ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「揺籃(ようらん)の都」  時代ものミステリ

2022-08-28 | 読書日記

ツルボが咲いています。

「蝶として死す」の羽生飛鳥の2作目

「揺籃の都」(羽生飛鳥著 2022年6月 東京創元社刊)を読みました。



時代ものミステリとしてはめずらしい平家の時代が舞台です。
前作と同じく探偵役は平頼盛
(平清盛の父忠盛と正室・池禅尼の子
清盛とは15才離れている)

清盛が旅から帰った日
福原(遷都後)の清盛の館に
偶然
頼盛、清盛の子息・宗盛、知盛、重衡が集まった。
その夜は雪。
いくつもの事件が起こる。
頼盛の追っていた青侍の遺体が
切り刻まれた状態で塀の外に散らばっていた。
厩では清盛のペットの猿が殴り殺されていた。
清盛の枕元にあった刀が紛失した。
厳島神社の巫女の小内侍という少女が「神」を見たと言う。
その小内侍は
清盛の書で封印された祈祷所の中から消え
逆さ釣りにされた姿で発見される。
屋敷内の多くの人が巨大な鳥が飛ぶのを見たという
……

この全ての事件を仕掛けたのは
同じ人物なのか
それとも複数の人物なのか?

頼朝の助命を嘆願した池禅尼の子ということで
一族から疎外されている頼盛に
協力的でない宗盛たち三兄弟
何かを企んでいるらしい清盛
不案内な館
暗がり

なぜ遷都した福原が揺籃(ゆりかご)の都なのか
……

二重底のような解決が
お見事です!


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「夏休みの空欄探し」 謎解き+ミステリ

2022-08-23 | 読書日記

「夏休みの空欄探し」(似鳥鶏著 2022年6月 ポプラ社刊)を読みました。

つぎつぎに願いが叶う
いわばシンデレラ・ストーリーでしょうか。

学級カーストの最下層にいる主人公・成田頼伸(ライ)が好きなのは
謎解き。
クイズ研究会の部長をしている。
といっても部員は2人だけ。
学級の人気者・成田清春(キヨ)と同じ姓なので「じゃない方」と言われている。

夏休みのある日
ライはふと入ったカフェの隣の席で
2人の少女が謎解きをしているのを聞きつける。
謎が解けたライは
ついレシートに答えを書いて置いてきてしまう。
すると何と
2人の少女が追いかけて来て謎解きを手伝って欲しいと言うのだ。

大学2年の姉の雨音と高校1年の妹の七輝は
古本屋の本に挟まれていた「ある資産家が出題した一連の謎」を解く
のを手伝って欲しいと言う。

偶然現れたキヨも謎解きのメンバーに加わることになる。
ライの夏休みは一気に輝きはじめる。
キヨに服を選んでもらったり
キヨに悩みを打ち明けられたり
謎の解の指示に従って
4人で海に行ったり
船に乗って島に渡ったり
一泊旅行をしたり
ディズニーランドに行ったり
……

でも
ライもキヨも気付きはじめる
何かがおかしい……


創作ノートに長年保存してあった謎
を一気に放出したという
著者が楽しんで書いている一冊です。

姉妹が美少女というところもご愛嬌。

 

 

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「あきない世傳 金と銀 13」 完結編です

2022-08-18 | 読書日記

「あきない世傳 金と銀 13大海篇」(髙田郁著 2022年8月 角川春樹事務所刊)を読みました。

両親と兄を失い
妹に離反され
3人の夫を失った主人公の幸
第1巻では少女だった幸も
この巻では四十を過ぎている。

今回もさまざまな苦難が押し寄せる。

最初は(ドラマや映画にもなった)「みをつくし料理帖」シリーズ
には及ばないなぁ
と思っていたけれど
このシリーズのスケールの大きさに
だんだん惹かれて行った。

アイデァを駆使して呉服の商品を生み出すところが読みどころ
と思っていたけれど
そればかりではない。
そのアイディアを自分の店ばかりではなく
同業者組合全体で取り扱う。
それが火災による被害を経て
町内の他の業者とも協働して
キャンペーンを張る
というところまで広がる
ところがすごい。

大阪に奉公に出た身寄りのない少女が
ここまでのスケールを持つとは……
(著者は、最初からここまで構想していたのだろうか…)

個人的には
吉原の衣装比べで一巻にして欲しかったくらい。
緋毛氈ランウェイを歩むシーンが
もっとたっぷりでもよかったのに
と思います。

なぜタイトルに「金と銀」と入るのか
の疑問も解けました。

ドラマ化されるでしょうか?

 

 

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「本屋という仕事」 多角的

2022-08-16 | 読書日記

「本屋という仕事」(三砂慶明著 2020年6月 世界思想社刊)を読みました。

本屋が減っているそうです。

個人的にも
最近はもっぱら借読(カリドク)
買うときは、一度読んだものを応援消費として買っているので
(出版社への)
強く「本屋」というものを意識したことはなかった。

本書は、本屋の存続について
◯火を熾す
◯薪をくべる
◯火を焚き続けるために
という3つの章に分けて書いている。
(著者は各地の書店経営者、書店員」

そうなのだ。
はじめることよりも
続けることが難しい
のだ。

本を差別していないか…
ハード系のパンを好む人がスーパーの菓子パンを見下すように
と思うことが時々ある。
沖縄の市場に古本屋を開いている宇田智子さんは
「そもそも哲学書とダイエット本のどちらが立派だとかいうことはない。
読むことで新しい知見が得られたり自分の動きが変わったりして
心身に何らかの刺激を与えてくれるだろうと期待するのは
どんな本を読むときも
同じではないだろうか」
と言っている。

「本はどこでも買えるから
出会い方に物語のあるのがいい」
というのも分かる。
ある書店に行った時
とても好きな児童書が
科学書のコーナー(!)に
その続編と共に並べられているのを見て
(え、この本、続編がでているの!)
と衝動買いした時の楽しさは、何年たっても消えない。

「読書の楽しみは
読者が自分で本を選択するところから始まる」

「インターネットに接続したその時点から
自分がどんなことに興味を持っているかという情報が吸い上げられていることを
頭の片隅に置いて使用する必要がある。
図書館や本屋の本棚から一冊の本を抜き取る行為は
どこにもつながっていない」
(田口幹人)

みなさん真剣です。

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「凍る草原に鐘は鳴る」 この世の中が変わったら…

2022-08-14 | 読書日記

「凍る草原に鐘は鳴る」(天城光琴著 2022年7月 文藝春秋社刊)を読みました。

災厄の起こった世界……
コロナが蔓延している世界を下敷きに書いているような作品です。

主人公マーラは生き絵司という仕事をしている。
羊を飼って季節ごとに移り住む暮らしをしているアゴール族は
草原に額を立てて
その中で演じられる演劇・生き絵を娯楽として
芸術として楽しんで来た。
生き絵の演出をするのが生き絵師
あまたの生き絵師の中で
最上の位に位置し
族長たちの集う会議の時に披露する役目を担うのが生き絵「司」なのだ。
マーラたちは
ある日突然、全員が「動くものが見えなくなる」病に罹ってしまう。
静止しているものは見えるけれど
話している口、瞬きしている目、動かした手が消えてしまう。
飼っている羊も見えない。
マーラの演出した生き絵を見た族長たちは
表情も動きも見えない演劇に
自分たちの「現在」を見せつけられた気がして愕然とする。
誰も生き絵を楽しむ人はいなくなった……

族長は稲作の国・稲城に
アゴールの居住区を作って移り住むことを決める。
でも、マーラの父は遊牧の暮らしを続けることを選ぶ。
マーラは旅に持って行く荷車を買うために稲城に行くが
乗って来た馬を盗まれ途方に暮れているところを
王に仕える奇術師だったコウショに助けられる。 
働いて荷車を得る資金を得るために稲城に留まるマーラと
コウショは
お互いの悩みを打ち明け合うようになる……
初めて理解し合える人を得たマーラの喜び!

いつか
この病が去る日が来ることを願って生きるのか
動くものの見えない世界を受け入れて生きるのか
生き絵の、奇術の形はどうあればいいのか……

息が詰まるような病の蔓延した荒れた世界
それを読み続けた辛さを吹き飛ばすような
結末が
爽快です。


「多くの読者が
きっと自分の今を見いだせる小説だ」(辻村深月)
そうですね。

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「お金」で読む日本史 

2022-08-09 | 読書日記

「「お金」で読む日本史」(本郷和人監修 BSフジ「この歴史おいくら?」制作班編集 祥伝社新書 2022年7月刊)を読みました。

「私が青年であった頃は
お金のことを云々するのは恥ずかしい
という風潮が明らかにあった。
しかし、最近の学生を見ていると
お金を稼ぐ=素晴らしい
という図式が、すっかり定着している」(本郷)
確かに、先立つものがなくては大きな志も実現できない
だろう。
あの歴史を動かした事件には、いったいいくらのお金が必要だったのか?

本書では
源頼朝
武田信玄
忠臣蔵
徳川吉宗
河井継之助
勝海舟
が取り上げられている。

お金の話なのに(偏見?)感動的なのは河井継之助の章と勝海舟の章

旗本だった勝海舟は
23才で結婚すると
蘭学者永井青崖に学ぶため近くに引っ越すが
父、病気の母、妹、妻、娘、下人の7人が
俸禄41石(年収400万ほど)で暮らしていたので
畳は破れたのが3枚だけ、天井の板は薪木にしてしまって一枚もない
というありさまだった。

その後、役がついて俸禄は100石になる。
さらに軍艦操練所の教授方頭取になり
咸臨丸の実質的な艦長としてアメリカに行く。
帰ってきて軍艦奉行並になり、俸禄は1000石になる。
この間10年。
その後は
ご存知の数々の出来事があるのだが
(明治政府の廃藩置県がすっと通ったのは
ほとんどの藩が財政危機に陥っていたためで
明治政府は
藩の年貢収入を政府収入とする代わりに
藩の債務を
棄捐したり、国債を発行することで引き継いだ
などなど)
勝海舟は晩年伯爵に叙せられ
年収は35000円(約3億)にもなっていた。

勝海舟はこのお金で困窮している士族を救済したり
寛永寺の石垣を修復したり
慶喜の名誉回復のための働きかけをしたり
している。

明治16年には
西郷隆盛の漢詩碑と祠も建てた。
漢詩碑には西郷が配流された時に詠んだ詩
「願わくは魂魄を留めて皇城を護らん」
が彫られ
裏には海舟の言葉
「君ほど私をよく理解してくれた者はなく
私以上に君を理解している者はいない」
が彫られている。
という。

 

 

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「言語学バーリ・トゥード」 なるほどねぇ

2022-08-01 | 読書日記

面白いと聞いたので
「言語学バーリ・トゥード」(川添愛著 2021年7月 東京大学出版会刊)を読みました。

バーリ・トゥード(ポルトガル語で「何でもあり」を意味し、20世紀においてブラジルで人気を博すようになった、最小限のルールのみに従って素手で戦う格闘技の名称)

日ごろ何となく思っていたことが
(表紙に登場する人たちを例に)
スパッと語り解かれるので
爽快。
言語学といってもお堅い話ではありません。

中でも
これは
と思ったのは
第8章「たったひとつの冴えたAnswer」
出てくる人はGLAYのTERUと氷室京介。

(会話における反射神経が鈍いので
「あ、今、違った意味にとられたなぁ」
と思った時には、もう会話はかなり先へ流れて行ってしまって
あああ、と思いながら呆然と流れを見ている
というのがいつも。
この章にあるように、リアクションに困っているうちに
流れ去ってしまうこともままあるので
心して読みました)

著者が「もっとも困るシチュエーションの一つ」
にあげるのが「他人が自虐的なことを言ったとき」だ。
絶対に肯定できないし
否定するのも意外に難しい。
(相手は否定してもらうことを望んでいる)
なぜ難しいかというと
否定してもらいたいんだろうから、否定しなくちゃ
という空気を相手に感じさせてはいけないからだ。

そんな時、著者はすごい「技」を見てしまう。
あの氷室京介が
「TERU君はさ、いい声だよね。
俺はさ、いい声じゃないから」
と言った時だ。
超目上の人の自己卑下!
(そんなことありませんよ〜は最低の返し)
それにTERUは絶妙の返しをする。
別の新たな評価軸を出して来るという技を使ったのだ。
言った言葉は「                 」(本文参照)

実際の場面で「新たな評価軸」をとっさに思いつけるかどうか
全く自信はないのですが
とりあえず「新たな評価軸」という発想をすればいいということは分かりました。
嬉しいです。

 

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