美しき旋律 麗しき雑音

忘れるための記憶/覚えておかないための記録

森の中の小さな家で新聞を読む少年

2004-05-25 13:06:11 | 詩・散文・ショートストーリー
ある森の中の小さな家に、1人の少年が住んでいました。
その少年には家族はなく、家族の記憶さえありません。
ひょっとすると家族という意味も知らないかもしれません。

少年は、朝起きると2つの新聞を読みます。
Y新聞とA新聞です。

1人で住んでいるのに、2つも新聞を取っているのは、
単純に活字を読むのが好きだからです。
よく言われる「活字中毒」なのかもしれません。

少年は、みっちり2時間かけてY新聞を読みます。
そのあと、これまたきっかり2時間かけてA新聞を読みます。

言い忘れましたが、少年は特に仕事はしていません。
あえて言えば、毎日丹念に新聞を読むのが
仕事といえるかもしれません。
(それによって報酬を得ているわけではないのですが)

その後、朝昼兼用の食事をとります。
たいていは、近所のおばさんが持ってきてくれる
山菜やビスケットくらいで済ませます。
世間一般から言えば、少食といえるでしょう。

午後は、夕刊が届くまでのんびりと過ごします。
とはいえ、たいがい本を読んでいることが多いようです。

少年はどんな本でも片っ端から読んでいきます。
好き嫌いなどありません。
本が厚ければ厚いほどワクワクするのです。
でも、それはあくまで趣味に過ぎません。
本職は新聞を読むことなのです。

そうこうしているうちに、夕刊が配達されます。
Y新聞が早い時もあれば、逆の日もあります。
少年は、早く配達された方から読み始めます。
朝刊より記事は少ないため、
かかる時間は1時間ほどです。
1紙を読み終えると次の夕刊にかかります。
また1時間ほどで読み終えます。

さて、夕食の時間です。
少食の少年は、夜もそんなに食べません。
野菜のスープがあればそれで満足です。
いつも、おばさんありがとう。
感謝の気持ちも忘れません。

夜には、TVで各局のニュースを見ます。
1つの番組をずっと見ることもあれば、
チャンネルを変えてあちこち見ることもあります。

そこで伝えられる、たいていの出来事を、
少年はすでに新聞で読んで知っています。
でも、ニュアンスが違ったり、
トップニュースが違ったりします。

新聞を見ても、Y新聞とA新聞では
記事の内容、見出し文字の大きさ、記事のレイアウトが
違っていることが多いです。

それらはいったい誰が決めているのでしょうか?

少年は、いつも想像しています。
どの新聞も、どのTVのニュースも、
何も本当のことを書いていないし、
言ってないじゃないかって。

近所のおばさんには、
「疑り深いのはよくないよ」
と諭されます。

でも、全く疑わないのも少し違う、
と思う少年なのでした。


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