引き続き、「多摩川猫物語」(角川書店刊)の著者で、多摩川の猫たちの治療や給餌を続けるフリーランスのカメラマン小西修氏に、筆者は、こう質問した。
「この二十五年間で、多摩川の不幸な猫の数は、ちょっとは減っているのですか?」
小西氏は、こう語った。
「減っていない。やっぱり、僕だけではなく、ボランティアの人がいて、保護をしたり、健康診断したり、地域猫もそうですよね、ネットとかを通じて里親に出して、新しい飼い主を探したりしますよね。
だけどね、捨てる人が後を絶たないんだから、減らないですよ。
もう、そこらじゅうにいっぱい、歩いているわけです。捨てている人間が。ただ、それが顔に書いていないから、わからない。
虐待もそう。猫の虐待があった、と、たまにテレビなんかでニュースが流れているのがありますよね。そんなのは氷山の一角で、もう、そこらじゅうにある。
まさに猫を捨てた現場も何回もみたことあるし、捨てる直前の人もみたことがある。いざ、捨てようとしている人を、うちのカミさんが発見したこともあったけど、ムニャムニャムニャムニャはっきりしない言動だったから、三匹、うちで保護して、三匹とも、うちでネットで里親さんを見つけたこともありました」
「譲渡活動もしているのですか?」と筆者が聞くと、小西氏はこう話した。
「譲渡活動もしています。それでも譲渡がなかなかできない猫が今現在、うちにいるわけです。なかなか飼い主が見つからないっていうのは、それなりの理由があって、精神的に大きなダメージがあって人になつかない、とか、非常に治すのが困難な病気をもっている、とか、そうした猫の世話というのは、ものすごく時間がかかるんです。
猫をただ飼っているだけではわからないくらい時間がかかる。ご飯食べさせて済む話ではないんです。毎日、薬もしている。だから、うちの場合は、多摩川においても、夜の十二時でも二時でも、夜いる猫の世話は常にします。だから、うちのカミさんが帰っても、まあご飯くらいは食べますけど、じっとしている時ってないですよ。
それがずーっと続いているんです。だから、これは猫が好きだからできるっていう話ではない。命の問題だ。だから、写真展とか、写真集にしても、訴えるためですからね。それはもう、執念ですよ。猫のためですよ。
ホームレスさんだって、人によっては、役所の福祉事務所へまず行って、水際で全部断られるわけですよ、いまは。それを、説得して、施設へ行き、生活保護をもらえるようにしたことは、私もあるし、うちのカミさんもある。
だから、同じなんですよ。ホームレスの人と。ホームレスさんのことを何にも知らない人は、仕事するのが嫌いで、酒ばかり飲んでいて、横着でグータラだからホームレスになる、と思うんですけど、まったく違いますからね。
それは、それなりの事情があってそうなって、苦しい境遇を生きてきているわけです。たまたまホームレスになったわけで、ホームレスの人も、ホームレスになると思っていた人いないんですよ。ならざるをえなくなっちゃったから、なった」
多摩川には、そうした社会の縮図がある。
(続く)