もいっぱい詰まってるだろうし、今の自分という人格のきわめて大きな部分を占めているものだろう。
しかし言い換えると家族は「家」に呪縛されている。家を守るためなら妥協もするし、我慢もする。
こないだ観た成瀬巳喜男の「娘、妻、母」は家族が家によって呪縛されていることを端的に示していた感じがなくもない。家を失うことを契機に、家族が本音を語りだすと、それまで幸せで仲がいいと思っていた理想の家族像に近い家族が、嘘で塗り固められた偽りの姿だったことが浮き彫りになる。

「Mr. & Mrs.スミス」に話を戻す。
2人の家は、中の上、あるいは上の下くらいの、そこそこリッチで広くて小ぎれいな家だ。裏家業でけっこういい給料もらっていたとしてもそれなりに苦労して建てた家なのだろう。お互いに嘘と秘密を抱える夫婦は、それをカモフラするために家だけは立派にしたのかもしれない。
立派な家によって飾り立てられた家族(夫婦)関係を守るため、あるいは「家」そのものを守るため、嘘をつきつづけ、秘密を隠し通す。
しかし2人の嘘と秘密が同時にばれてしまう。愛は幻想に過ぎなかったのかと誤解しあう二人は疑心暗鬼になり、殺し合いを始める。
(余談1・・これが愛ゆえの殺し合いなら面白かったのが、単なる誤解による殺し合いに過ぎないというところが、濃い目の映画が好きな私にはちと不満である)
2人は、2人で築いた家の中で、壮絶な死闘を展開する。激しい銃撃戦、大格闘、ガス爆発、2人の肉体的な傷よりも、家の調度品や内装の方が被害は甚大だ。
(余談2・・よく見ておけフランスのアクション映画作家たち、お前たちのアクション映画が軽いのは、肉体的ダメージしか描かないからだよ)
そして、徹底的に家をぶち壊しながら、殺し合いを繰り広げた果てに、2人はふっと憑き物が落ちたように我に返り、乳繰り合いを始め、お互いの秘密と嘘を暴露しあう。
2人が守り続けてきた「家」が、2人の虚像の愛を象徴していた「家」を失うことで、二人は素の自分に返り純粋な夫婦となることが出来たのである。
(余談3・・喧嘩の後のセックスは燃えると言うから、あれほど壮絶な喧嘩の後に一体どれくらい激しいベッドシーンが拝めるのだろう・・と思ったが、そこはフェードアウト/フェードインでお上品に誤魔化しやがった!!まったく!!)
だが、この時点でまだ2人の呪縛は完全に解けていない。内装はボロクソになっといえ、「家」は敢然と2人の前にそびえ立ち、一夜のお楽しみも提供する。
だが仕上げはちゃんとしている。翌朝次々と家に襲い掛かる殺し屋集団との壮絶な銃撃戦。そしてご丁寧に大爆発まで起こして、家は木っ端微塵に吹き飛ぶ。
これ以降、まだしばらく映画は続くが、私にとっては長いエピローグに過ぎなかった。家を半ば自らの手で吹き飛ばし、嘘からまことに変わる家族関係の映画・・・それだけで十分だった。

ラストのカウンセリングもそう考えると意味深い。
「セックスの質問をしてくれ。10段階で何点かって?・・・・・10だ」みたいな趣旨の発言。
もちろんあまり深い意味はなく、単に全世界に自分たちののろけ話を伝えたかっただけだろう。
しかし、家による呪縛が解けた2人が、「夫婦」という不完全な家族から、完全な「家族」へとステップアップを目指し始めたことを示唆していると、取れなくもない。

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2 コメント

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大変 (RIN)
2005-12-30 10:19:06
結婚6年目で、「この愛は幻想である」ことに気づき、

破壊するのはもったいないので売却して、「家族未満」の関係に終止符を打った

私としましては、実体験とも照らし合わせ、大変興味深い考察でありました。

社会学の論文でも通用しそうです。
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コメントどうもです (しん)
2006-01-04 12:00:36
>RINさま

私は不完全とか幻想とかそれ以前にこの10数年、家族というものから縁遠く生きており、したためた記事など憶測の域をでておりません。

多分、家と家族についての考察なら、小津の研究本あたり調べれば、本当に論文になりそうなものが見つかると思います。

そんなこんなで、今年もよろしくです。
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