ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

この世の春

2017-10-31 | 読書日記
10月なのに
冬の気配

宮部みゆきの新作「この世の春」(宮部みゆき 2017年8月刊)を読みました





登場人物は
「悪い噂」を背負って登場する

病のため藩主の位を退いて
これからは座敷牢暮らしになるらしい重興
(藩主が気ままに依怙贔屓を押し通し家中の秩序を乱した)
(重興さまは格別才気のあるお方ではない)
(重興さまには乱心の気がおありになる)
もう一人は
重興に引き立てられて郷士から御用人頭にまでなった伊東成孝

(読者に敢えて先入観を持たせて
そこをひっくり返していく筆者の作戦?)

重興はときどき別人のようになる
幼い少年
底に何かを秘めた女
荒々しい男

3人は
何者なのか?
(霊がついているのか多重人格なのか)
なぜ重興はこんなふうになってしまったのか?
なぜ重興の父・前藩主は突然死したのか
なぜ重興の弟と妹は幼いうちに縁組をして他家に出されたのか
なぜ伊東の郷里の村は廃村になってしまったのか?

座敷牢の重興に仕える
元家老の石野織部
医師の白田登
姑の暴行に耐えかねて実家に戻っていた多紀
多紀の従弟の半十郎
奉公人のおごうとお鈴
が謎に立ち向かう


読み終えて
ちょっと物足りない感じが残る
いつもの筆者らしくない
・・・・・・・・・・・・・・・・
謎解きの部分はいいのだけれど
重いものを背負った登場人物たちが
「語る」
ことによって「解き放たれていく」
というのがすとんと落ちない
(たぶん)

語ってもなお残る重いものを抱いて生きる
ところを描いてほしかったなぁ
・・・・


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それからはスープのことばかり考えて暮らした

2017-10-23 | 読書日記
何が入っているのだろう?
と思うような複雑な味に(「樹脂」)
胃が不調になったような気分
なので
(それならば絶食をすればいいようなものだけど)
さらっとしたものが欲しくなって
吉田篤弘にしてみた
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」(吉田篤弘 2006年8月刊)を読みました




月船町シリーズの2巻目です

無職になった大里君(オーリィ君)は
引っ越した月船町で
町の人たちが
茶色い紙袋に白いインクで数字の「3」がひとつ刷ってある
(!)
紙袋を抱えているのに気がつく
「3」はアン、ドゥ、トロワのトロワ
サンドイッチ屋だった

オーリィ君が行きつけの映画館「月船シネマ」の暗がり食べたサンドイッチは
「目はいちおうスクリーンを見ていたが
意識の方はすべて舌にもっていかれた」
ほどおいしかった

やがてオーリィ君は店主の安藤さん
(右を向いた時は五十歳なのに
左を向くと途端に二十は若返る感じがする
!)
に声を掛けてもらって
トロワに勤めるようになり
声を掛けてもらって
サンドイッチに合うスープを研究し始める

というだけのストーリーなのだけど
安藤さんの息子のリツ君
アパートの大家さん
月船シネマでいつも出会う緑色の帽子の女性
月船シネマのポップコーン売りの青年
・・・
の住む世界が
「ガラスごしに中が覗け
ちょうど横長のスクリーンを眺めている気がする」
「たとえば履き心地のいい靴で散歩をすると
多少冴えない風景でもどこか心愉しくなるのと同じように
おいしいポップコーンを手にしていれば
少々退屈な映画でも
まぁいいかと気持ちも丸くなってくる」
「安藤さんは
おつりの小銭を手渡してくれるときも
百円玉、五十円玉、十円玉の順に
きちんと揃えてトレイに並べてくれる」
・・・・
隅々まで心地よくて
首まで浸かりたくなります




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樹脂

2017-10-17 | 読書日記
2016年の「ガラスの鍵」賞
(スカンジナヴィア推理作家協会が
北欧5ヶ国の最も優れた推理小説に贈る文学賞)

「樹脂」(エーネ・リール 2017年9月刊)を読みました




美しくないものが描かれていて
それが美しい
なんていうことがあるだろうか・・・・

リウはホーエドという島に
父のイェンスと母のマリアと暮らしていた
学校には行っていない
なぜならリウは死んだことになっていたからだ

以前はもっと人がいた
祖父のシーラス
祖母のエルセ
双子の弟のカール
(リウにとってはカールはまだ存在している)
生まれてすぐに死んでしまった妹
リウは知らないけどイェンスの兄のモーエンスも以前にはいたらしい

父のイェンスは夜にこっそり本島に行って何かを持って来ては
しきりに何かを作っている
この頃では
本島に行きたがらなくなったイェンスに代わって
リウが採集に行くようになっていた
リウにとっては
本島に行って
何かを盗って来ることは
森で小動物を獲ることと同じようなものだ

母のマリアは
巨大に肥満し
ベッドから動けないし
部屋からも出られなくなっていた

もう家にはリウの居る場所もない
イェンスが集めたものが家の中に(外にも)
あふれ返っているからだ
そればかりではなく
ウサギもネズミもハエも

元高校教師で本島で宿屋をやっているロアルは
自分の家のものが無くなっていくことに気付き
見張りを始める
そして忍び込んで来た子どもを発見する
リウだった

それは
静かなリウの暮らしに
ロアルが触れた瞬間だった

ロアルは島に行ってみる

そして
ロアルはついに家の中に入ってしまった
包装紙からのぞいていたパンは緑色のカビの塊と化し
ゴム手袋からはネズミの糞が乾いた雨のように落ちた
機械の部品が入った大きな箱が所狭しと並べられ
埃まみれでベトベトした蜘蛛の巣がそこらじゅうにかかっている
ゴキブリやその他の虫が床から天井までうようよいた
・・・・

リウの言葉で語られていた世界との
あまりの違い

でも
読み終えた後に残るのは
(不思議なことに)
静かな美しい世界のすがた
なのでした






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寂しい生活

2017-10-15 | 読書日記
山は紅葉のさかり

エール大学の研究によれば
「本を読むと寿命が長くなる」
「知らせたい」のは
「本を読む→寿命が長くなる→ますますたくさんの本を読めるようになる」こと
だそうです
なかなか楽しい報告です

「寂しい生活」(稲垣えみ子 2017年6月刊)を読みました




3.11の震災で
立ち止まって考えた人は多いだろうけど
また何となく歩き出した人も多いだろう
(わたしも)

筆者は立ち止まって考えた
「原発を止めて」というならば
「まず自分の電力の使用量を半分にしよう」
「電気はないものと思って暮らそう」
そうして
掃除機を手放し
電子レンジを手放し
エアコンを使うことをやめ
コタツとホットカーペットも手放した
(筆者は冷え性)
そして四季が一巡りしたら
冷房も暖房もないことに何となく慣れていた(!)
暑さも寒さも受け入れ難い「敵」ではなくなっていた
というのだ
(冷蔵庫を手放したあとの工夫は
「もうレシピ本はいらない」に書かれている)

一つ一つの手放し譚は
とても面白い
(絶妙な配分で失敗も語られているせい?)


暑さに耐えかねるときはカフェに入り
入浴はお風呂屋で
すぐ近くにコンビニの冷蔵庫がある節電生活を
本当の節電ではない
という人もいるかもしれない

でもそれは
ひとりひとりが自分の家の中に囲い込んでいたもの
涼しい空気やお湯や食品を保存する機械を
みんなで使うものにする
という考えでやっていることなのだ

家電を販売する会社に勤めるお父さんを持ち
(ボーナスで家電を買うことを義務付けられていた)
家電の子として育った著者

忙しく働く人の常として
無意識に時間を「役に立つ時間」と「無駄な時間」に分けて
家事は「無駄な時間」だと考えていた著者
(わたしも・・・・)

そんな筆者が
(「だわへし」(出す→分ける→減らす→しまう)という言葉があるらしいけれど)
「自分」を(体も含めて)「だわへし」をした
リポートです




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フェルメールの街

2017-10-11 | 読書日記
今日は最高気温でも12度
一気に秋が進んでいます

賢い継母と
容貌はいかついけれど
自立したひとで広い心を持った2人の継姉さんの登場する「シンデレラの告白」
を書いた櫻部由美子の新作
「フェルメールの街」(2017年9月 刊)を読みました




1600年頃のオランダが舞台になっている

「真珠の耳飾りの少女」を描いたフェルメール(ヨハネス)と
顕微鏡で微生物を発見したと言われるレーウェンフック(レーウ)
の他実在した人が多く登場する

家業の宿屋を手伝いながら
画家ファブリティウスの弟子として修行しているヨハネスは
不思議な少女と出会う
スモモのような頬と
対象的につんと尖った顎
大きく澄んだ瞳をした少女
ヨハネスは反射的に
「この女を描かなくては」と思う
それが
表紙の絵「窓辺で手紙を読む女」のモデルとなったカタリーナだった
カタリーナは裕福なティンス夫人の娘でありながら
娼館に出入りしていた
なぜわざとわが身をつらい境遇に置こうとするのか?

その頃デルフトの街では
陶工と絵付け職人が数人
行方不明になるという事件が起こっていた
その一人は
ファブリティウスのもとで働く少女・オハナの祖父だった

その頃デルフトの街では
高価なはずの東洋の磁器が
不思議なほどの安い値段で売られていた
なぜ?

ヨハネスは
街で
東洋の楽器を演奏する老人と
真珠の耳飾りをした青いターバンの少女に出会う
それが「真珠の耳飾りの少女」のモデルとなった少女だった
投げ銭を受け取ろうとしない少女は
旅の芸人ではないらしい
2人は何者なのか?

ヨハネスは
レーウのおじのビール醸造所で
背の高い女が
作業台に置いた陶器の鍋に壺から牛乳を注いでいるところを垣間見る
それが「牛乳を注ぐ女」のモデルとなったバーブラだった

ある日デルフトの街で大規模な爆発が起こる
・・・

謎解きものですが
「シンデレラの告白」同様
ちょっと独特の風味があって
好みが分かれるかもしれません

個人的には
登場人物の中では
「牛乳を注ぐ女」のバーブラが
一番好きですが







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銀河鉄道の父

2017-10-06 | 読書日記
山に初雪が降った日

「銀河鉄道の父」(門井慶喜 2017年9月刊)を読みました




銀河鉄道の父
とは
宮沢賢治の父・政次郎のこと
政次郎の視点で書かれた宮沢賢治の生涯のものがたりです

政次郎のイメージといえば
賢治の前に壁のようにそそり立っているひと
賢治に現実を突きつけるひと
無理解なひと
という感じでしょうか

この作品ではそれがひっくり返される

宮沢家では先祖に財産を蕩尽した人があって
政次郎の父喜助は道端で古着を売るところからコツコツと財を築いて
質屋を開いた
政次郎は花巻一の秀才と言われながらも
喜助の「質屋には学問は必要ねぇ」の一言で
中学進学を諦めた

政次郎はひっそりと賢治を溺愛していた
賢治が赤痢になったときは
隔離病棟に泊まり込んで
蒟蒻で腹を温めたり
枕元で歌を歌ってやったりして看病した
(その果てに腸カタルになって
生涯、腸の不調に悩まされることになる)

賢治が石集めに熱中すれば
鉱物学の本を買い込んで
その知識を賢治に語って聞かせ
標本箱が欲しいと言われれば
京都に古着の買い付けに行った時に
500個の紙箱を買って送った

ひっそりと賢治を溺愛しながらも
政次郎は冷静に分析している
「これは賢治の肥やしになるか
むしろだめにするか
答えは、わからない」

宮沢家にとって質屋という商売は
祖父が苦難の末にたどり着いた頂点であったはずだったが
政次郎はついに喜助の反対を押し切って
賢治を中学校に進学させる
そこが宮沢家のターニングポイントになる
妹たちも弟清六も進学し
賢治はさらに 盛岡高等農林に
妹トシは日本女子大にまで進む

宮沢家の蓄えは
トシが東京で入院したあたりで尽きてしまう
誰かが後を継いでくれるならば頑張りようもあろうが
賢治も清六も質屋を継ぐことはないだろう
と政次郎は思う

しかし急に生計の道を放り出すことはできない
・・・・


宮沢賢治という芽は確かにあっただろうけれど
その芽に
手をかけて育ててしまった
のは政次郎だった
という説のものがたり

読んでいると
ちょっと胃のあたりが痛くなってきます








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町をすみこなす

2017-10-03 | 読書日記
ちらほらと
木の葉が色づきはじめました

話題の「町をすみこなすー超高齢化社会の居場所づくりー」(大月敏雄 2017年7月 刊)を読みました




着こなす
使いこなす はよく聞くけど
「すみこなす」?
新しい言葉だ
と思ったら
筆者は1991年に書いた卒論で
もうこの言葉を使っていたそうだ
その時は「家をすみこなす」で
今度は「町をすみこなす」
「町をすみこなす」とはどういうことだろう?

新しい服を買って
気に入って
長く着る
色々な組み合わせで着る
それが着こなす
ならば
住みこなすもそうだろうか?

長く住む=時間
となれば
人が町に長く住むことによって起こるのは
住民の高齢化だ
(高齢化・・・)
ひとり住まいの高齢者が増える
空き家が増える
学校に入る子どもが減る
・・・

その解決はGターンだ
つまり
住民が気軽に引越しをする町にすればよい
と筆者は言う
引越しをして出て行ってしまうのではなくて
人が町の中で移り住む町だ
独身の時は賃貸アパートに住み
結婚して子どもが生まれたら部屋数の多い賃貸に
やがて家を購入して
子どもが独立したらまた小さな家に住み替える
車での買い物が困難になったら
スーパーや商店街の近くに引っ越す
子育て中の子どもが近くに引っ越して来ることもある(近居)
流行りの孫ターンもあるかもしれない
スーパーや施設のスタッフがアパートに住むようになる
その人たちが結婚して・・・・

つまり
町を長くつかう
ためには
若い人や年老いた人や
独身の人や子育て中の人など
多様な人が住んでいることが必要なのだ

そして
それぞれに居場所のあることが必要になる

ということで後半は
居場所について語っている
居場所研究は仮設住宅にとても役に立ったらしい


長年「住みこなし」を研究してきた筆者は
趣味のような研究と言われて来たけど
(「真に革命的なものは奇抜に見える」・・・「青の数学」より)
ようやく時代が追いついて来た!
と思っているという

先回の「ガイアの夜明け」で独身の高齢者の賃貸住まいのことを取り上げていた
この住宅双六に載らないひとは
どうなるのだろう?
次はそのことについてもぜひ書いて欲しい






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