ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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“鮮度が落ちたから”とクビになった女性スタッフの叫び…

2013年08月21日 | Weblog

 2013年7月28日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「“鮮度が落ちたから”とクビになった女性スタッフの叫び…」
 
を企画、取材、執筆しました。
 
 

 改正労働法が今年4月に施行されて、派遣、パート、アルバイトなどの非正規労働者が、今年4月から数えて通算5年を超えて労働した場合、労働者の申し出により無期雇用に転換できることになった。この法律により、今から5年後には、非正規の無期雇用化を嫌う企業による雇い止めが続発するのではないか、と懸念されている。

 そんな中、早くも同法による雇い止め事件が起きた。それは首都圏や関西、中国、九州で格安のコーヒーショップ「カフェ・ベローチェ」を全181店舗で経営するシャノアール(本社東京)でのこと。雇い止めされたA氏(女性、29歳、顔、名前はNG)は7月23日、シャノアールを相手取り、損害賠償を求め東京地裁に提訴した後、厚生労働省記者クラブで会見を行った。5年後の未来を先取りしたかのようなこの労働事件の実態を知るため、現地へ向かった。

 会見場には、新聞、テレビの記者クラブメディアやフリーランスなど18人が参加。会見者側には、A氏のほか、A氏の所属する首都圏青年ユニオンの顧問弁護団や幹部が出席した。

 会見者側によると、A氏はカフェ・ベローチェ千葉店で、03年8月~07年3月、08年7月~13年6月まで、通算4年11か月にわたり、3か月の契約期間を19回更新して働いた。

 ベローチェ千葉店では、店長1人が正社員で、他は約25人の非正規の女性従業員が働いていた。店長不在時には、パート・アルバイトのなかから、「時間帯責任者」を決めることになっていて、A氏は入社から約1年後の04年10月以降、仕事内容を十分に理解している、と店長に判断され、時間帯責任者を任されてきた。

 異変が起きたのは12年3月23日のこと。休憩中に店長から、店長以上向けの通達が本社から届き、そこには「契約期間3か月の契約更新は15回を上限とする。すでに勤務4年を超えているアルバイトについては、2013年3月15日をもって更新できなくなる」と書いてある、とA氏は店長に告げられたのだ。

 A氏はこの時点で勤務期間4年を超えているので、一年後に雇い止めされるということになる。A氏は店長に「それは私を解雇するという意味ですか?」と聞いた。すると店長は「そういうことになるみたいです」といい、他のスタッフが理由を聞くと「そういう法律ができるみたいです」と店長。

 実はちょうどこの日、国会で「労働契約法の一部を改正する法律」(5年ルールを定めた法律)が提出されていた。

 長年働いたベローチェを追われることを不当だと感じたA氏は、12年4月20日、首都圏青年ユニオンに加入し、翌月から、雇い止め撤回を求める団体交渉を重ねた。

 その後、会社側は、13年2月25日、人事部長が「雇い止めを撤回し、契約更新していく」と明言して、一件落着かに見えた。しかし、翌3月7日、人事部長は突然、合意を破棄する、と言い始めた。理由は、「社長、専務の許可が下りなかったため」というものだった。

 結局、A氏は今年6月15日をもって雇い止めでベローチェを追われた。

 なお、団交のなかで、シャノアールは、雇い止めをする理由を「定期的に従業員を入れ替えて若返った方がいい。従業員を入れ替えないと“鮮度”が落ちる」と述べていた。シャノアールの社員は5,161人(うち社員数382人、HPより)。そのうち非正規の約5千人の大半は学生を中心とした女性である。鮮度とは学生を指しているが、それは年齢差別も意味する。特にA氏は大学時代に同店で働いて以降、現在は大学院生として研究活動に従事するかたわら、塾講師やベローチェで生計を立てている身なのである。

 会見でA氏はこう語った。「会社から一度、今まで通りの契約内容で更新をする、との回答を得られた時に、泣いて喜びました。それから10日後に、社長がダメだと言ったから和解協定書は結べない、と言って会社は約束を破りました。そのことも傷ついたし、大好きなお店だから続けてきたのに、なんでこういう不誠実な対応をされるんだろう、と。それまでもずっと哀しいと思っていたけれども、働き続けたいと思ったので、ずっと交渉をしてきましたが、そういうふうな態度を取られたので、非常に傷つきました」

 さらにA氏は、悔しき涙を流しながら、こう語った。「裁判をしようという一番の決め手になったのは、ユニオンと会社の折衝の場で、会社が辞めさせる理由として、野菜とか魚のように『鮮度』『新鮮さがなくなったから』『賞味期限がきたから』と。もう私も足かけ10年働いていましたが、もう必要ないんだ、と。仕事は誰よりもできるのに、もう要らないというふうに言われたことが、どうしても許せなかった、それが一番の理由です。生活の糧を奪われただけではなく、人としての価値を奪われるような発言をされたことが、決め手でした。ベローチェ全体で働く5千人の従業員はほとんど女性なので、一生懸命働いているスタッフに対して、そんな目で私たちを見ていたのか、ということを、どうしても外の人に知っていただきたいという気持ちで提訴を決意しました」

 なお、シャノアール本社にこの裁判についての見解を聞いたところ、「訴状の内容がまだ届いていないので、お答えできない」というのみだった。

 今後ますます増えていくであろう、長期の雇用期間を原因とした雇い止めについての、司法判断を占う上でも、注目の裁判といえよう。(佐々木奎一)


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