「最長片道切符の旅」取材ノート---宮脇俊三---ノンフィクション
果たして誰が買うんだろうか、とも思うが、勝算があるからこそ新潮社も出版したのだろうな。
僕が、初めて「最長片道切符の旅」を読んでみたのは、小学5年か6年生の頃だったと思う。既に何冊か彼の本は読んでいて、文芸春秋から出た「時刻表おくのほそみち」なんかは編集者との掛け合いなんかも楽しくてかなり気にいっていたのだが、一方で「最長片道切符の旅」はさすがに長大で、しかも一人旅という渋いところもあり、一回目は途中で挫折してしまった。始めて完読したのは中学生になってからだったと思う。
それからは彼の他の本と同じく、この「最長片道切符の旅」も何度か読み返していて、去年も一度読んでいる。だから、たいていの文章やシーンは、正確とまではいかなくても、なんとなく思い出すことができる。
で、何が言いたいかというと、それくらい宮脇俊三氏の著作、ならびに「最長片道切符の旅」を読み込んだ人でなければ、この「『最長片道切符の旅』取材ノート」は面白くないだろうな、ということである。だって、これは「最長片道切符の旅」を執筆するために旅行中にひたすら綴っていたメモ書きの集大成なのである。
つまり「取材ノート」には記録されていて、本編には採用されなかったエピソード、あるいは本編に用いられたエピソードなどが知れたり、走り書きで冗長なメモ文が、本編では精錬されて一級の文章に変貌していることが対比できたりとか、個人的にはなるほど、へーそうか、と非常に面白かったわけだが、しかしどうにもマニアックであることは否めない。また、宮脇俊三氏自身が、自分が鉄道マニアであることを充分自認してながらも、世の中へのアウトプットとして、マニアとしての内輪受けに堕さないことに腐心しており(彼の文章に「同じ井戸の中の蛙同士で万歳三唱したってつまらない」といった文章があり、なんてうまいこというんだと感心した覚えがある)、しかも文章の仕上げにかなり神経を使っていた作家だけに、こういう本が出てしまうことは、決して本意ではなかったようにも、ちょっぴり思う。