ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

後宮の烏2

2019-09-25 | 読書日記
ようやく
長袖の季節になりました。

「後宮の烏2(白川紺子著 2018年12月 集英社刊)を読みました。




2巻目にして
ようやくこの世界(中国王朝ファンタジー)に馴染んできた感じがします。

王朝には代々、夜伽をしない烏妃(うひ)と呼ばれる妃がいた。
今代の烏妃はまだ若い寿雪(じゅせつ)
先代の烏妃に拾われた寿雪は、欒(らん)家の末裔だった。
王朝の血を引くもののしるしとして銀の髪を持っている。
寿雪はその銀の髪を黒く染め
黒い衣をまとい
先代の教えを守って独り暮らしてきた。

それなのに
今では
ひとりまたひとりと
身を寄せてきた者たちを傍に置くようになってしまっている。
侍女の九九(じうじう)
宦官の少年・衣斯哈(いしは)
護衛の温蛍(おんけい)
紅翹(こうぎょう)
…………

若い皇帝・高峻(こうしゅん)でさえも
しばしば訪れるようになっている。
(母を皇太后に殺され、廃太子となって辛酸を舐めた高峻)
「友として訪れるのだ」と言いながら。

一つまた一つと
後宮に起こる事件を解決する
ホームズ(寿雪)とワトソン(高峻)
一人また一人とお供が加わっていくモモタロウストーリー
の心地よさに浸っているうちに
危険が寿雪に迫ってくる
………

「私はそなたと語り合いたいと思っている。友だからな」
という高峻に
「……友というものが、わたしにはよくわからぬ」
と答える寿雪。

孤独を知る者同士としての2人の
行き先も気になります。
(3巻も出ています)





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ウナノハテノガタ

2019-09-17 | 読書日記
ミズヒキの花がさかりです。

「ウナノハテノガタ」(大森兄弟著 2019年7月 中央公論社刊)を読みました。
ウナノハテノガタ=海の果ての陸?




螺旋プロジェクト・シリーズの第1巻目です。
時代は原始。

どこかよく分からないところの
おだやかな湾に
魚を捕って暮らす人々イソベリ族がいた(たぶん)

病になったりケガをしたりした人は
すぐ目の前にある小さな島に舟で運ばれ
そこでイソベリ魚に変身し
元気に暮らすことができると信じられている(たぶん)

舟で運ぶ役目の人はオトガイの父カリガイ
ある日
オトガイの母のザイガイが落石によって大怪我を負い
島に運ばれることになる。
父は
オトガイに一緒に行くように言う。
父は
この頃、黒いものを吐くようになっていた(たぶん)

ある日
毛皮を着た女マダラコが現れる。
山に暮らすヤマノベ族の女だった(たぶん)

マダラコは
オトガイたちに矢を作ることを教える。
初めての矢遊び(訓練)に
皆は夢中になった。
「みんなは朝から晩まで矢を飛ばす。
見つけたものはまず弓矢で狙う。
食べきれないぶんは葦の原の細い川に捨てて……」(たぶん)
…………


わからない言葉の意味を
およその見当で読んでいったので
ウナ=海?
オオキボシ=太陽?
ブンブン=蝿?
ホウベタ=頬?
マナフタ=瞼?
(でも舟は舟で
口は口)
「たぶん」
としか言えない

不安定な感覚

うまく作り出されている。


あとを引く
不安定感
です。






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月人壮士

2019-09-08 | 読書日記
暑さがぶり返して
今日の最高気温は32度です。

「月人壮士(つきひとおとこ)」(澤田瞳子 2019年6月 中央公論社刊)を読みました。




「螺旋プロジェクト」という
8人の作家による
「古代から未来までの日本を舞台に
ふたつの一族が対立する歴史」を描いた競作
の第2巻。
聖武天皇の時代です。

ついつい歴史をこちら側から見ているので
藤原氏は隆盛しているし
日本中に仏教が広まっている
と思ってしまうけれど
そこに「抵抗」があった
ということに
読んで気づかされる。

もう一つの仕掛けは
聖武天皇(首(おびと)皇子)の姿が
周囲の人によって語られることで
浮かび上がってくるという
仕掛け。

語り手は
橘諸兄
聖武天皇の侍女の円方女王(まどかたのおおきみ)
光明子(皇后)
聖武天皇の娘の称徳天皇の皇太子・道祖王の兄塩焼王
などなど

首皇子は
自分が天皇として在ってよいのか?
という想いを常に抱いていた。
これまでの天皇は
父方にも母方にも天皇家の血筋を持つひとばかりだ。
自分の母の宮子は
新興勢力の藤原氏の出だ。
(ましてや
母の宮子は心を病んで奇矯な振る舞いが噂になっている)
父の文武天皇は早くに亡くなって
背後を守ってくれるひとはいない。
自分ははたして天皇として在ってよかったのか。

ひたひたと勢力を広げていく藤原氏の存在は
守りというよりは
疎ましくさえ感じる。
皇后の光明子もまた藤原氏の出であるということは
皇太子となった娘の阿倍皇女もまた
同じ苦悩に陥るのではないか
………

度重なる遷都
異国から来たものである仏教への異様なまでの傾倒
妃の光明子と広刀自を置いて
夜な夜な宮外の女王(天皇家の血筋)を渉猟し歩く日々
………


首皇子の苦悩が
ギリギリと迫って来るようで
夏バテの身に
ずっしりとこたえる
読み心地です。



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伊丹十三選集 2

2019-09-04 | 読書日記
めずらしく函に入った本がある
と手に取ってみたら
「伊丹十三選集」(全3巻 2019年1月 岩波書店刊)でした。
第2巻「好きと嫌い」を読みました。




うどんのようなパスタの時代にアル・デンテを語り
まだ誰もアボカドを見たこともなかった時代に
アヴォカード(鰐梨)のオードブルを語ったひと伊丹十三。

時はたったけど
まだまだ新鮮な言葉がある。
(今だからこそ?)

「車を出発させたとたんに
われわれの心は先へ先へと急ぎ始めるが
あれはどういう現象なのだろう。

この気持ちは「虫」なんだよ。
「急ぎの虫」なんだよ。
それゆえ、交通行政者諸君。
交通安全対策をねる前に
すべての運転者の根底に横たわるこの「虫」を
徹底的に研究してほしいと思う」

「男の稟質(ひんしつ)の中で最も貴重な動力は
自らを変革する能力でしょう。
日常生活に忍び込む精神の硬化と常に闘うためには
柔軟な思考を疎かにすべきではないと考えるが如何?
飛行機に乗っているとスチュワデスが新聞や雑誌をすすめにくる。
あなたはそんな時、どの新聞を選ぶか?
あなたが毎日購読している新聞をえらんでいるのでなければよいのだが」
(つい、選んでいます)

「夏の盛りには、時間はほとんど停止してしまう。
たぶん一年の真ん中まで漕ぎ出してしまって
もう行くことも帰ることもできないのだろう
とわたくしは思っていた」


伊丹十三記念館を設計した中村好文と息子さんの池内万平が
編集しています。




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