読書の記録

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国際メディア情報戦

2014年02月15日 | マスコミ・報道

国際メディア情報戦

著:高木徹

 

 さて、ソチ五輪がもりあがっているわけだが、ソチの中心部というのは東京とあまり地勢条件がかわらないそうである。だから、東京の冬に冬季五輪をやるようなもので、つまり雪がない。たしかに中継映像をみても、街中に雪国の印象はない。

 トリノやバンクーバーに比べるとなんでこんな場所が選ばれたのか? という疑問が残る。

 

 で、本書によればなにがなんでもロシアがこの場所で開催させたかったということである。

 というのは、このソチの近くには例のチェチェンがあるし、また国土問題でもめているグルジアもある。

 とくにチェチェンは独立派との武力衝突というか、ロシア側の武力制圧に近い動きもあった。国際世論的には必ずしもみなロシアの味方をしていない。むしろ西側諸国的にはチェチェン側に同情があったのではないかと思う。

 だから、ロシアがこの地でテロもなく、平和裏に五輪が開かれることは、この地がロシアによって平和に統治されていることの国際的証明に他ならない。そこにグルジアも参加してくればなおさらである。

 

 だが、そう都合良くは問屋が下ろさない。ロシアが懸命にロビー活動をしたとしても、そう思惑通りIOCが簡単にソチを開催国に決定するとも思えない。

 しかし結果論からいうとここにアメリカの思惑が一致した。

 

 本書によれば、去年起こったボストンマラソンの爆発テロの犯人は、「チェチェン・コネクション」があった、ということになっている。 本当はどうかしらないが、PR戦略によってそうなってしまった。

 これはつまり、爆破技術も含むテロ思想の持ち主はアメリカ国内から持ち上がったのではなく、あくまで外部であるチェチェンにあった、という見立てである。前者だとアメリカ国内はたいへんな疑心暗鬼を起こすことになるが、後者のようにあくまで外部にあるのであれば、これまでと同じく、アメリカはテロと戦うことを声高に宣言すればいいのである。

 

 よって、チェチェンには尖鋭化したテロの温床があることをアメリカも認め、そのチェチェンをロシアが管理下におき、無事にソチで五輪が開催されれば、アメリカもロシアもWIN-WIN、悪者はチェチェンただ一人、とそういうことになる。チェチェンの独立派がすなわち原理派ということになれば(あるいは協力関係にあるとすれば)、なお都合がよい。

 おお、まるでゴルゴ31だ。

 

 だが、ひとつ大きな矛盾がある。

 ボストンマラソンの爆破事件は、ソチが開催国に決まったあとに起こっているのである。

 だから、もともとアメリカは爆破事件より前から、少なくとも政府はチェチェンを標的にしていたととらえることができる。イスラム原理主義の尖鋭部隊がチェチェンの山岳地帯に潜んでいるということをつきとめていたか、あるいはそういうことにしてしまったか。また、この兄弟を事件を起こすまで「泳がせていたか」。

 

 本書は戦争を含む外交や国際戦略にPRがたいへん重要な役割を果たすようになったことを指摘している本である。10年前に「戦争広告代理店」が刊行されたときは、その内容にPRの極北を見て、そら恐ろしくなったわけだが、そこから時代はさらに進歩した。

 いまや、敵を討つときは、兵士より先にくっついてきている戦場カメラマンのほうを先に狙うようになっているらしいほど、PRは戦略を左右しかねない勢いである。

 だから、アメリカとしては国内は常に安定で平和で自由民主主義が守られており、それにあらがうものはすべて外部である、という見立てをつくるPRのネタを常に確保しようとするだろうし、ロシアがソチで五輪を開催することは、たとえボストンマラソン事件の前であったとしても、充分にその時点のアメリカでPRの「保険」になるくらいは考えるだろう。なにしろこのときはまだビンラディンは生きている。もちろんロシアに対して「貸し」にもなるだろう。おやこんな時間に誰か来たようだ。


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