読書の記録

評論・小説・ビジネス書・教養・コミックなどなんでも。書評、感想、分析、ただの思い出話など。ネタバレありもネタバレなしも。

柿の種

2008年05月12日 | エッセイ・随筆・コラム
柿の種---寺田寅彦---エッセイ

 いつのまにやら岩波文庫で再販されていた。
 以前「寺田寅彦は忘れた頃にやってくる」という新書を紹介したが、明治から昭和にかけて生きた寺田寅彦の視点は本当に面白いのである。また、彼のエッセイから、存外、当時も、平成20年の今も、人の営みというのはあんまり変わらないものなのだな、と思う。

 たとえばこんなだ。

○三原山の投身者の記事が今日新聞紙上に跡を絶たない。よく聞いてみると、浅間山にもかなり多数の投身者があるそうであるが、このほうは新聞に出ない。ジャーナリズムという現象の一例である。

企業不祥事の内部告発なんてのは年から年中行われていて、それを報道として載せるかどうか判断して選んでいるのだ。やたらに食品偽装事件が華やかだが、食品偽装の内部告発なんて実は昔からあった。単にメディアが相手にしなかっただけだ。そして最近はめったに報道されないが、今だって頻繁に「サムターン回し」の被害はあるし、頻繁に「オレオレ詐欺」も行われているのである。


○子供の時分に漢籍など読むとき、よく意味のわからない箇所にしるしをつけておくために「不審紙(ふしんがみ)」というものを貼り付けて、あとで先生に聞いたり字引きで調べたりするときの栞(しおり)とした。
 短冊形(たんざくがた)に切った朱唐紙(とうし)の小片の一端から前歯で約数平方ミリメートルぐらいの面積の細片を噛み切り、それを舌の尖端に載っけたのを、右の拇指の爪(つめ)の上端に近い部分に移し取っておいて、今度はその爪を書物のページの上に押しつけ、ちょうど蚤(のみ)をつぶすような工合にこの微細な朱唐紙の切片を紙面に貼り付ける。この小紙片がすなわち不審紙である。不審の箇所をマークする紙片の意味である。

 これ、ポストイットだよなあ。ポストイットは、米国の会社3Mがテープの「失敗品」をコロンブスの卵のアイデアで商品化して大ヒットしたものだ。


○新しい帽子を買ってうれしがっている人があるかと思うと、また一方では、古いよごれた帽子をかぶってうれしがっている人がある。

 ビンテージものですか。


○元素の名前に「桐壺(きりつぼ)」「箒木(ははきぎ)」などというのをつけてひとりで喜んでいる変わった男も若干はあってもおもしろいではないかと思うことがある。しかしもしそんなのがあったらさぞや大学教授たちに怒られることであろう。

 いや、ぜったいいるって。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「最長片道切符の旅」取材ノート | トップ | 世界の奇妙な国境線 »