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荘内日報:人類の地球環境破壊に挑んだ建築家

2023-11-02 19:37:58 | スタッフ Blog
11月3日付けの荘内日報に掲載いただきました。
井山武司著「太陽建築」出版記念シンポジウムでも講演いただく温井亨氏が書いてくださいました。



11月4日(日)、東北公益文科大学において、酒田の建築家、故井山武司氏の業績をまとめた書籍『太陽建築』の出版を記念してシンポジウムを行います。ここにその論点をまとめましたので、関心を持たれた方は是非ご参加ください。
井山さんは丹下健三に師事し、兄弟子の磯崎新のように世界的な建築家になる可能性もあったかも知れない。しかし、そうならなかったのは、本人がそれを捨てたからとも言える。造形や空間で勝負することを止め、別のテーマを選んだからである。それがパッシブソーラーであった。建築の重要な役割は、外部の気候、環境から人間を守ることにある。雨風を防ぎ、暑さ寒さを和らげること。現在、後者の制御が肥大化し、大規模な建築では建築費の過半を占めているが、それはほとんどアクティブな環境制御の方法によっている。エアコンはその代表的なものである。そしてこれが莫大なエネルギーを消費している。地球温暖化が進み、近年は異常気象が頻発するようになっている。CO2の削減が叫ばれ、再生可能エネルギーへの移行が進められているが、これだけでは十分でない。エネルギーの供給元を換えたところで消費量を抑えなければ熱は放出され続ける。これは特に都市のヒートアイランド現象として被害をもたらしている。現在政府は断熱と気密性を上げることで冬のエネルギー消費を抑えようとしているが、その結果、窓の小さな住宅が増え、夏もエアコンに頼らないと住めないようになっている。吉田兼好が薦めた家とは正反対の家となりつつある。熱中症で亡くなった方の家をニュースで見ると、窓が小さく、これではエアコンを止めると生存が危うくなるのは自明である。断熱材とソーラーパネル、風力発電に頼るのは片手落ちと言わざるを得ない。
パッシブソーラーはそれとは別のもう1つの室内環境制御方法である。機械設備に頼らずに建築的工夫で暑さ寒さを制御する。夏の日差しは庇で遮り、冬は日の光を奥まで入れて太陽の熱を最大限に活用する。ソーラーパネルによる発電も使うが、それは補助的なものである。太陽のエネルギーを電気に変換すると8割は失われてしまう。したがって直接使う方が良いのである。そこで重要なのは配置だと井山さんは言う。南向きであること、これが基本だと言うのである。このようなパッシブソーラー建築は雪国では不利である。しかし井山さんは研究を重ね、庄内でもエネルギー収支ゼロの住宅を実現した。
さて、シンポジウムのもう1つのテーマは、酒田大火復興都市計画のもと井山さんが設計した中通り商店街の店舗住宅建築である。井山さんは建築の向きが重要であると言った。ということは、都市では街区の作り方で既にパッシブソーラーの都市建築ができるかどうか決まることになる。その点酒田は東西の本町通りを元に町割されたので、通りと裏の駐車場に入口を持つ井山さん設計の店舗では南北に風が抜け、夏でも涼しい。ある店は、今年の夏は数回しかエアコンをつけなかったと言うし、お隣はそもそもエアコンを持っていない。パッシブソーラーを志す原点となったというのも頷ける。
さて、この建築には以上に加え評価されるべき点が2つある。その1つは鉄筋コンクリート建築の長寿命化を考える上での重要性である。日本の鉄筋コンクリート建築は長く持たないのではないかという疑問が投げかけられている。施工性優先で水が多いためだが、その解決策にプレストレスがあり、それを一般的な柱梁構造に応用する方法として圧着関節工法がある。井山さんの建築はこれを採用した最初期の建築と思われるのである。もう1つは、都市建築のモデルとしての意義である。かつて日本の都市は町家という優れた都市建築によってできていたが、今は混乱の中にある。マンションはまばらに建っている限り住環境を得られるが、全てがマンションになると成り立たない。パリのような中層の都市建築で有機的に構成された都市が望まれるが、井山さんの建築はその第一歩となると考えるのである。近年、国はコンパクトで歩いて暮らせる街を目指すという方針転換を打ち出し、酒田も鶴岡も計画策定を終えたが、計画区域を定めただけで具体的なイメージがない。これは全国どこもそうなのだが、そのとき、歩いて暮らせる街を目指した復興都市計画と井山さんの建築は出発点となり得るのである。今必ずしもうまく行ってないのは50年早かったからであり、この遺産を受け継ぎながら未来を考えるべきなのだ。
シンポジウム「太陽建築がみちびく未来」11月4日公益大大教室13:30-16:30
資料代500円、当日参加歓迎。問合せ:090-4887-4475
東北公益文科大学教授 / 温井 亨
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