読書の記録

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つながり 社会的ネットワークの驚くべき力

2013年04月17日 | 社会学・現代文化

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力

ニコラス・A・クリスタキス・ジェイムズ・H・ファウラー 著

鬼澤忍 訳

 

以前、ネットでとあるアメリカの高校の生徒同士の肉体関係相関図をみた。(リンク先を是非ごらんいただきたい)

いったい誰がどういう目的でこんな調査をやったのか、生徒のほうもよくもまあ臆面もなく協力したもんだ、と思ったのだが、本書にこの図が出てきた。

それによると、件の高校で性病が蔓延したらしく、保健所が徹底的に調べた、ということらしい。なるほど、ありそうな話である。

この図は眺めるだけでいろいろ発見があって面白く、そのつながり方の妙に関心するもよし、どれかのサンプルに思いをよせて同情するもよし、である。

 それはともかく、本書で再三強調されるのは以下の3つである。

(1)つながりは三次先まで影響する。

つまり、自分の行いや口コミが、自分の友達の友達の友達まである程度の威力をもって波及するということである。

これは反対からいえば、自分は友達の友達の友達に影響されているということでもある。もちろん、次数をまたぐごとに影響力は逓減していくわけだけど、あなたが何気なく始めたその習慣は、もしかしたらあなたの友達の友達の友達に端を発しているかもしれないのである。

6次先まで知り合いをたどると、全世界の人間とつながる、という「スモールワールド」と称される概念がある。世界中の誰もが、自分の知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いまでに入る。

つまり、3次先というのはちょうどその中間くらいまで影響を及ぼすということになるから、存外に広い。(もっとも3乗と6乗という指数上の差だから、世界人口の半分まで影響を及ぼすという意味では全くないが)

  (2)似たもの同士がつながる。

そもそも、似たもの同士はつながりやすい。これはなんとなくわかる。

まずは生存本能的な意味で、姿かたち、趣味嗜好、価値観など似ている人同士はつながりやすいとは思う。逆に考えれば、たしかに価値観がかみ合わない人とは長期間のつながりは保ちにくいだろう。

また、最近の社会制度や社会装置が、似た人をくっつけ、異なる人を離反されるように作用しているのも確かだ。WEBの普及、そしてSNSの普及で、誰もが自分と話があいそうな人を探しやすくなっている。本書では喫煙者には喫煙者が、ある政党支持者人には同じ政党を支持する人が連鎖的につながる例を紹介している。

(3)つながりは「伝染」を生む。

本書の白眉はこれかもしれない。これは先の高校の例のように病原菌の伝染だけでなく、思考パターンから行動まで、「伝染」するのである。もともと「似たもの同士」であるから、同じような意識や行動をもちやすい素質があるのだ。

本書の腰巻にも書かれている例は、「肥満の伝染」である。

  つまり、あなたが最近太ってきたとすれば、それはもしかしたら、あなたの友達の友達の友達が肥満化したからかもしれない。似た者同士でつながるあなたがたは、友達が太ってくると自分も安心して太るような食生活をするのかもしれないし、あるいはストレス太りに至るような生活スタイルをお互いにしているのかもしれない。

あなたがダイエットをすることで、いつのまにかあなたの友達の友達の友達が痩せ始めるかもしれないのである。

 「マタイの法則」というのがあって、 「富める者はますます富み、貧しき者は持っている物でさえ取り去られる」、これすなわち「お金はさみしがりやで、集まっているところに集まる」とよく言われるのだが、これも同じことを言っているように思う。金持ちは金持ちで知り合いになり、彼がカネを稼げば、その知り合いもカネを稼ぐ、その知り合いも儲けている。反対に、貧困者は貧困者同士で知り合いになり、彼がさらにカネを失えば、その知り合いもカネを失う。

  で、本書の究極例として、「幸福」な人は「幸福」な人と知り合いになる。そしてますます「幸福感」が募っていく。あやしげな自己啓発本の雰囲気を漂わしたが、意識調査と統計解析に基づいて下した結論らしい。

ようするに「幸福」かどうかは、自分の主観的な判断である。楽観的な人は楽観的な人と知り合いになり、ますます楽観的になる。といえばなんとなくその空気が感じとられる。逆に、「不幸」な人、つまり悲観的な人、自己評価が低い人、自己肯定観が低い人はやはりそういう人同士で結託しやすくなってますますネガティブスパイラルに落ち込む。

だから、幸福になる秘訣は、幸福そうな人と知り合いになる、ということに行きつく。

また、あなたが笑顔でいえば、あなたの知り合いの知り合いの知り合いを笑顔にするかもしれないのである。

 

本書の指摘によれば、けっきょくWEBやSNSの発達で、そういう「つながり」概念がソーシャルグラフとして可視化されて注目されてきているわけだけど、実はWEB以前から人間のつながりの妙はこうだったということである。

昔から、「3次先まで影響し」、「似た者同士がつながり」、「つながりの中で伝染していく」。SNSはそのスピードを速めただけで、規模は変わらないのだそうである。

人類社会普遍の法則なのである。

だから、「つながり」とか「絆」とか当世キーワードであるが、重要なところはその結果、あなたは何に伝染され、何を伝染しているか、だ。そこが自覚的か無自覚的かで、このネットワーク社会であなたの主体性は大きく左右されることになる。

 

 

 


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