骨と肉

2006-02-12 00:54:56 | Notebook
     
ある日本人ジャーナリストが海外危険区域での取材中に命を落とした。もう10年以上も前の話だ。きちんとした必然性と理念と分別のある仕事ぶりだったので、尊敬に足る死だった。見当違いの情熱もなければ運命への甘えもない、もちろん空疎な自己愛でもない。生をまっとうするための立派な行動だった。
現地で遺体確認をした彼の妻は、まだ若い30代くらいの女性だった。彼女の目は、静かに流れるおおきな川のようだった。テレビの取材を受けて言っていた言葉が印象的だった。

最愛の夫の死体を見るのは辛くありませんか、かなりひどい状態ですよ、と訊かれて、なぜそんなことを言うのかしら、と思ったんです。
だって、わたしは奥さんなんですよ。確認しなきゃ、気がすまないじゃないですか。
夫の肉を見て、骨を見て、ああ、死んだんだな、って、そこまで確認しなきゃ、奥さんをやってきた意味がないじゃないですか。