読書の記録

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「無理」の構造

2019年05月25日 | 生き方・育て方・教え方

「無理」の構造

細谷功
dZERO


 「アタマが来てもアホとは戦うな」と似たようなことをより真面目に語っているという感じか。

 ここでの大事なテーゼは「無知の知」である。「世の中には2種類の人がいる」という言い方があるが、それを借りると、世の中には「無知の知」に気づいている人と、気づいていない人の2種類がいる、と言ってもいいくらいだ。もちろん戦ってはいけない「アホ」というのは、「無知の知に気づいていない人=無知の無知の人」のことである。

 「無知の知」というのは、”自分に知らないことがあることを知っている”という状態だ。この概念の起源はソクラテスにまでさかのぼるが、西洋思想の礎のひとつになった。「サピエンス全史」によれば、欧州は「無知の知」に気づき、それがあくなき探求心や冒険心を駆り出でたのに対し、大中華帝国は”自分に知らないこど何一つない”という思想に至ってしまったため、進歩や進化をとめてしまったと見立てている。大航海時代からアヘン戦争、その後の世界史に至る西洋列強の拡大と中国の停滞・没落の背後にあるのは「無知の知」に気づいていたかどうかだ。

 まあ、西洋と中国の話は極論といってしまえばそれまでだが、ある種の真理を含んではいるだろう。「自分はすべてを知っている」という考えほど、自滅リスクが高いものはないと言っていいくらいだ。

 ただ「無知の無知」バイアスはけっこう侮れない。行動経済学的には人はほっとくと「無知の無知」になるといってもよさそうだ。ロジック的には「無知の無知」は齢をとるほどそうなりやすい。文化習俗から社会制度まで、「無知の無知」がハバを利かせそうなことはいっぱいある。

 ”実るほどこうべを垂れる稲穂かな”

 肝に銘じないといけないと思う。


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