ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「ラブカは静かに弓を持つ」 

2022-05-31 | 読書日記

「ラブカは静かに弓を持つ」(安壇美緒著 2022年5月 集英社刊)を読みました。

「天龍院亜希子の日記」
「金木犀とメテオラ」
(メテオラって何?)

独特なタイトルの付け方に
ついつい手に取ってしまう安壇美緒
今回も
ラブカって何?とついつい。

(ラブカというのは
水深1,000m近くの深海に生息している深海魚。
体長は2m
3億5,000万年前から生息していたので生きた化石とも言われるらしい)

全日本音楽著作権連盟に勤める橘樹(いつき)は
上司の命で大手音楽会社ミカサの音楽教室に
生徒として潜入調査をすることになる。
ミカサと著作権連盟の間では裁判が行われようとしていた。
音楽教室で使われている楽曲から著作権料を徴収できるかどうかという問題だ。

樹は、子供の頃チェロを習っていたことがあるのだ。

毎回チェロのレッスンの様子をペン型マイクに録音し
あえてポピュラー曲を選んでレッスンしてもらう樹のために
若い講師の浅葉は
有名な映画音楽「戦慄(おののき)のラブカ」を選ぶ。
スパイ映画だという。
孤独なスパイが潜入先で住民たちと親しくなってしまう話…
浅羽は気付いているのか……

チェロの魅力に引き込まれていくレッスン
浅羽の教室生たちとの交流
不眠に悩む私生活
にさし挟まれる
会社での上司とのやり取りに否応なくスパイであることを思い出さされる
日々……

いつスパイであることがバレるのか
(樹は裁判に出廷することになっていた)
バレた後はどうなるのか
……

気になって
気になって
ページが重く感じられるほどです。
倒叙型ミステリのような味わいです。

 

 

 

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「ライトニング・メアリ」 イクチオサウルスを発掘した少女

2022-05-24 | 読書日記

庭はツリガネスイセンが終わって
シレネの季節

「ライトニング・メアリ 竜を発掘した少女」(シモンズ著 2022年2月 岩波書店刊)
児童書です。



映画にもなったメアリ・アニングの少女時代が描かれます。

1才半の時、雷に打たれて
いっしょにいた人たちはみな死んでしまったのに
1人助かったメアリは
父親からライトニング(稲妻)メアリと呼ばれる。

その名のとおり、メアリは稲妻だ。
大人にもズバズバとものを言うし
頑固で、一度こうと思ったら決して引かない。

メアリの家は貧しい。
(某朝ドラでの貧乏の描き方がリアルじゃないと言われているけれど
ここでは
胸が痛くなるほどの貧しい生活が描かれる)
父さんは家具職人をしながら
海辺でめずらしい石(化石)を拾って避暑客に売っているが生活は楽ではない。
父さんは、化石探しの名人なのだけれど。
(化石にはラベルが貼ってあるわけではないので見る目が必要なのだ)
メアリは父さんの教えで、見る見る腕を上げていく。
ところが父さんは事故で寝たきりになってしまう。
1つのベッドに母さんと兄さんとメアリの3人がいっしょに寝て
動けなくなった父さんの体を温めたりもする。
家の家具は売り払われ、家には何も無くなっていく
……
日曜学校で学ぶことも出来なくなって
暮らしに追われるメアリ。

稲妻メアリには、応援する人が現れる。
地質学者になりたいと思っている少年ヘンリー
化石をコレクションしているエリザベス
メアリに使い走りを頼んでくれるストック奥さん
オックスフォードの研究員のバックランド
……

メアリはただ化石を掘り出すばかりでなく
ブランコのような装置を作って岩壁の化石を掘り出したり
強烈な匂いを放つ馬の死骸を見て骨格を知ったり
兄さんに木枠を作ってもらって粘土を敷いて
その上に自分で考えて化石を並べて標本にしたり
……

非凡な稲妻メアリのジェットコースターぶりが魅力的です。

ちなみに
この時代、日本は江戸時代です。

 

 

 

 

 

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「喜べ、幸いなる魂よ」 18世紀の少女の成長物語

2022-05-18 | 読書日記

「喜べ、幸いなる魂よ」(佐藤亜紀著 2022年3月 角川書店刊)を読みました。

18世紀のヨーロッパを舞台にした作品です。

亜麻糸商人の家に生まれたふたごの姉弟ヤネケとテオは
父の商売仲間の遺児ヤンと兄弟のように育てられる。

優秀だったテオは長じて進学し
(実はヤネケはもっと優秀)
家にはヤネケとヤンが残る。

ヤネケは独学で身に付けた数学の成果をテオの指導教授に送り
返事を貰っては学びを深めて行く。
と同時にヤネケは
テオとの間に子どもをもうける。
秘密裏に子どもを産むために家から出されたヤネケは
出産後、家には戻らず
(母親も、ヤンも結婚を望んだが)
子どもを、秘密の出産でできた子どもを育てる家に預けて
ペギン会という修道会に入って暮らすようになる。

信仰があったわけではない。
好きな学問を続けるための手だてだった。
ペギン会では
女たちは教会の周りに小さな家を持ち
レースを編んで得た賃金でつつましく暮らしている。
ヤネケは
数学の本を書き
テオの名前で出版して得た収入で暮らすことができるようになった。

物語はヤネケを見つめ続けるヤンの人生を伴奏のように描いていく。
周囲の望むままに
病で倒れたふたごの父親のあとを継いで店を切り盛りし
結婚をし
子供を育てるヤン。
(ヤネケの子どもも)

テオが事故死した後は
ヤネケはヤンの名前で本を出すようになる。
ヤンは質問に答えられるように
夜毎秘かにヤネケの本を読み
週に一度、数学に堪能なヤネケに店の帳簿を見てもらう
という結びつき
……

ヤネケがペギン会で開いた女子のための学校に通っているヤンの娘の言葉が
印象的だ。
継母に「綺麗なお嬢さん」になってはと言われた時
「ありがとう、うれしい
って答えたけど
それよりレース編んでる方が全然いいよ。
お父さん、レースの値段知ってるよね。
すごいよ。
ああ、レース作って、それで生きていけるんだって思ったら
何だろう、すごく強くなった、って感じ」

家を完璧に切り盛りし、店の帳簿も見るふたごの母親
ぺギン会にいて大工仕事をして賃金を得るアンナ
男名前で本を出版し、女の子たちに数学やフランス語を教えるヤネケ
それぞれの選択をするヤンの娘たち
一つではない生き方が
描かれています。

その「のびのび」感が
読んでいて楽しい
(といっても戦争も描かれます)

独特

 

 

 

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「図書室のはこぶね」 学園ミステリ

2022-05-14 | 読書日記

「図書室のはこぶね」(名取佐和子著 2022年3月 実業之日本社刊)を読みました。



タイトルに「図書室」とか「図書館」とあると
ついつい手に取ってしまいます。
学園ものミステリです。

体育祭が近いある日
友達から図書委員のピンチヒッターを頼まれた百瀬花音は
入学して初めて図書室に足を踏み入れた。
バレー部の部活動に忙しかった百瀬は
3年の今まで、図書室に縁がなかったのだ。
でも、足を怪我してしまったので
体育祭に出場することはおろか
準備に関わることさえもできない。
そんな百瀬にとって、図書委員のピンチヒッターは渡に船だった。

ビーバーのような前歯をした図書委員の朔太郎を手伝っているうちに
百瀬は不思議な本を発見してしまう。
「方舟はいらない
大きな腕白ども
土ダンをぶっつぶせ」
と書かれた紙が挟まった「飛ぶ教室」だ。
(土ダンというのは、学級対抗で行われるダンス競技のことだ)
既に本棚には「飛ぶ教室」があるのに
なぜラベルの貼られた「飛ぶ教室」がもう一冊あるの?
百瀬は張り切って謎解きに挑むことにする。
(だって、打ち込むものが他にないのだ)

体育祭前の閑散とした図書室に現れたのは
裸の上半身にバスタオルを巻きつけただけの少年。
土ダンの女装衣装を着たくなくて逃げて来たのだと言う。

さらに生徒会長の笠原翠子までもが逃げ込んで来る。

朔太郎がコクタロウとあだ名される原因となった告白の相手
で朔太郎の幼馴染の美少女江森蛍も現れる
……

司書の伊吹さん
司書教諭の郡司和巳まで巻き込んでの一週間
が描かれる。

にわかマイノリティになった百瀬が
にわか文学少女になり
にわか探偵になる
(初恋も)
……

意外に深いテーマが描かれています。

 

 

 

 

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「自由研究には向かない殺人」 容疑者が増えていく

2022-05-11 | 読書日記

「自由研究には向かない殺人」(ジャクソン著 2021年8月 東京創元社刊)を読みました。

 

ミステリです。

高校生のピッパの自由研究のテーマに対して指導教師は
「このテーマは題材としてはデリケート過ぎる。
私たちの町で発生した犯罪だから」とコメントする。
犯罪とは
5年前に17才の高校生のアンディが行方不明になり
彼女のボーイフレンドのサリルが
犯行を自供した(メールで)上で自殺した事件だ。

サリルの一家(父、母、弟のラヴィ)はペンキでいたずら書きをされたり
石を投げられたりと町の人たちから、ひどい扱いを受けている。
ピッパは、サリルが人を殺すとはどうしても思えなかった。
幼い自分に優しくしてくれたサリルの記憶があるからだ。
(ナイジェリア人の義父を持つピッパは、なかなか生きにくい)

ピッパは捜査を始める。
マスコミ、アンディの友人たち、当時の同級生にインタビューし
それをレポートに打ち込んでいく。
ところが
調べれば調べるほど容疑者が増えていくのだ。
アンディとサリルの友だちのナオミ
同じ仲間のマックス
アンディが秘密裏に交際していたという男
アンディからいじめを受けていたナタリー
ナタリーの兄で警察官になっているダニエル
ドラッグの売人の男
アンディの父親
……

容疑者を絞り込むために
ピッパは行動に出る。
ハラハラさせられるような大胆な行動に。
やがてサリルの弟のラヴィも協力してくれるようになる
……

灰色の脳細胞を駆使して行動し
ナイジェリア人の義父を持つが故のフラットさを持つ主人公ピッパ
が魅力的です!
(ピッパはこの後も活躍するらしく
続編が2冊出ています)

ついつい、一気読みしてしまいました。

 

 

 

 

 

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「おんなの女房」 予想を裏切る展開

2022-05-10 | 読書日記

「おんなの女房」(蝉谷めぐ実著 2022年1月 角川書店刊)を読みました。

 

「武家の娘が歌舞伎の女形に嫁に行ったら
女形は舞台を降りてもおんなとして暮らしている人だった」
という紹介文を読んで
これは武家娘が歌舞伎役者の女房として成長していく修行話かな?
と予想して
読みはじめたら
これが大違い。

主人公の志乃は
米沢藩の武士の娘で
父に言われるままに江戸の役者のところに嫁入った。
夫は燕弥というトップの次のあたりの女形。
家でも女の格好をしているのはもちろん
言動までもが役になり切ってしまうから厄介だ。

父から武家の娘として厳しく育てられた志乃は
どうやって女形の女房になったらいいのか分からない。
モデルがないのだ。
生真面目な性格の志乃は、どうしても正解を求めてしまう。
知り合った寿太郎という役者の女房お富は
行きたければ禁制の芝居の楽屋にまで入り込んでしまう自由さだし
仁左次の女房のお才は
大きな屋敷でたくさんの奉公人を使い4人の子を育て家を取り仕切っている。
どちらをモデルにしたらいいのか?
それともモデルは他にあるのか?

そればかりではない。
燕弥が少しずつ変わってきたのだ。
歩幅がほんの少し大きくなり、声が少し低くなった。
志乃は悩む……

無意識に予想して読んでいる方向が
急カーブを描いて別の方向になる
ところが面白い
個性的な時代小説です。

登場人物が現代語で話すのも、三谷脚本以来はアリならしい。

 

 

 

 

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「ナチスのキッチン(決定版)」 台所はどこへ行く?

2022-05-06 | 読書日記
「ナチスのキッチン」(藤原辰史著 2016年7月 株式会社共和国 刊)を読みました。



「ナチスの」とあるように
ドイツの食の歴史について書いています。

ドイツでは(寒いので)かまどは家の中にあった。
居間に。
居間に設置されたかまどには鍋が掛けられ
かまどの火は暖房にも照明にもなったので、家族はみな居間にいた。
居間には煮炊きの湯気と、煙が常に充満していた。
居間キッチンだ。

熱効率のよいかまど(料理用ストーブからやがてガスコンロを経て電気コンロになる)
が作られ
キッチンは独立した部屋になる。
労働キッチンと名付けられた。
家の中は清潔になったけれど
(この時代、奉公人のいる家は少なくなっていた)
料理を作る人(主に女性)は孤立した。

キッチンが家の外に作られるという流れもあった(これはアメリカ)
団地のそれぞれの家に台所はなく
セントラルキッチンで調理され
そこに「食べに行く」という形が提案された。
女性を台所から解放する
と考えられたけれど
これは定着しなかった。
台所は、また孤に戻った。

そういえば
スープ作家の有賀薫さんは自宅で
居間の中心にコンロと食器洗い機を設置して料理する
先祖返りのようなキッチンを試みている
と聞いたことがある。

以前によくあったダイニングキッチンでは
食事をするテーブルはキッチンにあったけれど
料理をする人は壁側に向いていた。
(今では向きは逆になり、家族を見ながら料理ができるようになっている)
でも、孤立しているということに変わりはない。
 
著者は言う。
「一家庭の外へと拡がって
別の家庭や社会と結びつき
街頭に台所が増殖し
その台所からコミュニティが再生し
新しい巨大な循環世界のネットワークを紡いでいったら」

それは
どんな「台所」なのだろう?

(後半は収集したレシピを分析して
ナチスの食政策について書いています。
毎週日曜日はアイントップの日
と決められていて
ジャガイモでとろみをつけたスープを食べることが奨励されていた
などなど)





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