ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

※ブログ下記移転しました(2015年7月以降)
http://ssk-journal.com/

刑事ドラマとは違う…過酷な『取り調べ』の実像

2012年06月28日 | Weblog

 

 検察や警察の不正な取調べが冤罪を生み出しているという批判は根強く、取調べの可視化の必要性を訴える識者は多い。そうした中、「刑事ドラマ、ここがおかしい?~取調室で本当に起きていること~」と題する講演が17日、都内であった。主催はアムネスティ・インターナショナル日本。講師は、日弁連の「取調べの可視化実現対策本部事務局次長」をつとめる西田穣(みのる)弁護士。取調べの実像を知るため、現地へ向かった。

 会場は20代の若者から70代頃の高齢者まで老若男女約40人が参加。講師の西田氏は開口一番「正直、私、今日はちょっと緊張しています。取調べについて答えられる自信はあるのですが、『刑事ドラマ、ここがおかしい?』というタイトルがついていて、刑事ドラマについて、すごい解説をすると期待されていたらどうしようと思って(会場爆笑)、私も、刑事ドラマといえば、昔は、『太陽にほえろ! 』を観て、今は、『相棒』と、2時間ドラマを観ているくらいのものなので、そんなに詳しいわけではないので」と前置きしつつも、刑事ドラマについてこう切り出した。

 「2時間ドラマで一番盛り上がるシーンは、自白シーンです。なぜか。それが好まれるからです。ドラマを作りあげる上で理想的な事件解決像は、否認していた被疑者がいて、真犯人が発覚するか、もしくは、その被疑者が自白する。この二つしかない。日本の司法制度は、基本的には、疑わしきものは罰せず、なので、真犯人だという確証がつかめなければ、無罪で終わるべきですが、ドラマは、そこでは終わらない。被害者がいるのに真犯人がわからない、では納得できないので、真犯人が必要になってくる。そこで問われるのは、自白という証拠の有用性と危険性です」

 そして自白のリスクについてこう語る。「自白は、はっきりいって刑事裁判的には、害しかない。刑事ドラマにおいて、根底で間違っているのは、法律上、自白は不要とされている、という点です。むしろ、法律では、自白を強制的に取得することは、禁止されています。それなのに、自白シーンをつくらなければならない。そこが間違っている」

 次に自白の有用性についてこう述べる。「有用とは、裁判官の見地からみた有用性です。裁判官は、現実の法廷で自白を重視する傾向がある。その理由は、単純に、裁判官も間違った判断をするのが怖いからです。だから、自白があると安心する。目の前に被告が、自分がやった、と認めていれば、有罪判決にしても、『認めているんだから、たぶん、そうなんだろう』という、変な安心感が生まれる。加えて検察官も『この人が犯人だ』と言っているし、色々な証拠も集めてくる。『この人が犯人じゃない』と言っているのは、この人の親族と弁護人だけだ。だったら、この人、有罪にしちゃっていいんじゃないか、という心理が働きやすい。つまり、自白があった方が楽なのです。その裁判官の姿勢が結局、捜査機関に影響を及ぼす。つまり、捜査機関は有罪判決にしたいわけですから、一層、自白を取ろうとする。こうして悪い連鎖が続いて自白が重視される。それが、現状なんです」

 さらに西田氏は「身柄拘束制度」について「法律では、自白採集を目的としていない、と謳っていますけども、残念ながら、自白採集を目的としている、と言わざるを得ない」という。日本の刑事手続きでは、いったん逮捕されると、まず、最大72時間、拘束される。その後、検察官の請求手続により、最大10日間拘留され、拘留延長で、さらに最大10日間拘留される。

 「ここで考えて頂きたいのは、最初の逮捕からの、72時間と拘留10日間と延長10日間、 合わせて23日間、身柄拘束を受けるという点です。これはどういうことかというと、仕事のある方は、23日間会社に連絡できないまま、警察署に閉じ込められるということです。否認をしていると、接見禁止となり、弁護人以外と面会することができなくなります。なかには、刑事弁護についてそれほど知識のない弁護士もいて、23日間のあいだに、一回か二回しか接見に来てくれない場合もある。そうなると約十日間、誰とも面会できない。つまり、240時間、刑事と検察以外の誰とも話せない。お風呂も週二日程度で、留置の係の人の気分次第で、横になっているだけで注意されたりもします。そういった人間の尊厳が奪われている環境のなかで、果たしてまっとうな精神状態でいられるか」

 そして、先進国と比較し「諸外国では一般的に、身柄拘束をする場合は、別の機関に移動させて、もし警察が取調べをしたいなら、警察がそちらに行って取り調べをしている。 しかし、日本では、いまだに、そういった機関がないまま、代用監獄として警察署のなかの留置所を代用して23日間、取調べをする。これは悪の根源だと思いますね」と指摘。

 真実でないことを自白してしまう理由については、こう語る。「よく自白をしてしまった人が言うのですが、何日も取調べを受けて、毎回、『自分は無罪で何もやっていない』と言い続けても、相手が信じてくれない。信じてくれない相手に、一生懸命しゃべり続けるのはすごく苦痛。そのうち、どういう心境になるか。『警察と検察は信じてくれないが、裁判所でキチンと全部話せば、裁判官はわかってくれるんじゃないか』という心境に駆られるんです。こうした“孤立無援”のなかで自白してしまう。問題は23日間の取調べ。ドラマは取調室のシーンしか写しません。だけど、それ以外の時間で、被疑者はものすごく疲弊していく。その疲弊が、真実ではない自白に至らせる。そこを知っていただきたい」

 折しも「取調べの可視化」は今、法務省の審議会で議論されている。西田氏によると、今後、可視化が法制化されるのはおそらく間違いないというが、問題は、取調べの全過程がしっかり録音、録画されるかどうかだという。可視化が一部だけならば、依然として冤罪が可能になってしまう。今後の行方を注視したい。(佐々木奎一)


 
 
 
 
 
 
 2012年5月27日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「刑事ドラマとは違う…過酷な『取り調べ』の実像」
 
を企画、取材、執筆しました。
 
 
 
写真は西田穣(みのる)弁護士。


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
彼等は人を人だと思っていません! (被害者A)
2015-06-11 06:33:19
痴漢に間違えられれば、認めなければ釈放しない、被害届けを出した者の一方的な話しか信じない、言葉が荒すぎる、こちらの話は受け入れられない、取り調べは一日中、だから無罪でも何でも認めて出れるのであれば、相手に示談金を払って出る方が早い為に、刑事や検事の話に、はいそうです。反省してます。と言って示談金を払う、こちらがそこまでしても示談が成立するまでは必要以上に追い詰める、携帯は募集され調べられ、家宅捜査さえもしようとする、人の人生など考えていない、こちらは真面目に働いて税金払って、税金で食っている奴等にそんな事される以上ですよ!彼等は逆に男性が痴漢をされたと言ったとしても相手にはしてくれません、男性が女性に殴られたとしても相手にしてくれません、子供が母親に殴られたとしてもです。骨折や入院くらいにならない限りは女性の味方なのです。男性が女性に少し触れたくらいで人生ボロボロにされ、女性は殴ったりしても許される世の中は腐ってます。
男性は子孫反映の為の本能としてクラっときて触れてしまうのは本能として理解出来ると思いますが、男女平等と訴えている世の中で、男女の差が極端過ぎると思います。警察とかは女性に対して下心がある様な気持ち悪いくらいなに態度が違います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。