読書の記録

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女子高生、リフトオフ!     (と ゼロ・グラビティ)

2014年02月13日 | SF小説
女子高生、リフトオフ!     (と ゼロ・グラビティ)

著:野尻抱介


 どっちもネタばれ。


 野尻抱介の「南極点のピアピア動画」や「ふわふわの泉」が面白かったので、こちらも読んでみた。
 で、それと前後する形で、評判の映画「ゼロ・グラビティ」も観たのである。

 これが重なったのは偶然だったのだが、想像以上に被っていて笑ってしまった。「女子高生、リフトオフ!」の後半と、「ゼロ・グラビティ」は、ほとんどおんなじことをやっているのである。
 宇宙空間でスペースデブリが原因で事故にあい、母船を捨てて他国の宇宙ステーションを渡り歩き、その宇宙ステーションでもいろいろ事故があるが、最後は力技の帰還で大気圏に再突入し、カプセルは無事に地球上に生還する。

 おんなじである。
 なのに、温度感がまったく違う。笑っちゃうくらいに違う。
 で、どっちもオモシロイ。


 彼の他の小説もそうだが、非常に科学技術的というか緻密に積み立てられるハード面と、あっけらかんとコトを成し遂げるヒトのココロの極端なギャップが、この小説の味ある部分である。
 機体の素材や燃料、あるいは軌道の計算については妙にロジカルなのだが、一方で、主人公森田ゆかりが猛烈な宇宙パイロット訓練において教官となされる会話、

 「横暴だ!」
 「それがどうした!」

 もしくは

 「逆ポーランド記法を知らんのか!」
 「知ってるわけないでしょ!」

 この会話だけで大笑いできる。

  デブリで軌道がずれようが、船外活動で機体の破壊を発見しようが、ロシアの宇宙ステーションが爆発しようが、どこに着地するかわからない再突入だろうが、ゆかりはなんとも天然的で前向きである。すがすがしいくらいである。

 映画「ゼロ・グラビティ」も、主人公のライアン(女性)は、宇宙でのミッションは初めてという立場である。そんな人物がたいへんな事態に巻き込まれる。
 評判の通り、この映画では無重力というもののやっかいさ、すなわち重量はゼロだけれど質量はそのまんま、ということが克明に描かれている。これこそ「女子高生!リフトオフ」ではちゃっちゃっとはしょられているが実はものすごく面倒で慎重を要する要所で、そんな環境条件下を次から次へとやってくる事故やハプニングに、ライアンはパニックになりそうになりながらも、同僚の力なども借りながら、ひとつひとつ着実に冷静にこなしていく。

 要するに、宇宙飛行士というのは精神的にも猛烈にタフでクールでなければならないということである。
 往年の名作「2001年宇宙の旅」ではボーマン船長やプールが異常なほど冷静に見えたものだったが、実際にあれくらい精神をコントロールする訓練を受けるということなのだろう。


 あとどちらの作品も、普段は信じない「神」というものが微妙に関わってくるところも共通している。信じるものは勝つのだな。


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