ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「レイアウトは期日までに」 碧野圭

2024-05-31 | 読書日記

「レイアウトは期日までに」(碧野圭著 2024年2月 U -NEXT  264p)を読みました。

帯にあるように
コミュニケーションに難がある天才装丁家と
彼女をサポートする相棒
という定番のバディのお仕事小説。

「お仕事」が本や雑誌のデザインと装丁
というところが新鮮です。

表紙の青い服の女性が装丁家の桐生青
赤いTシャツの女性が赤池めぐみ。
青は所長の突然の死によって
めぐみは突然の解雇によって
所属先を失う。
その2人がデザイン会社を立ち上げるまでが語られる。

「箱」は青の父の家。
がらんとした空き箱のような家を
めぐみが
中古の家具を買ったり
食器を整えたりして
住まい兼事務所にしていくのが楽しい。
名刺を刷ったり
(活版印刷で)
事務所開設の案内ハガキをデザインしたり
するのも読みどころ。

最後に
なぜ青が人嫌いになったのか
も解かれている。

(もちろん2人の摩擦も多々)

シリーズ化するのでしょうか。

 

 

 

 

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「本屋のミライとカタチ」 北田博充

2024-05-29 | 読書日記

「本屋のミライとカタチ」(北田博充著 2024年2月 PHP  258p)を読みました。

「本屋」って、本を売っている店のことじゃないんですよ
と著者は言う。
(え?)
「本屋」とは、人のことなんです。
本をつくる出版社
本を貸す図書館員
本を選ぶ選書家
教師も
(本書では面白い試みをしている高校教師の嘉登さん)
何かを媒介にして本を紹介している人も
(TikTokで本を紹介してヒットを生み出しているけんごさん)
自分の持ち場で楽しみながら本と人とをつないでいる人
それが「本屋」なのだという。

ネガティブに語られることが多い「本」界隈
書店の数が減っている
一軒も書店のない自治体が増えている
売り上げが下がっている
読書離れが進んでいる
……

著者は言う。
「本が売れない時代だからこそ
知恵のしぼりがいがある」

いろいろな人に話を聞く。
v字回復をした業界の人
(プロレス)(!)
他の業種と掛け算をした人
(書店のある薬局を開いた瀬迫さん)
書店業どっぷりの人にも

ファン、リピーター、顧客
ばかりを相手にしていては駄目なのだ。
潜在客を掘り起こさなくては。

という試みははじまっている。
本を身にまとう
本を額装して飾る
同じ本を読んだ人と出会うサイト
入場料を取る書店
(全部既にある)

著者は言う。
「飛行機は追い風でなく向かい風で飛ぶものなのだ。
今の時代にこそ飛躍のチャンスが潜んでいるのかもしれません」


わくわくしました。

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「古代の都 なぜ都は動いたのか」

2024-05-27 | 読書日記

シリーズ古代史をひらく「古代の都 なぜ都は動いたのか」(吉村武彦他著 2021年8月 岩波書店 314p)を読みました。

 

飛鳥から難波、平城京、平安京と
古代の都は動いた。
なぜ、動いたのか?
そして
平安京はなぜそれ以降、動かなかったのか?

もちろん結論は出ていない。
(このシリーズの面白いところは
最終章の座談会で
結構忌憚のない意見を言い合っているところ)

「動く」というのは大変なことだ
と思いがちだけれど
案外そうでもないのかもしれない
古い都の建物を分解して使うことが出来るからだ。
(この時代、釘はどのくらい使われていたのだろうか?
もしもホゾによる組み立てだったら
分解→組み立て
は案外容易だったのかもしれない。
柱は、地面に穴を掘って立てる掘立柱だそうだし)

新しい都の土地を探して動き回ったのは
聖武天皇と桓武天皇
聖武天皇は都の適地を探す巡行に出たし
桓武天皇は
平城京→長岡京→平安京
と都を移している。

都とは
「その時の支配者集団が
「やろうとしたこと」
「できたこと」
「できなかったこと」が集中して現れている場所だ(馬場基)
のだそうだ。

面白いのは
なぜ平城京のような条坊制(碁盤の目)の都を作ったのか
ということだ。
遣唐使が長安に行って
条坊制の、北側に宮のある
巨大な都(長安)をその目で見て
圧倒されて
これで行こう!
となったという説もある。
(?)


聖武天皇が巡行を重ねた末に
ここだ
と決めてつくった平城京。

その平城京にアウェイ感を抱いていた桓武天皇は
(聖武天皇の血筋ではなかったので)
自分の都を作ろうとして
こっそりと計画を進め
素早く長岡京に移った。
でも、長岡京は失敗だった
というところ
が面白い。

文献資料に加えて
この頃は発掘調査が進んでいるので
「古代の京」の研究は
ますます面白くなりそうだ
そうです。

 

 

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「射手座の香る夏」 松樹凛

2024-05-25 | 読書日記

面白いと聞いたので
「射手座の香る夏」(松樹 凛著 2024年2月 東京創元社 345p)を読みました。

SFです。

これがデビュー作?
とは信じられない。

「射手座の香る夏」
「十五までは神のうち」
「さよなら、スチールヘッド」
「影たちのいたところ」

全4編が読める。

情景が目の前に現れる正確な描写
の中に
著者の素がふっと現れる
のが魅力だ。

「いやいい。
大人の階段を上るのは
一日に一歩だけでいい」(「十五まで神のうち」の蒼)

「あたしは
あたし以外の人たちが
みんな喧嘩をしていてほしい。
世界が平和にならないでほしい。
そうすれば
きっとみんな
あたしにだけは優しくしてくれるから」(「影たちのいたところ」のソフィー)

時代を感じさせる出来事が
さりげなく差し挟まれているのがリアリティを生んでいる。
リーマンショック
大震災と原発事故
EU離脱
……

人物の「紹介」の仕方もたくみだ。
「もうすぐ十四歳なんだから
お前も留守番くらいできるだろう」
(14歳なのね)
「出かけるなら
ちゃんと眼鏡をかけなさい」
(眼鏡なんだ)
「見ればわかるでしょ。
(癖毛が)嫌いなの。
学校じゃいつも揶揄われてばっかり。
赤毛だし」
(癖のある赤毛なんだ)
……


と、こんな要素に分解して読むような作品ではなく
丸ごと飲み込む作品です。

 

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「父・堀内誠一が居る家 パリの日々」 堀内花子

2024-05-20 | 読書日記

手帳を開いて
今日のページにシールを貼るところから
1日が始まります。
今月は「ぐるんぱのようちえん」シール。
堀内誠一さんの絵本です。

「父・堀内誠一が居る家 パリの日々」(堀内花子著 2024年2月 カノア 139p)を読みました。



雑誌「anan」のディレクターを辞めて
(生活のために14才から働いていた)
堀内誠一は
一家でパリに渡る。
仕事は絵本のみ。
決して豊かな暮らしではない。
中学生だった娘の花子さん
小学生だった紅子(もみこ)さん
の「言葉の分からない」学校生活も
なかなか大変だった。

しかし生活は豪華だった。
「人」豪華なのだ。

パリのアパートの部屋に同居していたのは小暮ひでこ・徹夫妻
旅のついでに立ち寄ったのは谷川俊太郎
安野光雅
石井桃子
瀬田貞二
澁澤龍彦
……

見たい映画があると
原稿用紙の裏にポスターを描いて部屋の壁に貼って
皆で見に行った

パリで見たものは
すぐに絵に描いて
航空便で送っていた
(石井桃子、瀬田貞二、澁澤龍彦などに)

漫画が好きな紅子さんのリクエストで
「オルフェウスの窓」「ポーの一族」の舞台を見に行った

日本でも
奈良原一高が
「これをしのぐ素敵な写真の雑誌を
日本では知らない」
と言った堀内誠一編集の写真誌「ロッコール」の編集室

岸田衿子と行ったインド旅行
……


小さな箱を開けたら
贅沢なチョコレートがぎっしり詰まっていた
そんな本です

(出版社も素敵)

 

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「烈女の一生」 はらだ有彩

2024-05-19 | 読書日記

「烈女の一生」(はらだ有彩著 2024年3月 小学館 277p)を読みました。

著者は
テキストレーター
(文章、イラスト、テキスタイルを作っている)

「烈女」紹介本です。
全文が「共感」のトーンに貫かれている
ので
読んでいる方も共感して
苦しくなる。
(ということで
元気な時に読んでください)

ほとんどの人物が
病に倒れる。
過労?
世間の無理解?

各章に
副題がついている。

A辿り着かないなら
最初から目指すべきではなかったのか?

Bあらゆる理由が連鎖しているという事実は
深い絶望でもあり
唯一の希望でもある

C誰にも忘れてもらえない
誰にも忘れさせてやらない

D考えることで全て失ったとしても
考えずに自ら捨てることはできない

E走って走って走って
意味を振りほどく

Aナイチンゲール
Bマータイ(政治家)
Cダイアナ妃
Dハンナ・アーレント(哲学者)
E人見絹枝(陸上選手)

他に
トーベ・ヤンソン
鴨居羊子
マーガレット・ミード
吉屋信子
カミーユ・クローデル
などなど


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「66歳、家も人生もリノベーション」 麻生圭子

2024-05-14 | 読書日記

「66歳、家も人生もリノベーション 自分に自由に 水辺の生活」(麻生圭子著 2023年11月 主婦と生活社 191p)を読みました。

 

作詞家の麻生圭子さんのエッセーです。
(最近◯歳というタイトルの本が多いけど
この本の場合、不要では?)

麻生さんは
子どものころから感音難聴で
ついに全く聞こえなくなってしまった。
人工内耳にするのをためらっていたけれど
猫が助けを求めて鳴いているのに気が付かなかった
という出来事をきっかけに
手術。
今は、金属的な音が聞こえる。

琵琶湖畔の古い家を買ってリノベーションした。
(リノベーション話が好きです)

古いミシンの脚
とか
2m以上ある木の脚立
とか
ロンドンで買ったビンテージの黒板
とか
痩せた体型のトルソー
とか
いいなあと思うものがいくつも!

「若いときは
昨日よりもしあわせになる
が人生のテーマだったけど
今は
今日はしあわせになる
を心がけている」そうです。

「90になっても
エッセーを書いていたい」
とも言っている。



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「弥生人はどこから来たのか」

2024-05-13 | 読書日記

「弥生人はどこから来たのか 最新科学が解明する先史日本)」(藤尾慎一郎著 2024年3月 吉川弘文館 220p)を読みました。

地図をぐるりとひっくり返して日本列島を上にすると
日本海はまるで湖のようで
韓半島と日本列島はつながっているように見える。
わたしたちは無意識に目に見えない「国境」線を引いているけれど
そんなものがなかった時代
半島からちょっと足をのばせば
そこは日本列島だ。

半島から伝わった「素晴らしい」稲作という技術に
みんなが飛びついて
あっという間に広まった?
はて?
そんなことはあるのだろうか……

「英雄たちの選択」という番組で磯田道史さんは
「米の味の魅力」と言っていたけれど
色々なものを食べていた縄文人たちは
豆(アズキ、ダイズ)や雑穀(キビ、アワ)の中に
コメも取り入れて
徐々に稲作が広まったのか(網羅的生業構造)
それとも一気にコメ中心食が広まったのか(選択的生業構造)
(リスクが大きのでは?)

調査する方法は飛躍的に進化している。
炭素14年代測定法
酸素同位体比年輪年代法
DNA分析
レプリカ法
古気候学
……

半島から来た人がすぐに縄文人と混血したのではなく
渡来人たちだけの集団として長く生活した人たちもいた
こと
渡来人たちの中に既にかなりの多様なDNAがあった
こと
が分かっているそうです。

(弥生時代の初期に
津軽平野で稲作が行われた痕跡もある)
(その後放棄)

毎日まいにち
コメを食べているわたしたち。
コメって何なんでしょう……

弥生人より稲作の話が多い本でした。

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「秘密の花園」 朝井まかて

2024-05-02 | 読書日記

「秘密の花園」(朝井まかて著 2024年1月 日本経済新聞出版 466p)を読みました。

牧野富太郎が主人公の朝ドラ「らんまん」で
妻のすえ子の推しだった馬琴先生が主人公
そして
次の大河ドラマの主人公蔦屋重三郎も出てくる
ということで予習しようかな
と。

朝井まかての女主人公は、とてもいい。
「眩」(くらら)の葛飾応為(おうい・北斎の娘)
「グッドバイ」の大浦慶(日本茶を輸出した人)

この作品の主人公は滝沢馬琴だけれど
妻のお百がとても面白い。
「女房なるもの
変幻自在、奇々怪界な生きものだ
剥いても剥いても違う色の皮が出てくる」
と馬琴を呆れさせ
かと思うと
馬琴の兄の遺児を引き受けて育て
馬琴が子どもを実母に返そうとすると
嫌がって
「お前様はほんに、意地の悪い猿のようだ」
とあかんべえまでする。

終点は
「盲目になった馬琴が
亡き息子の嫁の路に代書してもらって
ようやく「里見八犬伝」を書き上げる」
だから
たぶん、代書の苦労の日々が描かれるのだろうな
という予想は覆される。
(そこは、ほんの数ページ)

そこまでの
一家を切り盛りする馬琴の苦労
長編ゆえの「八犬伝」出版のごたごた
縁ある人々の死
後継の息子の死……

その中に埋もれるように美しい花の記憶がある。

奉公先の武家を飛び出してさまよっている夜に
出会った口の言えない美しい夜鷹
夜鷹が祖父と住む陋屋に
馬琴はひと夏身を寄せる。
そこに咲いていた青い朝顔

体の弱い息子の宗伯とつくった花園
野菊、桔梗、藤袴、吾亦紅
女郎花、鋸草、朝顔、撫子が咲き乱れる

わずか数ページの「花園」が
心に残るのは
その周辺を埋める雑雑とした日々が
あるからでしょうか



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