ビブリア古書堂の事件手帖(4) 栞子さんと二つの顔 (トリックに関してのネタばれはいっさいないけど、登場人物にふれている)
三上延
ここで書いていたらなんとすぐに第四巻が出た。
いよいよ本腰をいれてシリーズ化の定石がふまれてきたように思う。
もともと、この小説は、ビブリア古書堂という古本屋を経営する篠川栞子という人が、店に持ちこまれた古本のちょっとした特徴を手掛かりに、その本をもってきた人や、その本にまつわる数奇な由来をつきとめていく、というどちらかというとシャーロックホームズ型のミステリー小説であった。
古本屋の主人が探偵役のミステリーものといえば、京極夏彦の京極堂シリーズがある。この京極堂シリーズもホームズ型といってよく、京極堂の主人である中禅寺秋彦が謎解き役を負うのに対し、事態進行の記述役とボケを担当するワトソンにあたるのが関口巽である。もっとも、このパターンは島田荘司の御手洗&石岡もそうだし、北村薫の円紫と私シリーズもある。僕はミステリにはうといので、メジャーなところで思いつくのはこれくらいしかないが、もっともっとあるはず。
何がいいたいかというと、ミステリーのフォーマットとしてこれは盤石の定石だということである。ワトソン役にあたるのが、本が読めない体質のビブリア古書堂アルバイトの五浦大輔でありつまり、ホームズ型のシステムをとったビブリア古書堂シリーズは、長期シリーズに耐える潜在性を持っていたということになる。
あとはこれにある種の役目を果たすレギュラー登場人物を配置すれば準備完了ということになる。
が、最初のころはやはり登場人物が限られていた。いちおう、ここに栞子さんの妹である文香という人もいて、この人は当初、栞子と対照的な性格の持ち主という感じで描かれ、それ以上の戦略的なポジションはなかったように思う。
ところが、長期的シリーズとして腰を据えることにしたのか、初期の来店客はレギュラー化した。
とくに天真爛漫が特徴だった妹の文香は、相手がどんな人間であろうと仲良くなれるスーパーコミュニケーション能力を持つ人間としてパワーアップしていった。早い話、峰不二子のような潜在性を持つキャラになっているのである。(まだそこまでの活躍はみせていないが、微妙にトリックスター化してきつつある)
また、この手のものを俄然おもしろくするのが、敵キャラ、それもボスキャラの存在なのだが、そこにうまく栞子の母親智恵子がおさまった感である。
なんとなく役者がそろいつつある。
さらに、路線変更、というか路線拡大というところでは、当初はこの小説はあくまで古本屋に持ち込まれた古本から謎や不自然を見抜くというプロットだったのだが、だんだん謎解き依頼人型になってきており、話のどこかに古本が絡めばよい、ような具合になりつつある。この第4巻の栞子さんはもはや安楽椅子探偵ではなく、依頼人の館に乗り込み、建築トリックにまでせまろうとする。
こうなってくるとなんでもありで、ますますホームズ型になってきたともいえる。依頼人型を採用すると、物語の可能性はぐっと広がる。
このように今回の巻では、路線変更が明確に出てきた感じである。江戸川乱歩をテーマにした長編であり、ついこの前、島田荘司の写楽ものを読んだばかりなので、そちらを思い出して、まるで新本格のようだーと思ったものだった。
あとはあれだな。五浦大輔のライバルにあたる人がでてくるといいのだな。次の次あたりで出てくるのではないか、とにらんでいる。