読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

杉井 光著「終わる世界のアルバム 」

2010-12-04 | さ行
黒点病と名付けられた病気が世界中に蔓延し、人が突然消えてしまい、そうすると消えた人のことが生きている人の記憶からも失われてしまう様になった。
そしてバタバタと、なんの前触れもなく突然消えてしまう人が増え家族さえ誰も覚えていない。人間が消滅し、その痕跡も、周囲の人々の記憶からも消え去ってしまう現象が頻発している世界の終末ストリー。
そんな世界で主人公のぼくこと15歳のマコは例外的に消えた人間の記憶を保持することができた。
デジカメだと消えた人間と同時に写された人物も消えてしまうがと銀塩フィルムカメラだと消えない。
卒業写真の為にクラスメイトを撮り続けるマコ。
写真に「死者の記憶を刻んでしまうこと」そんな写真に名前を書いてアルバムのファィルに押し込む。
いつの間にかクラスメイトが減っていき、葬式や遺書は存在せず、ビートルズが二人しかいないのが当たり前だった世界。
マコは父母も消えてしまい、隣家のクラスメイト莉子とその母の恭子さんに養ってもらいながら、時々教室から減っていく机を見に中学に通い、夕方の記念公園で海賊放送のラジオを聞く。
周辺が立ち入り禁止区域だらけになり、人も減った東京だから誰にも邪魔されないはずだった。
そんな時マコは気がつく。人が消えていくばかりの世界の中、いなかったはずの女の子水島奈月がいつのまにかクラスの一員として溶け込んでいることに。
名前だけしか覚えていない少女は、特に知り合いでもないはずなのに、なぜか気になってしまう。
『忘れないことも選べるーその可能性を抱えているだけで・・・ぼくは磨り減っていくんだ。』(208P)という
主人公マコ。
人は何を持って世界にその存在跡を残すのだろう。名前だったり、功績だったり、姿かたちだったり、思い出だったり、
でもそれは、誰かが覚えていてくれなければ、何もないのと同じだ。
残った爪あとも、いつか風化して消え去ってしまう。
そんな世界で消えてしまったものを忘れられない少年。そしてその少年にすら忘れられてしまった少女。
全て失われていく世界で、それでも失いたくないものがそこにはあるだろうかと問題を投げかける。
忘れることが出来るから哀しみから抜け出せまた生きていけることもあるのだろうとおもう。
2010年10月 アスキー・メディアワークス刊





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