読書の記録

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青函連絡船ものがたり

2008年03月10日 | ノンフィクション
青函連絡船ものがたり----坂本幸四郎----文庫本

 本書もまた、消えゆく名著だ。朝日新聞社で文庫化まではされたが、青函連絡船そのものがもはや演歌の中でしか出てこない名前だし、たぶん今後の復刻は望み薄だ。だいたいこの本、タイトルが損をしていると思う。

 この本は決して「青函連絡船よもやま話」ではない。著者は青函連絡船の通信士だった人で、本書は莫大な資料や調査に支えられた、立花隆や柳田邦男もかくやたる大ドキュメンタリーなのである。全編の3分の2は、5隻の船が沈んだ未曾有の海難事故「洞爺丸台風」について割り当てられており、膨大な資料や生存者の証言、著者自身の当夜の体験から事故の全貌や裁判の行方を追っており、息もつかせない。また、洞爺丸だけでなく、第十一青函丸や日高丸など、他の船の命運も記述され、当夜の函館湾の各船の動き(と沈没)を矢印で示した図は、とてつもないことがこの日、この場所で起こったことを説明するに充分である。(中には生存者ゼロの沈没船もあるが、他の「沈没した」船に乗船していて救助された人が、その船が沈没しているのを目撃していて、どうやって沈没したかわかった、なんてのもある。すさまじい話だ。)

 ところで、洞爺丸台風事故については、上前淳一郎「洞爺丸はなぜ沈んだか」(文春文庫)があり、こちらのほうがポピュラーである。上前氏は元新聞記者なので、記者らしく証言を再構成して、当夜を時間の推移と共に小説風に仕立てている。好みもあると思うが、当事者として船の上でこの嵐に遭遇しており、海難裁判や裁決までも取り扱った「青函連絡船ものがたり」のほうが読み甲斐はあると思う。

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