リスニングの指導の重要性が認識され、授業でも積極的に取り入れられるようになったのは、日本ではごく最近の話です。それまではOCという名のもとで、文法のテキストをひたすらやっていた学校が多かったのではないでしょうか。私が高校の時もそうでした。その時の私はなぜ授業がオーラルコミュニケーションと呼ばれるのかも考えずに、こんなもんなんだな、と思っていました。教科書は一度も使わずにゴミ箱へ捨てられました。
こういったことは今でも行われているかもしれませんが、少なくともセンター試験でリスニングが導入されてからは、ある程度まじめにリスニングを取り入れよう、という気持ちを教師が持ちはじめたと思います。そういう意味ではセンター試験のリスニング導入は大きな改革だといってよいでしょう。
ただし、リスニングの指導という面では、まだ手探りで行っていることも多いと思います。リスニングの指導方法について考えてみます。
リスニングでは、読んで理解できないような内容を聞き取ることは不可能なので、教材を選ぶ時には少なくとも読んである程度内容が理解できると思われるものが適当だと思います。しかしある文章が読めるからといって、聴いて理解できるとは限りません。理由として以下のようなことが考えられるでしょう。
①音声に慣れていない(隣接する語彙との同化、音素の脱落や挿入、強勢やイントネーション、音声のスピードなど)
②学習した語彙が語彙音声と一致していない
③リーディングではわからなければ読み返すことができるが、リスニングではそれができない
よってこれらを克服するように指導していくことが重要です。具体的にはまず、リスニングの指導を継続的に授業に取り入れることが大事です。リスニングは地道な努力が大事ですが、ある程度習慣化すれば、ある時ふと聞き取れるようになったと実感できるものです。そして2つめに、授業の時だけでなく、生徒が単語帳や読解問題を解く時にも、必ず付属のCDや辞書で発音を確認しながら語彙を習得していくことが重要です。そして3つめに、英語の音声の特徴を指導していくことも重要だと思います。それは先ほど挙げた同化(assimilation)や脱落(elision)、挿入(insertion)などを指導することで、入力された音を処理する際のチャンク化が正しくなされる手助けになるからです。
次に実際に指導する際の効果的な指導方法を考えていきます。生徒のリスニング能力はさまざまです。まったく理解できないものを集中して聴き続けるのは不可能です。よって難しい教材であれば、pre-listeningで、内容に関する絵や写真、映像などを見せると、特に初級や中級レベルの学習者には理解の補助になるようです。また、pre-listeningとしては、ほかに内容に関する語彙を復習しておくことも効果的です。しかし、pre-listeningで新出語彙を大量に与えても、その新出語彙に気をとられて逆に内容理解の妨げになるので、新出語彙は多くない方がよいと思います。語彙はリスニングでも非常に重要で、リスニングの理解度は語彙の理解度とかなり相関があるようです。また、内容の場面を説明しておいたり、集中して聴き取ってほしい重要な部分を指定したり、あるいはその後に質問に答える場合には、質問される部分をあらかじめ提示してから聴かせることも理解を容易にするようです。さらに音声スピードについては、ある程度慣れてくれば理解の妨げにはならないようですが、代わりに文と文の間のポーズの長さが理解に影響するようなので、理解していない生徒が多い場合は音声をゆっくりにするよりも、ポーズを長めにとるのがよいと思います。
音声に慣れさせるという意味では、特に初級の学習者には、リスニングに用いた教材を、自ら発音させることも重要だと思います。これは中級や上級の学習者にも有効だと思いますが、中・上級者には先ほどの同化・脱落・挿入などの音韻論的知識を明示的に指導することも大事です。
また、われわれが知っておかなければならないのは、リスニングの目的が必ずしもすべてを正確に理解することではなく、場合によっては要点や特定の情報だけでもよい、ということです。よって生徒にも、すべてを正確に理解する必要はない、ということは伝えるべきで、どの情報を聞き取れておけばとりあえず合格点かを伝える必要があります。また、「1度目はおおまかな要点」「2度目はこの情報」など、回数によって聴き取ってほしい内容を、スモールステップで具体化していくプロセスも大事だと思います。複数回聴かせることは、そういった意味でかなり有効です。
さまざまなレベルの生徒がいる授業内では、全員のモチベーションを保つ工夫として上記のいずれかを、生徒の様子を見ながら組み合わせて取り入れるとよいでしょう。ちなみにここのあたりの話について、詳しくはBrown(2011)や高梨(2009)を参照されたい。高梨については、研究の結果について載っているだけなので、かゆいところに手が届かない感じがします。教師が指導についての大枠を理解したいときや、大学生や院生が論文を書くときのとっかかりとして参照するにはよいと思います。
次に、「聴いた英語は英語のまま理解すべきなのか」という問題を考えたいと思います。これは前にも述べたとおり、ある程度日本語に訳して考えてよいと思います。以前も述べたように、本当に英語だけで理解できるのはネイティブだけであって、ある程度日本語で理解することが必要ならば積極的に活用すべきです。ここで問題なのは日本語か英語か、どちらか選べ、という議論ではなく、どの程度のことが「慣れてくれば」訳さずに理解できるようになるか、という「程度」の問題であると思います。すべてのトピックについて英語だけで理解するのは私にも不可能(私の英語力の問題もあるとは思いますが。これはもう勉強するしかないですね)なので、そのような議論は私には不毛に思えるのです。問題はリスニングでもリーディングでも、頭から聴いて(読んで)理解していく練習を積むことではないでしょうか。そういう議論なら私は大賛成です。日本では文法訳読式への過度の反省から、日本語を排除した授業を強調しすぎている傾向がありますが、少しいきすぎだと思います。話を戻しますが、上級者でも場合によっては日本語で考えることが手がかりになります。まして高校生の生徒の多くが、英語だけで理解できるほどリスニングに時間を費やせるとは思えません。おおまかな内容の概念化程度が精いっぱいでしょう。現実的な目標としては「英語を英語で理解する素地を養う」程度に設定しておくべきだと思います。
【参考文献】
Benati,A.(2013). Issues in Second Language Teaching. Equinox.
Brown Steven.(2011). Listening Myths Applying Second Language Research to Classroom Teaching. University of Michigan Press.
高梨芳郎.(2009).『〈データで読む〉英語教育の常識』.研究社.
こういったことは今でも行われているかもしれませんが、少なくともセンター試験でリスニングが導入されてからは、ある程度まじめにリスニングを取り入れよう、という気持ちを教師が持ちはじめたと思います。そういう意味ではセンター試験のリスニング導入は大きな改革だといってよいでしょう。
ただし、リスニングの指導という面では、まだ手探りで行っていることも多いと思います。リスニングの指導方法について考えてみます。
リスニングでは、読んで理解できないような内容を聞き取ることは不可能なので、教材を選ぶ時には少なくとも読んである程度内容が理解できると思われるものが適当だと思います。しかしある文章が読めるからといって、聴いて理解できるとは限りません。理由として以下のようなことが考えられるでしょう。
①音声に慣れていない(隣接する語彙との同化、音素の脱落や挿入、強勢やイントネーション、音声のスピードなど)
②学習した語彙が語彙音声と一致していない
③リーディングではわからなければ読み返すことができるが、リスニングではそれができない
よってこれらを克服するように指導していくことが重要です。具体的にはまず、リスニングの指導を継続的に授業に取り入れることが大事です。リスニングは地道な努力が大事ですが、ある程度習慣化すれば、ある時ふと聞き取れるようになったと実感できるものです。そして2つめに、授業の時だけでなく、生徒が単語帳や読解問題を解く時にも、必ず付属のCDや辞書で発音を確認しながら語彙を習得していくことが重要です。そして3つめに、英語の音声の特徴を指導していくことも重要だと思います。それは先ほど挙げた同化(assimilation)や脱落(elision)、挿入(insertion)などを指導することで、入力された音を処理する際のチャンク化が正しくなされる手助けになるからです。
次に実際に指導する際の効果的な指導方法を考えていきます。生徒のリスニング能力はさまざまです。まったく理解できないものを集中して聴き続けるのは不可能です。よって難しい教材であれば、pre-listeningで、内容に関する絵や写真、映像などを見せると、特に初級や中級レベルの学習者には理解の補助になるようです。また、pre-listeningとしては、ほかに内容に関する語彙を復習しておくことも効果的です。しかし、pre-listeningで新出語彙を大量に与えても、その新出語彙に気をとられて逆に内容理解の妨げになるので、新出語彙は多くない方がよいと思います。語彙はリスニングでも非常に重要で、リスニングの理解度は語彙の理解度とかなり相関があるようです。また、内容の場面を説明しておいたり、集中して聴き取ってほしい重要な部分を指定したり、あるいはその後に質問に答える場合には、質問される部分をあらかじめ提示してから聴かせることも理解を容易にするようです。さらに音声スピードについては、ある程度慣れてくれば理解の妨げにはならないようですが、代わりに文と文の間のポーズの長さが理解に影響するようなので、理解していない生徒が多い場合は音声をゆっくりにするよりも、ポーズを長めにとるのがよいと思います。
音声に慣れさせるという意味では、特に初級の学習者には、リスニングに用いた教材を、自ら発音させることも重要だと思います。これは中級や上級の学習者にも有効だと思いますが、中・上級者には先ほどの同化・脱落・挿入などの音韻論的知識を明示的に指導することも大事です。
また、われわれが知っておかなければならないのは、リスニングの目的が必ずしもすべてを正確に理解することではなく、場合によっては要点や特定の情報だけでもよい、ということです。よって生徒にも、すべてを正確に理解する必要はない、ということは伝えるべきで、どの情報を聞き取れておけばとりあえず合格点かを伝える必要があります。また、「1度目はおおまかな要点」「2度目はこの情報」など、回数によって聴き取ってほしい内容を、スモールステップで具体化していくプロセスも大事だと思います。複数回聴かせることは、そういった意味でかなり有効です。
さまざまなレベルの生徒がいる授業内では、全員のモチベーションを保つ工夫として上記のいずれかを、生徒の様子を見ながら組み合わせて取り入れるとよいでしょう。ちなみにここのあたりの話について、詳しくはBrown(2011)や高梨(2009)を参照されたい。高梨については、研究の結果について載っているだけなので、かゆいところに手が届かない感じがします。教師が指導についての大枠を理解したいときや、大学生や院生が論文を書くときのとっかかりとして参照するにはよいと思います。
次に、「聴いた英語は英語のまま理解すべきなのか」という問題を考えたいと思います。これは前にも述べたとおり、ある程度日本語に訳して考えてよいと思います。以前も述べたように、本当に英語だけで理解できるのはネイティブだけであって、ある程度日本語で理解することが必要ならば積極的に活用すべきです。ここで問題なのは日本語か英語か、どちらか選べ、という議論ではなく、どの程度のことが「慣れてくれば」訳さずに理解できるようになるか、という「程度」の問題であると思います。すべてのトピックについて英語だけで理解するのは私にも不可能(私の英語力の問題もあるとは思いますが。これはもう勉強するしかないですね)なので、そのような議論は私には不毛に思えるのです。問題はリスニングでもリーディングでも、頭から聴いて(読んで)理解していく練習を積むことではないでしょうか。そういう議論なら私は大賛成です。日本では文法訳読式への過度の反省から、日本語を排除した授業を強調しすぎている傾向がありますが、少しいきすぎだと思います。話を戻しますが、上級者でも場合によっては日本語で考えることが手がかりになります。まして高校生の生徒の多くが、英語だけで理解できるほどリスニングに時間を費やせるとは思えません。おおまかな内容の概念化程度が精いっぱいでしょう。現実的な目標としては「英語を英語で理解する素地を養う」程度に設定しておくべきだと思います。
【参考文献】
Benati,A.(2013). Issues in Second Language Teaching. Equinox.
Brown Steven.(2011). Listening Myths Applying Second Language Research to Classroom Teaching. University of Michigan Press.
高梨芳郎.(2009).『〈データで読む〉英語教育の常識』.研究社.