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読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

逸木裕著「四重奏」

2025-04-13 | あ行
ミステリー音楽小説。チェリストの黛由佳が自宅で放火事件に巻き込まれて死んだ。かつて音大時代に由佳の自由奔放な演奏に魅了され、彼女への思いを秘めていたチェリストの坂下英紀は、火神の異名をもつ孤高のチェリスト鵜崎顕に傾倒し、「鵜崎四重奏団」で活動していた彼女の突然の死にショックを受ける。演奏家としての自分の才能に自信をなくしている英紀にとって、音楽は求めれば求めるほど遠ざかっていく世界だ。同じように苦しんでいた由佳の死に不審を感じた英紀は、「鵜崎四重奏団」のオーディションを受け、クラシックの演奏に独特の解釈を持つ鵜崎に近づき、由佳の死の真相を知ろうとする。音楽に携わる人間たちの夢と才能と挫折、演奏家たちの秘密に迫る。「人は人を本当に理解できるのか?」「演奏とは何なのか?」「評論家の評価は本当に正しいのか?」「錯覚なのではないか?」「音楽とは錯覚と模倣、演技力だと」持論を展開する鵜崎に反感と同時に共感しつつまた鵜崎の解釈に爽快感を感じる坂下。しかし同時に演奏する立場から見ると、自分を否定されたような気がしてしまうのだ。音大を出て、音楽だけでは食っていけない多くの演奏家たちの一人として、漫画喫茶でバイトしながらチェロを細々と続けつつ由佳の死の真相を知るため、鵜崎に近づく。音楽の専門的な話と過去にさかのぼる展開に読み難さを感じたが、音楽家が芸術性と現実の生活との間で苦悩する様子が現実的で理解できる。音楽をめぐる人間ドラマとして読み応えがあった。異常に均一な演奏でカリスマ的な人気を持つ鵜崎が異色。クラシックという特殊な世界がミステリー性を引き立てる。また、聴衆と演者間の「錯覚」という心理的齟齬をテーマに展開されているのも面白いしチェリストでありながら探偵もどきの行動をするも面白かった。
「言葉は不自由なものだろ。そんなもので書かれた小説なんて、不完全にしかなりえない。何度も何度も繰り返し読まないと、何が書いてあるかなんて判らんのよ。音楽も」(P282)
2023年12月光文社刊



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