読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

加藤元著「流転の薔薇」

2010-09-09 | か行
地主の父親と芸者の母親の婚外子で、母親と東京の外れの長屋で暮らしていた千鶴は、ある日、父親の家に引き取られた。
異母兄弟との確執はあったが美しい妹、鈴子との友情を育んでいた。
しかし結核に倒れた兄を離れで看病するうち暗い欲望をもった兄との禁断の関係をもってしまう。
やがて兄が亡くなりひょんなことから女優の道を歩み始めることになる。
時代は無声映画からトーキーに代わるころ、女を武器に様々な男を踏み台にして、千鶴は大女優への階段を登っていく。
理想の花嫁像として国民的人気を博していく千鶴に回ってくるのは、いつも本人の実像とは程遠い、純情で貞淑な役柄ばかりだった。
「喪った女だから、処女を演じきれるのだ。」楚々とした風情から『銀幕の花嫁』と呼ばれるが、溝(どぶ)の中で育った勝気な女その仮面の下には貪欲で計算高い素顔が隠れていた。
最強の仮面をつけた究極の女。端役からのし上がっていく姿は鬼気迫る。
この時代、美しさはそれだけで財産だった。
戦後の混乱期母親、結婚で儲けた子供と没落した異母兄弟一族の暮らしの面倒を見る為、特に結核を患い病弱な異母妹鈴子の為に千鶴は頑張る。
互いに思いあいながら会うこのない鈴子とのある意味ライバルのような関係、手紙のやり取りや他の家族を通じてのみの関係が千鶴の隠れた力の源泉だったのかもしれない。
“純情”からもっとも遠い女優の一代記。戦中戦後昭和を生き抜き平成に逝った女の根性の物語である。
2010年7月刊 講談社刊

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