読書の記録

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バブル女は「死ねばいい」  婚活、アラフォー(笑)

2010年09月10日 | 社会学・現代文化
バブル女は「死ねばいい」    婚活、アラフォー(笑)

杉浦由美子

 確信犯的に憎悪に満ちた文章だ。タイトルからして挑発的である。

 著者は「メンタリティ」として団塊Jr.なのだそうである。で、バブル期の男女雇用均衡法第1世代を、もうはっきりいって品がないというレベルで叩きまくる。もうヘビかナメクジかのような書きっぷりである。

 最後までこの調子かと思ったら、後半になって様子がかわり、終盤になって、団塊Jr.女性―その上限は30代の後半――つまり、出産適齢の上限にきていることから由来する「バブル女」へのアンビバレントな感情に収斂されていく。「バブル女」への罵詈雑言は、「団塊Jr.」の慟哭となって、本書は終わる。
 バブル女は出産が許されたのに、団塊Jr.女性は出産を社会が認めない。ワークライフバランスだなんだと行政が奨励しているのは所詮はきれいごとであり、そのきれいごとをバブル女はうまく活用できる、あるいはぎりぎり許される境遇にあったが、ポストリーマンショックである今となっては、ちょうどその年齢にきている団塊Jr.女性、特に総合職で働く女性はそう簡単にワークライフバランスなどと言ってられない。それどころか「婚活」とやらもやってられない、という論旨である。


 団塊Jr.世代の女性の世代論あるいは社会観察という意味では、水無田気流「無頼化する女たち」がなかなか心に刺さったのだが、だがしかし、水無田は既婚者であり、子供もいる。そのことが「無頼化する女たち」の成立において根本的な弱点であったが、本書の著者、杉浦由美子は未婚であり、出産もしていない。よって、水無田が至ることのなかった心境、「産まないまま、適齢期を過ぎようとしている」当事者でしか絶対にわからないこの境地を描写している。

 こればっかりは、男性である自分には絶対にはかりえない領域である。発言そのものを慎むべきだろうと思う。

 なので、ちょっと本筋からずれたところでの感想を。

 本書でも酒井順子「負け犬の遠吠え」は引き合いに出される。この本の社会インパクトはなかなか凄まじかったのだが、杉浦由美子に言わせれば、酒井順子も「バブル女」の世代であり、したがって、「負け犬の遠吠え」もバブル女特有の価値感や美意識に支配されているという。
 それは、ひとことでいうと「恋愛」というものが勝ち負けの要素に入ってくる、ということである。団塊Jr.にとって、恋愛のあるなしは、人生上の勝ち負けの多くをもはやシェアしないということだそうで、よって、「婚活」も「草食系男子」というのも、所詮はバブル女と同様の価値感を持つマスコミの論理から出てきた発想なのだそうである。へえー。

 本書の慧眼なところはこの太線部分で、「アラフォー」という40代女性の褒め殺しは、けっきょく、そこがこれまでのマスコミ(特に広告代理店)が知っていた消費の欲望と行動のアルゴリズムを持つ世代だから、である。
 かつて、消費の主役は若者、20代の、特に女性であった。ゴールデンタイムのテレビ番組は基本、ここを視聴ターゲットとしてつくられる。
 だが、いつ頃からか、この20代が思うように消費をしてくれなくなった。本書が指摘するようにそれは「消費をしなくなった」のではなく、「広告代理店が想定するような消費の仕方をしなくなった」ということである。広告代理店の筋書き通りの消費をするのは、バブル期に20代を経験した女性―つまり「アラフォー」ということになった。しかたがないから、ここを中心に盛り立てていくことになる。
 で、このマスコミが想定するところの「消費」の筋書きというのは、要は恋愛という要素が介在するかどうかであり、ぶっちゃけると「モテる」かどうかなのである。つきつめると「こう消費すれば異性にモテる」に集約されるというものであった。

 だから、べつに「モテなくてもいいんですけど」という消費――この代表例が「オタク消費」なわけだが――は想定外なのである。マスコミを発信源とした文化形成がアラフォーにおいて求心となり、ネットを発信源とした文化形成が団塊Jr.世代において求心となっているわけで、この溝はもはや見えないベルリンの壁が世代間に横たわっているかの如くである。


 それにしても、女性がワークライフバランスを実践できる企業、つまり、仕事(キャリア)と育児を同時実現できている企業は、そもそも昭和型の男女不均衡の文化がある企業、という壮絶な矛盾をつくこの指摘はなるほどごもっともだと思った。「女性の昇進・活用と、出産後の復帰は反比例する」というこの問題提起だけで、本書の価値は十二分にあったのではないかと思う。

 


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