サバイバル組織術
佐藤優
文芸春秋
これは僕が以前の会社に勤めていたときに先輩から聞いた強烈な話である。先輩は「原石人材」と「研磨人材」というコトバを使った。原石はみがくと宝石になる。しかしそのためには研磨石がいる。なんだかんだで組織の評価というのは相対的であるから「できる人」の横には「できない人」が必要となる。つまり、「できる人」を作り出すには「できない人」がいなければならない。
いちど「原石人材」と「研磨人材」としてレールにのると、その後ますますこれは助長されるというのが先輩の解説であった。たとえばある仕事があってまずAにその仕事をまかせるがうまくいかない。で、次にBにさせるとうまくいく。ところがBが成功したのはAによってどうすればうまくいかないかとか、どこまでは掘り進めたのか、とか先行情報があったからでもある。
しかし結果からするとAは仕事ができない、Bは仕事ができるという評価になる。そしてAが「研磨人材」、Bが「原石人材」となる。Bにはますます大事な仕事が来る。Aには誰でもできるような仕事しかこない。査定などの人物評価はバイアスがかかりやすいから、いちどこういう評価がつくとそれを後々覆すのはなかなかエネルギーがいる。
その先輩が「原石人材」と「研磨人材」のどちらだったのかはともかく、当時新人の僕にとってかなりインパクトのある話だった。その後、会社組織というものを眺めていて確かにそう思えるような人事や査定評価をみることは確かにあった。
この話の恐ろしいところは、実はBは本人の意識無意識にかかわらず、Aのような自分を引き立てる存在をいつのまにか引き寄せるのである。また、Aは知らず知らずにBのお膳立てになってしまうような仕事を引き出してしまうのである。
組織ってそういうところなのである。上層部がこの仕事を最初からBにはさせなかったり、あるいはBが最初はAに担当させるように立ち回ったりするのだ。
つまり、抜け目ない人は、自分が「原石人材」になるように周到に「研磨人材」を用意して利用すると思ってよい。あなたは、誰かの研磨人材になっていないかはかなり注意したほうがよい。また、サバイバルという観点からすれば、あなたは誰かを研磨人材にしなければならないのである。