読書の記録

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ビブリア古書堂の事件手帖(3) 栞子さんと消えない絆 

2013年02月16日 | 小説・文芸

ビブリア古書堂の事件手帖(3) 栞子さんと消えない絆

三上延

 このシリーズがメディアワークス文庫で最初に出たとき、だれがここまでブームになると予想しただろうか。
 だれが、剛力彩芽主演のテレビドラマになると予想しただろうか。

 僕自身は、最初の文庫本をこのタイミングで読んでおり、ご覧の通りの「その他大勢の中のひとつ」みたいな扱いであった。ただひとこと、「シリーズ化希望」と書いているのみである。(それにしてももう一つのヒット作「陽だまりの彼女」もここで出てるんだなあ。)

 

 とはいえ、今なお、なぜこれがこんなに人気があるのか、まったくわからない。不思議である。
 だいたい、古本、というか希少本や稀覯本をネタにしたミステリーである。はっきりいってマニアックである。まさか世の中にこんなに古本マニアが潜んでいたとは考えにくい。本好きが潜んでいたはずがない。それならば、出版業界はもっと元気なはずである。
 そもそもベストセラーというのは、普段本を読まない人までもが買うから、ベストセラーになる。本を題材にしたベストセラーなんて、存在矛盾もいいところである。

 やるせなさ抜群の善悪を越えたヒューマニズムでもなく、カタルシス抜群の社会派ミステリでもなく、際立ったキャラが続々登場するわけでもなく、快刀乱麻の勧善懲悪でスカッとすること間違いなし、というわけでも、怪奇と幻想がうずまくめくるめくようなミステリーでもない。どちらかといえば、静かにじみーな謎と不思議が訥々と解決されていくような感じである。いったいみんなどこにこんなに惹かれているのだろう。

 あれか? 表紙のイラストがかわいいからか? 清楚な雰囲気かもしだしながら、実は胸が大きいところの栞子さんのチカラか?
 しかし、表紙の力だけで、3巻も売れるものだろうか(近く4巻目もでるらしい)。

 

 僕自身は、はっきり言わせてもらうと、楽しんでいる。4巻目も首を長くして待っている。
 もちろん、僕は本好きであるから、本を題材にしたミステリなんて盆と正月(古っ!)みたいなものだが、なんというか、本をサカナに人と人がつながったり、惹かれあったり、ついでに微妙に恋愛めいた雰囲気をかもしだすのは、本好きにとって一種のアコガレであり、ユートピアである。このシリーズはうまくそういう本好きな人たちの欲望をとらえたような気はする。
 だいたい本好きの人なんてのは多くはおくてであって、社交性を発揮するよりは、一人で本でも読んでいるほうが性にあっているような人が多いのであって、もともと人との出会いづくりにガツガツ出来ない性分の本好き人間にとって、本を媒介にして人とふれあうというのは唯一無二の喜びなんではないかと思うのである。

 で、もっというと、こういうのは「本」に限らないと思うのである。なんとなくインドア系の趣味を持つ人全般にあてはまるように思うのである。
 実際のところ、こういうおとなしめの趣味がきっかけで、人と知り合ったり、恋愛関係になるのは当人にとっての理想ではあるものの、現実的には達成しにくいものである(ちなみに僕の妻はまったく活字がダメである)。
 ここらへんの微妙なカタルシスにうまくこたえたのが、このシリーズの人気の秘密なように思う。スカッとしたり、アドレナリンが出るわけではないが、不思議に微温的な幸福感を感じることができる手ごろ感の勝利だろう。
 (というところからして、はたして真逆のカルチャーをもつフジテレビの剛力彩芽主演ドラマというのはやっぱ、キモをはずすと思うんだけれどなあ)

 

 


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