ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「日本史を暴く」 古文書発見記

2022-11-28 | 読書日記

「日本史を暴く」(磯田道史著 2022年11月 中公新書)を読みました。

怖い顔をした磯田さん(テレビでお馴染みなので、つい言ってしまう)
裏、闇、暴く
というほどではありません。
新聞連載をまとめた軽い一冊。

どの章にも〇〇で古文書を発見
読んでみたら…
とある。
新聞を読むような速さで古文書が読めるという磯田さんでなくては
こんなに発見できないだろう。

磯田さんは
子どもの頃
台風で大雨が降ると
20km余りの道を自転車をこいで
高松城のあたりが水浸しになっているのを見に行って
秀吉による備中高松城の水攻めの情景を想像した
という。

よしながふみの「大奥」も読んでいて
「社会の構成員の声をまんべんなく反映させるには
リーダーや会議メンバーに女性・若者が含まれていて
その発言が尊重されていなければおかしい。
でなければ、その集団は衰退する」
と言っている。
そして藩主の母がリーダーシップを取り
学問、武芸に勤しんだ三上藩を紹介している。

会津藩主・松平容保四兄弟を生んだ高須藩(3万石)では
(四兄弟はみな養子に行き、幕末に大活躍)
奥の女性たちは
時には松茸狩りに熱中するなど
女性の自由度が高い家風であったという。

光秀が外交能力を発揮できたのは
妻子がみな美しく
立ち居振る舞いが上品であったことが
大きかった。
(宣教師の証言)

日本中の藩が米を年貢としていた思ったら、それは違う。
青森県の六ヶ所村の辺りでは
牧畜、狩猟、漁労を中心に生計を立て
その収穫物を年貢としていた。
(!)

などなど
小ネタ満載の一冊です。

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「編めば編むほどわたしはわたしになっていった」

2022-11-25 | 読書日記

東日本の震災のあと出来た「気仙沼ニッティング」の製品(地域の人による手編みのセーターを販売)のデザインを担当した
ニットデザイナーの三國万里子さんのエッセー
「編めば編むほどわたしはわたしになっていった」(三國万里子著 2022年9月 新潮社刊)を読みました。

三國万里子という存在が好きです。

表紙は最近人形の服作りに凝っている
という三國さん作のセーターを着た
ロシアの作家の人形
(ロシアは人形制作がさかんです)

中学生のころ
学校になじめずに
外階段で時間を過ごしたり
しょっちゅう早退したりしていたこと。

息子さんはなかなか言葉を言わず
ひらがな積み木で意思表示をしていた。
その後母音だけを発音するようになり
ずいぶん経って子音も言うようになったこと。
(今では日本語ペラペラ)

大学を卒業して仕事に馴染めずに
秋田の山奥の温泉旅館で働いた日々のこと。

はたから見るとちょっと重めの話が
淡々と語られていきます。
(そうでない話もあります)

第1話では
夫との結婚のいきさつを語っている。
アルバイト先で出会った夫が
(年の差婚というから、ちょっとおじさんだった?)
何という銘柄のタバコを吸っているか知りたくて
(自分も同じものが吸ってみたくて)
コンビニで全種類のタバコを買って
三國さん(夫)の前に
「好きなの一つあげます。クリスマスだからみんなにあげているの」
と言って袋を差し出して
三國さんがキャスター・マイルドを取り上げるのを見て
吸っている銘柄を探り当てた。
(作戦!)
そして続く。
「半年後、わたしは三國さんと結婚した」
この余白の大胆さに
脱帽しました。

まあ、
三國万里子が好きなので
書いてある中身は何でもいいのですが。



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「死に方がわからない」 現代終活事情

2022-11-22 | 読書日記

「死に方がわからない」(門賀美央子著 2022年9月 双葉社刊)を読みました。
物騒な題名ですが
世に言う「終活」について調べたレポートです。

著者は50才過ぎ
配偶者、子どもはなく
兄弟もいない。
郷里にお母さんがひとりで暮らしている。
親類ともあまり交流はない。
フリーライターなので職場というものもない。
そんな著者が
(お母さん亡き後)
自分のイメージした最後を実現すべく調べに調べたのがこの一冊。

問いを立て
その解をそれぞれ3つ以上。
ここがすごい。
人は、1つ解を得たらつい安心してしまうものなのに。

問いは
◯自宅でひとりで死んでいた場合、どうしたら早く発見されるか
◯どうしたら希望しない(過剰な)治療をしないで死ねるか
◯死後の住居やモノの整理はどうしたらいいか
◯葬儀や埋葬はどうしたらいいか
などなど

死んでしまったら仕方がない
という丸投げではなくて
出来るだけ準備をしてすっきり死にたい
というのが著者の希望なのだ。

調べる過程が読ませる。
ネットで調べる
人に聞く(インタビュー)
お役所に聞く
NPOに聞く
専門家に聞く……
あらゆる方法を駆使して調べに調べる。

例えば「死後早く発見されるには」の解は3つ
◯友人と1日1回スタンプを送り合う
(人間関係&デジタル)
これだけでは心配なので
◯新聞を取る
(私企業&アナログ)
◯安否確認サービスに登録する(著者の頼んだNPOは無料)

著者が考えた方法をなぞるのではなくて
それぞれの解を考えるのが大事だと分かりました。

 

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「小さなことばたちの辞書」 辞書編纂の物語

2022-11-20 | 読書日記

まだ初雪は降っていません。

「小さなことばたちの辞書」(ウィリアムズ著 2022年10月 小学館刊)を読みました。

幼くして母を亡くしたエズメは
父が仕事をしている辞典の編纂室スクリプトリウムの大きな机の下で過ごすのが常だった。
室長のマレー博士(実在の人物)は
ここで「オックスフォード英語大辞典」を編纂していた。
壁には仕切りのある棚があり
たくさんのカードが置かれている。
国内のあちこちに住む協力者から送られて来たものも多かった。
辞典にはことばの語釈だけでなく
用例も記載される。
その用例を集めることに協力者が必要なのだ。

エズメを「育てている」のは父ばかりではない。
マレー家の女中のリジー
辞典編纂の協力者ディータ(実在の人物)
父の仕事仲間の多くも
エズメにやさしく接してくれていた。

やがてエズメはスクリプトリウムで仕事をするようになる。
(マレー博士の娘たちもスクリプトリウムで仕事をしていた)
マレー博士は「英語のすべてを記録する」と言っていたのに
採られないことばがあることに
エズメは気付く。

リジーが呼ばれることば「ボンドメイド」
女性器を表す「カント」
エズメは市場に出かけるようになる
ポケットに記録カードをしのばせて
……

初めての生理も
出産も
父の死も
すべてを「それを表現することば」と結びつけるエズメ
……

実在の人物と実際の出来事の中を
実在の人物たちに愛されながら
いきいきと泳ぐ「著者の造形した人物」エズメ
の魅力がページの間からあふれ出ている。
リジーは言う。
「あんたは昔っから
ことばは誰が使うかで意味が変わるって言ってたっしょ。
ボンドメイドも少しばかり違った意味になったっていいんでないのかい。
あたしはねえ、あんたがこんなちっちゃっこい頃から
あんたのボンドメイドだったの」
エズメは自分のカードに書く。
「ボンドメイド
愛情、献身、あるいは義務によって生涯結ばれていること。
用例
あたしはねぇ、あんたがこんなちっちゃこい頃から
あんたのボンドメイドだったの。
そしてね、それを喜ばなかった日は一日もないんだよ」

「社会の周辺にいる人々のことばを集める
というエズメの包摂的な姿勢の背景には
作者が失読症を抱えていることが影響しているかもしれません」
と訳者は言う。

まだ11月ですが
今年読んだ本のベスト1かもしれません。
(ぜひ本屋大賞翻訳部門賞になってほしい)

 

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「川のほとりに立つ者は」 寺地はるなの新作

2022-11-18 | 読書日記

昨日は霰が降りました。

「川のほとりに立つ者は」(寺地はるな著 2022年10月 双葉社刊)を読みました。

直立二足歩行の本を読んだばかりなので
この本を読んで
ヒトの脳はなぜこれほど多様なのだろう
と考えた。
縄文時代も江戸時代も
ヒトの脳は多様だったのだろうか……

カフェの雇われ店長をしている清瀬に
登録していない番号から電話がかかって来る。
恋人の松木が階段から落ちて
意識不明の状態で病院に運ばれたという。
一緒にいたのは松木の幼い頃からの友人樹(いつき)
樹もまた意識不明だった。

松木の部屋に行ってみると
ホワイトボードや文字を練習したノートなどがあった。
手紙の下書きもあった。
天音という人に宛てた手紙だ。
松木は誰に文字を教えていたのか?
なぜそれを清瀬に隠していたのか……

登場人物たちの脳の多様さが意識される。
ディスレクシア(文字が書けないひと)の人物は
耳からの情報を記憶する力も思考力も優れている。
松木は携帯電話をしばしば置き忘れる。
清瀬はデキる人である分、他人への想像力に欠ける。
発達障害の人物も出てくる。

自分の障害を認識していて
障害があるという扱いをされたくないために隠している人
自分の障害を知らずに
劣った人間だと思い込んでいる人
障害だということを知らずに
努力によって克服できると思っている人
……

障害だと思うことが
生きやすさに繋がるのか
それとも生きづらくなるのか
……
答えは一つではありません。
寺地はるな
大きな課題に切り込んでいます。

 

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「直立二足歩行の人類史」 人類を生き残らせた出来の悪い足

2022-11-16 | 読書日記

「直立二足歩行の人類史 人類を生き残らせた出来の悪い足」(デシルヴァ著  2022年8月 文藝春秋社刊)
を読みました。

立って歩くようになって
手が自由に使えるようになったから
ヒトはここにいる
と言うけれど
そう単純じゃないんだよ
と著者は言う。

著者は考古学者で
特に足の化石(足跡の化石も)を研究している。

二足歩行をする生物は他にもいる。

恐竜の一部
カンガルーだって立っている。

ヒトは樹上から地上に降りて二足歩行になった
という説があるけれど
そうだろうか?
木の上で既に立っていたかもしれないのだ。
(立っている方が
より高い枝の実を採れる?)

問題は地上に降り立って
時々は立っていたヒトが
その時々から「常時」になったのはなぜかということなのだ。
その答えはまだない。

はっきりしているのは
類人猿が手の甲をついて歩くナックルウォークから
徐々に立ち上がってヒトの二足歩行になった
という考えは違うということだ。
(類人猿はヒトの祖先ではないし)

「直立」の歩き方がエネルギー効率がいい
ということは言える。
ランニングマシーンを使って実験すると
チンパンジーの歩行に費やすエネルギーは
ヒトの2倍になる。
チンパンジーの歩き方は効率がよくないのだ。

しかし「直立二足歩行」には難点もある。
一方の足を怪我すると
歩けなくなってしまうのだ。
さらに、もし怪我をしていなくても
明らかに四足で走る動物に走りでは負けているのだ。

それなのになぜ直立二足歩行?

まだまだ謎は解明されていない。
著者は言う。
足を怪我して歩けなくなった仲間を助けるところから
「共感力」という脳の働きがはじまったのかもしれないだろう?と。

現代のわたしたちが
「歩いたほうが脳が活性化する」
ということは実験によって証明されていると著者は言う。
直立二足歩行をしたから脳が発達したのかもしれない。
それも
まだ証明されてはいないけれど。


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「ザリガニの鳴くところ」 映画化されました

2022-11-13 | 読書日記

家にいる時間が長いので
少し歯ごたえのあるものを読みたい
と思って
「ザリガニの鳴くところ」(オーエンズ著 2020年3月 早川書房刊)を読みました。

と書いたのは2020年4月
この作品が映画化されました。
みる
かどうか迷います。
心を奪われた作品だったので
自分の中にある「像」を壊したくない気持ち。
みたい
気もするけど……
迷います、ほんとに。





1969年の世界と
1952年の世界が
交互に語られ始める。

1969年の方はミステリ。
町でも人気者の青年・チェイスの死体が町外れの火の見櫓の下で発見される。
事故なのか、殺人なのか……

1952年の世界の主人公はカイア
町の人々からは浮浪者の住む世界のように言われている沼地に住んでいる。
縦横に川が流れ
海に近く
森にも近い
たくさんの生き物たちが住むところ。
ザリガニの鳴き声も聞こえるほど静かなところだ。

幼いカイアのまわりの人たちは去っていく。
はじめに母親が。
大きい兄と姉たち
一番年の近い兄のジョディが去り
最後には酒を飲んでは暴力を振るう父親とカイアだけが残される。
その父親も
ある日家を出て、二度と帰って来なかった。

カイアは
母親が帰ってくる日を夢見て
家を整え、暮らし続ける。
母親の残していった絵の道具と
父親の残していったボートだけを頼りに。

カイアは沼地の生き物たちを集め
家の壁に展示し始める。
鳥の羽
貝がら
植物
……

ある日
カイアは美しい鳥の羽という贈り物を見つける。
兄ジョディの友達だったテイトからだった。
やがて
テイトはカイアに文字を教えるようになり
カイアは沼地の生物についての本も読めるようになる。

2人が共に過ごす日々の描写は
この小説の中で最も美しい場面だ。

テイトは大学に進学するために町を去る。
再会を約束して。
その約束は
守られなかった………

孤独を知らずに孤独の中にいる時よりも
孤独というものを知ってしまった時の方が
孤独は深い。
カイアは切実に人とのつながりを求める。
そこに現れたのが チェイスだった。

終盤2つの時の流れは重なり
町の人々が
登場人物として
どっと押し寄せて来る
……

カイアが「本を書く人」になる物語でもあります。





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「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」 本屋大賞ノンフィクション本大賞

2022-11-11 | 読書日記


「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」(川内有緒著 2021年9月 集英社インターナショナル刊)

本屋大賞ノンフィクション本大賞受賞!

目が見えない白鳥さんは
何か視覚障害者らしくないことをしたい
と考えていた。
大学生時代、ガールフレンドに誘われて美術館に行ったら
とても楽しかったので
それから
方々の美術館に電話をして
「視覚障害者なのだけれど、サポートの人をつけてもらえないか」
と依頼してきた。
初めは断られていたけれど
だんだんに受け入れいてくれるところも増えて
白鳥さんの趣味は美術鑑賞になった。
そして
今では美術鑑賞家になっている。

視覚障害者なら手に職を
と言われて資格を取って
マッサージ師をしていたけれど辞めて
美術鑑賞家として立っている。

「白鳥さんと作品を見ると、ほんとに楽しいよ」
と友人のマイティに誘われて
著者は白鳥さんと一緒に美術館に通うようになる。

見えていない白鳥さん
という存在があるからこそ
見たものを言語化する必然性が生まれる。
見える人だけで言語化する鑑賞と
次元の違う深さが生まれる。
それが「楽しい」だ。
やがて、白鳥さんを中心とした鑑賞会があちこちの美術館で誕生するようになる。
(で、白鳥さんは美術鑑賞家になる)
それは、白鳥さんにしか出来ないことだった。

白鳥さんが美術鑑賞家になる流れに立ち会う
なかで
著者もどんどん変わっていく。
楽になっていく。
「自分に絡みついてくる常識や、女性、盲人、高校生、社会人など
押しつけられるステレオタイプやべき論から自由になりたかった。
そうして
家や学校、職場を飛び出したとき
そこにたまたまあったのが美術館だった……」

新聞に
博物館(美術館)に行くと心身の調子がよくなる
という調査結果が載っていましたよ。

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「マーダー・ミステリ・ブッククラブ」 手がかりが多すぎるミステリ

2022-11-09 | 読書日記

この秋は
ミステリが豊作らしい。

「マーダー・ミステリ・ブッククラブ」(ラーマー著 2022年8月 創元推理文庫)を読みました。

お固いブッククラブにうんざりしたアリシアは
同居する妹リネットの勧めで
自分でブッククラブを立ち上げることにする。
ミステリを読む読書会だ。

新聞広告のメンバー募集に応募して来たのは
古着店を営むクレア
開業医のアンダース
博物館の学芸員のペリー
図書館員のミッシー
専業主婦と名乗るバーバラ

ところが2回目の読書会にバーバラが現れない。
家族に問い合わせると
バーバラの行方が知れないという。

ブッククラブのメンバーたちは
読書そっちのけでにわか探偵をはじめることになる。

それにしても手がかりが多すぎる。
バーバラの家のキッチンの冷蔵庫に貼ってあったシェルターの電話番号
乗り捨てられたバーバラの車
車の中にあったアガサ・クリスティの本
バーバラは失踪する前に
手紙を投函し
宝石店に寄ったことが分かった。
政界進出を目指している夫と
反抗的な娘
娘のテニスコーチ
奇妙な家政婦
……

まるでクリスティの「オリエント急行」のようだ。

バーバラはどこに行ったのか?
生きているのか?
読書会のメンバーは信頼できるのか……

読書会のシーンが全く出て来ない読書会モノです。

アリシアのねばり強さが光ります。
これくらいでないとシリーズを支えていけないかも。
(次巻はまだ翻訳されていません)

 

 

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「喫茶の効用」 自宅喫茶も

2022-11-06 | 読書日記

ぱらぱらととめくったら
「お会計時に「いつもありがとうございます」
などと言われてしまった日には……」
と書いてあるではないか。
そうそう、そうなんです(常連客扱いが苦手)
ということで
「喫茶の効用」(飯塚めり著 2021年11月 晶文社刊)を読んでみました。

著者は喫茶店観察家。

◯雨の日に気分を明るくしたい
◯都会の真ん中で旅気分を味わいたい
◯とにかくひとりになりたい
◯朝から気分が上がりません
◯悩みごとをちっぽけにしたい
◯どっぷり読書につかりたい
などの項目で、喫茶店を紹介している。
(イラストも著者)

読めば
東京に旅に出て
喫茶店でひと休みした気分が味わえる。
(旅本の効用と同じ)

◯巣ごもり期間も心を動かしたい
の項目では
コロナの中で、喫茶店を控えていた時に考え出したことが書かれている。
家の中にカフェスペースを作って
喫茶店からテイクアウトしたものを
(著者は電車で持ち帰ったりしている)
楽しむ
というもの。
いつものテーブルでなくて
別の場所に。

にわかにその気になって
ここがいいかな
あそこがいいかな
と小さな模様替えを考えてしまう。
すでに効用が……


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