読書の記録

評論・小説・ビジネス書・教養・コミックなどなんでも。書評、感想、分析、ただの思い出話など。ネタバレありもネタバレなしも。

歴史入門

2019年10月06日 | 歴史・考古学

歴史入門

フェルナン・ブローデル 訳:金塚貞文
中央公論新社


 ウォーラーステインの近代世界システム論を追いかけるとブローデルに行き着く。大著「地中海」の存在は前から認識していて教養人必読書みたいに神格化されているのも知っている。しかし、現代なお、文庫化も電子書籍化もしておらず、大判で高価でしかも複数巻ものである。とてもモビリティに耐えられず、僕は未読である。実は第1巻だけ実家の書棚にあらせられたりするのだが、その質量の重厚感には手にとるだけで圧倒される。

 そんなわけでウォーラーステインの近代世界システム論同様、ブローデルの歴史観についても浅い聞きかじりでしか知らない。歴史には長波と中波と短波がある。政治的な社会的な史事は「短波」に属し、とるにたらないつまらないものであって、人間社会の歴史をみるには地勢・環境・風土的要因である「長波」、そこでの人間の生活活動における「中波」を観なければならないーーーーというのだけはかろうじて何かから聞き及んでいたわけだが、ぼくのブローデルに関する知っていることといえばそれだけである。

 そうしたら、中公文庫にブローデルから「歴史入門」という文庫本が出ていることを知った。「近代世界システム分析入門」に引き続きこちらも読んでみることにした。さいきん入門続きである。


 で、読んでみて。

   なるほど。ブローデルによると人間社会の3階層というのがさらにある。「物質社会」「経済社会」「資本主義社会」である。物質社会というのは生産と消費の社会、経済社会というのは分担と交換の社会である。ここで貨幣が意味を持ってくる。で、資本主義社会というのは経済社会の発展の末に登場するエージェント社会だ。エージェントというのは物事を支配するのである。

 また、この本でも近代世界システム論の「中心」「半中心」「周縁」が出てくる。ウォーラーステインはブローデルの弟子(?)みたいな関係になるようだが、ブローデルの歴史観にもこの3層が出てくる。

 したがって、歴史俯瞰としては

 ①時間軸としての「長波・中波・短波」
 ②社会軸としての「物質社会・経済社会・資本主義社会」
 ③依存関係軸でいうところの「中心・半中心・周縁」

という3つの次元があってそれの掛け合わせである。これで世界の歴史が俯瞰できちゃうのである。すごいなあ。
で、本当はそれぞれの軸について膨大な研究と著作があるわけで文庫本1冊で済むわけではないのだけれど、この「歴史入門」ではまずはその見取り図みたいなことを教えてくれる。なるほど「歴史入門」である。

 訳者金塚氏による巻末の解説によると、時間軸「長波」に対応する社会軸が「物質社会」であり、「中波」に対応するのが「経済社会・資本主義社会」とのことだ。また「資本主義社会」が「中心・半中心・周縁」という共時型のシステムを強固にしたということである。

 地中海都市国家からアムステルダムへ。それからロンドンへ。そしてニューヨークへと覇権の中心が移動し、今しばらくはニューヨークすなわちアメリカが覇権の時代ではあろう。とはいえ、しょせんは「中波」。また中心が移動する可能性は十二分にあるし、資本を生み出す元が何になるかも変わっていく。


 この歴史観から思うのはやはり現代の中国だ。
 いずれ必ずアメリカを抜くと言われる中国のGDP。金融や情報におけるハイテクの極みを中国は国家戦略的に進めていて、その最終的ねらいは世界を動かす「ドル通貨軸」からの解放、そして「元通貨軸」の成立である。中国は西洋諸国に比べて時間軸に対しての捕らえ方が長期スパンとされている。西洋諸国が10年単位でものごとの推移や段取りをとらえるとしたら中国は100年単位で決着をつけようとする(香港と中国本土の問題ももともとをたどるとこのあたりまで話が及ぶ)。本書によれば、中国は社会軸でいうところの経済社会で完結してしまって資本主義社会が発生しなかったことを指摘しているが、いまから見れば国家そのもの(中国共産党)が資本を蓄積して覇権に乗り出しているわけである。
 
 
 それにしても、中学・高校時代の世界史という授業。ぼくはまったく興味が持てなかった。日本史の授業のほうが最近はやりのコトバでいうとナラティブ性があってがぜん面白かったのである。これは小学校時代にぼくが小学館のまんが日本の歴史全20巻を愛読していたからだ。(この小学館まんが日本の歴史は「ビリギャル」でもおすすめされていた良企画である)
 世界史のほうが断片的で全体的な潮流がつかめず、僕にとっては暗記科目に堕してしまったのだった。まんが世界史というのも存在していたけれど、どうしてもエジプト・ギリシャ・ローマとエリアを渡り歩いたり、キリストが出てきたりと情報が散逸的になりやすく、物語に入りこむ機会がない。
 ブローデルやウォーラ―ステインのようなイントロで歴史の授業に入ったら、世界史ももう少しおもしろくとっかかれたのかもしれないななどと思う。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 読む力聴く力・野宿入門・人... | トップ | サバイバル組織術 »