主題と変奏----吉田秀和----文庫本
先日に続いて、もうひとつ吉田秀和。
昭和20年代の、初期の論評風エッセイ、あるいはエッセイ風論文。いまや全集でないと読めないものが古本市で文庫本ゲット。
おどろくべき格調にして温和がもたらす身震い。ものすごく直情径行なエッセイから入るのに、いつのまにかスコアと対比させながら楽理的に話を進めるシューマンやモーツァルトの評論にくらくら。セザール・フランクを扱ったエッセイは人生論を通り越して感動でさえある。論評に関心することはあっても感動することなんてないよ。(それにしても、昭和20年代にシューマンの「暁の歌」の存在を知っており、しかもその「異常性」を指摘している、ってモノスゴイことなのではないか??)
それにしても、この人が凄すぎたために後進が育たなかったのではないかというくらい、彼の後継にあたる人が見当たらない)。その類稀なる教養と持ち合わせた上品さと批評精神。もはや時代的にも情勢的にも彼のような人材が輩出されることはもうないだろう。最近は朝日新聞の夕刊でほんのごくたまに寄稿されているのを見るだけで、噂ながら原稿料も破格らしい。そういう意味では半ば伝説化した古き良き時代のインテリなわけで、これはよもやすると彼こそホロヴィッツみたいな立場になってしまったのではないか。「ひび割れた骨董品」にならずに全うしてほしい。