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読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

天童荒太著「巡礼の家」

2020-08-15 | た行
著者が故郷・道後温泉を舞台に描いた、現代社会への「希望の灯火」。
「お遍路さん」を迎える場所として道後温泉にある架空の宿・巡礼者の宿「さぎのや」。
 行く場所も帰る場所も失った15歳の少女雛歩は、この宿の美人女将からこう声をかけられる。「あなたには、帰る場所がありますか」こころの傷ついた人たちを癒す「さぎのや」の人たちの、優しく不思議な世界観。女将や地元の人々との交流を通じて、少女は、自らの生き方と幸せを見つける再生の物語。さぎやの普通「巡礼者って言葉があるけど、命って巡るんだ、人の想いも巡る・・・いいことって、きっと巡っていくんだろうな・・・」(P163)「いつも急いでいて、きりきりしていて、頑張っている。けど、その姿が痛々しい・・・ただ自分たちの暮らしや理想を追うのに精一杯って感じでとても助け合う雰囲気じゃない。だから巡って行かない、人々の想いも、いいことも、滞って、巡らない・・・それがさぎやの外の世界の普通なんだ。」(P164)28章の友人は遺書を残したのに遺書を残さずに友人と自殺した15歳の娘の心情がどうしても理解できず悩み巡礼の旅に出た夫婦の話がいい。
2019年10月文藝春秋社刊
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高村薫著「我らが少女A」

2020-08-10 | た行
合田雄一郎を主人公とする警察小説シリーズ。痛恨の未解決事件。12年前のクリスマスの早朝、元高校の美術教員を退職した画家が、毎朝写生に行く公園で死んでいた。そこから話が始まり、その先生に絵を習っていた当時中学生だった少女上田朱美(少女A)が、12年後に元俳優志望の風俗嬢として同棲していたつまらない男に、つまらない理由で殺される。そして、その犯人の男が警察で、彼女は12年前の老女の死亡した現場から絵具を1つ持ってきたと語ったことを語る。そこから過去の未解決事件を捜査する特命班が動き出す。そして、12年前の人間模様を再度調べ始める。合田雄一郎は、12年前の捜査本部の責任者で、今は12年前の現場に近い多磨駅近くの警察大学の教授。ことの顛末は多摩駅の若い駅員小野雄太の視線を通して語られる。殺された教師の孫娘で、朱美の同級生の真弓、同じく同級生の浅井、浅井の親、真弓の親。朱美の親。少女Aの死をきっかけに、当時の記憶が呼び覚まされ、深く掘り下げられていく。殺された美術教師は何を考えていたのか、当時の同級生らは何を見ていたのか、少女Aはどのような人間だったのか、そして、誰が殺したのか。関係者それぞれの些細な日常を描きながら、そこに潜む諦めや寄る辺なさといったものが、著者独特のユーモラスで絶妙な比喩表現をもって語られ人びとの記憶の片々が織りなす物語になっている。各個人の緻密な心理描写、ゲーマーやSNSのネット世界と精神に障害の浅井の描写がある意味鬱陶しいがそれぞれの動き出す時間が世界の姿を変えていくちょっと変わった謎解きミステリー。
2019年7月毎日新聞出版刊
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高野史緒著「大天使はミモザの香り」

2020-02-05 | た行

オーケストラ・ミステリー。厳重に二重に警備されたパーティー会場、特殊電子錠つきのケースから時価2億のヴァイオリンの名器“ミモザ”が消えた。アマチュア・オーケストラのパトロンのマダム、実直なヴァイオリン職人、イケメンコーディネーター、持ち主のヨーロッパ貴族、その才媛の美人秘書、保険金目当ての持ち主のヨーロッパ貴族、その才媛の美人秘書、・・・。誰もが怪しく犯行が不可能でないのだ。42歳独身彼氏なし、ヴァイオリン歴30年のベテランながら、自他ともに認める、いまひとつ華がない演奏者・・・音羽光子。クラシック知らずの高校一年生だが、ヴァイオリンに関しては無自覚に天才的、突然アマチュア・オーケストラにスカウトされた・・・小林拓人。このコンビがこのトリックを解こうとするのだが・・・・。

微笑しく読みながらクラシックの薀蓄と謎解きを楽しめた音楽ミステリーでした。

201911月講談社刊

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高嶋哲夫著「沖縄コンフィデンシャル レキオスの生きる道」

2020-01-11 | た行

沖縄コンフィデンシャルシリーズ第4作。レキオスとはポルトガルダ語で「琉球の人」。米軍普天間基地移設問題に揺れる辺野古で水死体が発見された。東京の建設会社社員だと判明し、一気に全国から注目を集める事件に発展。さらに、沖縄県警捜査一課の反町らが事故か自殺か殺しかの捜査をすすめる中、県知事が急逝する事態に。事件を追うごとに、反町は沖縄の“真の闇”に近づき、日本政府をも転覆させるほどの戦後最大のタブーに迫ることになる。

・・・沖縄の裏事情が物語の展開に従って明らかになるのだが。事件の意外性はなかったが辺野古移設の真の目的が解ったような物語だった。「沖縄経済界と本土の経済界、というより土建会社の思惑が一致した。辺野古の海を埋め立てる。砂利を使ってね。砂利利権よ。その間に辺野古周辺の土地は買い占められていた。買い占めたもののリストには、本土の政治家の名前もずいぶん挙がっている。・・・沖縄の政治経済は利権で固まっている。」(P234

20197月集英社文庫刊

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高杉良著「めぐみ園の夏」

2019-10-13 | た行

著者の自伝的長編小説。昭和25年(1950)夏、小学校6年生の高杉さんは、家庭の事情で孤児施設「めぐみ園」に預けられ、そこで育った。日本がまだ貧しく、食うことに必死だった時代。11歳の杉田亮平は、姉、弘子、弟、修二、妹、百枝、の4人兄弟ですが、両親の離婚で、父母から見放され、叔母早苗により、孤児たちが暮らす施設「「めぐみ園」に強制的に入園させられることになります。厳しい食糧事情、粗暴な上級生、理不尽な園長夫妻、園長の息子のいじめ、幼い弟妹。主人公の少年・亮平は、持前の機転と正義感で、自らの道を切り拓いていく姿に感動を覚えます。昭和25年の夏から、翌年の12月までの約1年半、激動期の出来事です。

「めぐみ園がなければ、作家になっていなかったかもしれない」(著者)

亮平自身の才覚、処世術、対応力で次第に周りの人を味方に引き入れていく様子にはとても子供とは思えない賢さに感心しました。

20175月新潮社刊

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大門剛明著「両刀の斧」

2019-07-05 | た行

名古屋を舞台にした警察ミステリー。捜査一課の刑事・柴崎佐千夫の娘曜子が刺殺体で見つかった。懸命な捜査にもかかわらず、事件は迷宮入りとなった。15年後のある日、彌冨署の後輩刑事の川澄成克は、自殺した警察官の遺書が見つかったことから事態は急変し、手がかりすらなかった犯人の身元が明らかになる。だが逮捕目前に迫った時、犯人と目される男が殺された。元刑事による復讐殺人に世間は騒然。本当に殺したのは柴崎なのか。

後半23転の展開に読まされます。ラブリュス(ラビリンス・迷宮)を切り開こうとする刃があなた自身や大切な人を傷つけることもある。・・・これは解いてはいけない迷宮だったのか。「迷宮を説くことが正義だと思い込んでいる。・・・ですが、解ける事件をあえて解かないことも正義なんです。」(P240

事件の裏に隠された、慟哭の真実に涙。20192月中公文庫

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日明恩著「ゆえに、警官は見護(みつめ)る」

2019-05-11 | た行

警官シリーズ第四弾。明け方の港区芝浦のマンション前で焼死体が発見された。重ねられたタイヤに立たせた人体を燃やすという残忍な手口は世間の耳目を集める。だが検視の結果、燃焼時には既に死亡していたこと、遺体は長時間冷凍されたものだったことが判明する。一方、新宿署の留置管理課に異動となった武本は、深夜の歌舞伎町での喧嘩で逮捕、勾留された柏木という男の静かな佇まいが気になっていた。そんな中、西新宿のビル前で同様の手口の殺人放火事件が発生。武本は、新宿署の捜査本部に応援にきた警視庁刑事総務課刑事企画第一係の潮崎警視と再会し潮崎と武本は、それぞれの立場から犯人を追う。無口で無骨な刑事・武本と、名家出身でおしゃべりな潮崎。その潮崎のお目付け役で捜査第二課第一知能犯特別捜査第二係宇佐美巡査部長と警視庁捜査一課第二強行犯捜査強行犯捜査第三係に所属する女性刑事正木星里花巡査が絡む展開。

今回の犯罪の背景に東日本大震災の地震被害で液状化の被害にあった埼玉県久喜市での悲劇を取り上げていて福島原発や津波被害の影であまり注目されていない地区の存在を知った。不器用だけれど、とてもまっすぐなキャラクターになんともいえない魅力を感じ、それに輪をかけたような潮崎・宇佐美・正木のコンビの活躍に緊迫感と人情味の溢れる展開で面白かった。それにしても至る処監視カメラの溢れる日本、警察の地道で且つ分析と追及する力はある意味怖い。

201811月双葉社刊

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知念実希人著「崩れる脳を抱きしめて」

2019-04-26 | た行

15 2018年本屋大賞ノミネート。東京慈恵会医科大学卒の医療ミステリー作家が描いた恋愛ミステリー。広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の碓氷蒼馬は、脳腫瘍を患う女性・ユカリと出会う。外の世界に怯えるユカリと、過去に苛まれる碓氷。心に傷をもつふたりは次第に心を通わせていく。実習を終え広島に帰った碓氷に、ユカリの死の知らせが届く。彼女はなぜ死んだのか?本当は幻だったのか?碓氷はユカリが倒れた横浜山手地区でユカリの足跡を追い手がかりを探り始めるのだが・・・・。

主人公と難病女性との恋物語からの謎解き。どんでん返しの名手らしく意外な結末に感動。

「若くして事故や病気で亡くなる・・・人も見てきました。その中には亡くなる直前まで普通に生活していた人も多かった。・・・どんな人間も『見えない爆弾』を抱かえながら生きているって。いつ破裂するか分からない時限爆弾を」(P99)

「誰だって、明日まで生きている保証なんてない。誰だって爆弾を抱かえて生きている・・・けれど、その爆弾に怯えていたらなにもできない。だから、僕たちはただ一日一日を必死に生きていくことしかできないです」(P287)

20179月実業之日本社刊

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高嶋哲夫著「官邸襲撃」

2019-04-08 | た行

日本初の女性首相新崎百合子総理とアメリカ国務長官ドミニク・アンダーソンが首相官邸で会談中に、テロ集団が官邸を占拠。首相と国務長官が人質となる。首相付きの初の女性SPとなっていた夏目明日香が、重傷を負った上司高見沢の指示のもと、たった一人、テロ集団に立ち向かうことに。官邸の外では情報不足と指揮権の問題等で日米の救出部隊がもめるなか、アメリカ大統領チェイス・ドナルドをも巻き込むテロ集団からの要求で意外な目的と作戦が明らかになる。混乱に乗じてテロ組織。しかし、明日香の行動が少しずつテロ組織の計画に狂いを生じさせていく・・・。

官邸に入り込むのはこんなに簡単。危機管理のまずさ・政府のひどい対応にびっくり。内部に逃げ延びた主人公が活躍することやテロ協力者が居たなどは米映画『ホワイトハウス・ダウン』や『エンド・オブ・ホワイトハウス』と同じ感じ。主人公の家族に危機が及ぶ展開は『ダイ・ハード』と似ている。SATSEALsもあまりにも無策な無謀な突入で全滅。一方のテロリストの人員配置は甘く人質見張りも杜撰。人を殺すことを躊躇していた訓練もしていない警官がミサイルをぶっ放したり、折角の期待された女性総理の活躍も無く日本の危機管理は大丈夫かと思う読後感。新聞記者のプリンセスの件はわざわざ官邸を占拠してから探す意味も感じない等々。環境汚染問題や難民受け入れ問題などの提起はあるがツッコミどころ満載でした。トランプや都知事を想像させる展開だったがリアル感が感じなかった。

20186PHP研究所刊

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天童荒太著「ペインレス」

2018-11-20 | た行

主人公は、腕の確かな施術で評判の、若くて美しく奔放な女性麻酔科医・野宮万浬。心の痛みを感じることができない彼女は、医学的にも個人的にも、痛みというものに異常なまでの関心をもっていた。心に痛みを覚えたことのない彼女がそうなったのは、トラウマがそうさせたわけではない。どうやらそれはDNAのためであるらしかった。若き美貌の麻酔科医・野宮万浬のペインクリニックに末期ガンの病床にある曽根老人から紹介されて訪れた貴井森悟は、彼女にとって願ってもないような実験材料だった。森悟はビジネスの最前線である中東の紛争地帯で爆弾テロに遭い、痛覚を失って帰国した。最初の診察の直後から彼女は、セックスを通して森悟の悦びと痛みのありかを探ってみようと心躍らせる。セックスを伴う「診察」が繰り返される中で、森悟は、紛争地帯で遭遇した事件の詳細を語る。彼は、ビジネスという名の下で行われる先進国の身勝手に疑問を抱く人間だったが、そのために却って、現地の人々に試されることになり、その果てのテロの悲劇だったのだ。 万浬は自分が、世間の人々を、なぜ、そしてどこがどう違っているのか確認せずにはいられなかった。彼女の一族の過去が、薄皮をはがすように一枚一枚暴かれてゆく・・・。『痛みと愛を前提にこの世が成り立っているのなら、私たちはその向う側を目指すべきじゃないかしら』・・・万浬は森悟に、繰り返しそう囁いた。「痛みの文学」痛みとは一体何なのか。作品の中で度々問い直されます。痛みとは、私達を痛めつけ、怯えさせるもの。けれど、一方で、私達を守ってくれるものでもある。痛みがあるからこそ、私達はそこで止まり、引き返すこともできる。からだに痛みがないということは、からだを守ることができないということ。では、心に痛みがないということには、どんな危険があるのか。フィジカルにもメンタルにも痛みは身に染みて辛い。辛いけど、生きていくためには必要な防御だと。人類は様々な苦痛から逃れるために文明を築き、生活を進歩させてきた。しかし、その結果は、絶え間ない悲惨な戦争、公害はじめ環境汚染、感染症の爆発的拡大など、滅亡への歩みが早まっただけだった。さらに、傷や痛みを癒すはずの愛も、逆に人びとを痛みの底へと追いやるものになっている。万浬は、これまでに痛みと向き合い、挑戦を続けてきた先駆的な人びとの苦悩を知り、痛みについての考察をさらに深めていく。痛みを哲学としてとらえ、痛みの本質に迫って、倫理や常識を超えて語られます。「この世界の法律も常識も、痛みを基に作られています。・・・社会を発展させてきた道具のほとんども、心身の痛みが裏打ちとなっている。この世界のあらゆることが、人間の痛苦を基礎にして成立しています。政治形態や経済の仕組みが変わろうと痛みに基礎を置く世界のかたちは変わらない。」(下巻P68)「唯一、精神的な痛みから解放された物だけが、愛からも解放される」(下卷P195)心の痛みのない女と、体の痛みを失った男。そこに愛は生れるのか。進化の扉は開かれるのか。痛みをじっと堪えるように時間をかけて上下巻を読み通しました。読み込むのにはなはだしく体力と知力を消耗する。読み終えた今は、ぐったりです。20184月新潮社刊

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高村薫著「土の記」上・下

2018-07-25 | た行

平成23年8月までの一年あまり、72歳の主人公、上谷伊佐夫の心のありようを描いた作品。東京の国立の生まれの伊佐夫は、大学で地質学を勉強したあと奈良のシャープに就職、同社の葛城工場に勤務していたときに大宇陀の旧家上谷家の入り婿となる。代々の上谷家の女性は器量好しである一方で、亭主に飽き足らず外に男をつくるという血が流れているらしい。妻昭代も例に漏れず不行跡の疑いがあるなか交通事故で植物人間となる。その妻の死から一年、娘の陽子は離婚のあと孫を伴いアメリカに渡る。照代の妹の久代は近在の羽振りのよい土建業者に嫁いでいたが亭主は急死。久代は実家である上谷家に以前に増して頻繁に出入りするようになり、奇妙な共同生活が始まる。主人公の特筆すべきことは何もない田舎の暮らしが、ほんとうは薄氷を踏むように脆いものであったのは、自分のせいか、妻のせいか。その妻を看取り古希を迎えた伊佐夫は、残された棚田で黙々と米をつくる。青葉アルコールと青葉アルデヒド、テルペン系化合物の混じった稲の匂いで鼻腔が膨らむ。今年の光合成の成果を測っていた。妻の不貞と死の謎、村人への違和感を飼い馴らす日々。その果てに、さまよう男の心理によりそうように読んでいると、彼が自然の中で生きているゆるやかな時間の流れが、こちらにも伝わってくる不思議な感覚が味わえる。そして、大震災と原発事故が起こり、土になろうとした男を大異変が襲う。それでもこれを天命と呼ぶべきなのか、ラストの記述に茫然、愕然、絶句。ミステリー作家時代の高村薫のイメージが強く、最近の高村薫の作品と同じく、分かりづらく読み難いが故郷に近い懐かしい地名が繁茂に出てきて読むことが出来た。

「人間のしたことは人間の手でなんとかするほかなく、何も出来なくなったときは耐えるほかはない。」(下卷P91)

2016年11月新潮社刊

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大門剛明著「婚活探偵」

2018-06-30 | た行

41歳の黒崎竜司は元敏腕刑事で、訳あってウィンドミル探偵事務所に転職した私立探偵。事務所ではハードボイルドを気取っているが、実は女性とまともに付き合ったことがない草食系。密かに結婚相談所に登録し、婚活をし始めたのだが、事務所では強面を気取っているので、明かせない。そんな苦労をして婚活に励んでいるのに、勘違いやタイミングの悪さでトホホなことばかり。結婚相談所のアドバイザー・城戸まどかは親身にサポートしてくれる。しかし、妙にマジメな性格が災いしてか、誤解あり、判断ミスあり、運はナシで、道のりは険しい・・・。嗅ぐ女、頼む女、赤い女、仮面の女、暴く女など、様々な女性に出会い努力、奮闘する様子事務所に持ち込まれる浮気調査などの事案の7つエピソードの連作短編。主人公の不器用な感じと探偵としてのキレとのギャップが面白かった。

「幸せの形は一つじゃないって。婚活をしている人はみんな、本当の幸せを求める探偵なんだって・・・探偵は常に真実を求めるものだ。真の幸せを求めるという意味では確かに婚活もそうかもしれない」(P323)

20176月双葉社刊

 

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日明恩著「優しい水」

2017-08-05 | た行

両親の離婚を機に母の故郷へと引っ越してきた中学生の石塚洋は、近所の川で捨てられたと思しき熱帯魚を見つけた。洋は魚の引き取り所の存在を知り持ち込もうとするものの魚は全滅してしまう。悲しみにくれる洋だったが、魚を入れていたバケツの水の中に“白いもやもやしたもの”を見つけ「魚を殺した原因かもしれない」と観察を始めた。そして喧しい近所の犬、仲良くなれない友達にその水を飲ませることにして・・・。川の水と魚の死の調査がとんでもない事件に。少年の好奇心によってもたらされた見えざるモノが日本を揺るがすサスペンス。

獣医、環境研究センター須賀、警察官、やくざなど絡みながら、脳が融けて認知症のような症状と謎の水に関する調査が繰り広げられていくサスペンス面白かった。愚かな人間が行った何気ない自然破壊の愚かな行為が人類の脅威に発展する結末に恐怖を感じた。

フィエステリア(Pfiesteria)は従属栄養性の渦鞭毛藻で、葉緑体を持たない単細胞生物である。アメリカのノースカロライア州で発見されたこの藻類は揮発性の神経毒を産生する(ウィキペディアより)

「Life will find a way」(生命は必ず道をみつける)(P203)

2017年3月徳間書店刊

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天童荒太著「ムーンナイト・ダイバー」

2016-12-13 | た行

南の島の美しく華やかな海でなく舞台は3.11から5年目になるフクシマ。

父と兄をくした被災者でもある瀬奈舟作はダイビングショップでインストラクターと働いている傍ら、秘密の依頼者グループの依頼をうけて、亡父の親友である松浦文平とともに3.11の震災以後立入禁止の汚染された海域で非合法の遺品の引き揚げを行っていた。光源は小さなライトと月光だけ。ふたりが「光のエリア」と呼ぶ、建屋周辺地域を抜けた先の海底には「あの日」がまだそのまま残されていた。直接会うことをしないという依頼者グループの会が決めたルールにそむき、直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げる。・・・何故潜るのか舟作は「だからこそ潜るのだ。誰も潜らないから、誰かが潜らなければいけないのだと信じる。」非合法のダイバーとなった舟作は人と町をさらった立入禁止の海に何回も潜降する。

「何かを諦めなければいけない。今のようじゃなかった暮らしとか,いまと違っていたはずの人生とか、こうではなかっただろう周りの人間関係とか、・・・もう一度つかもうと、あがいてきたんです。でも,水のなかにふわふわ浮かんでいるいるようではなくて、底にしっかりと足をつけて見回せば、・・・あるのはやっぱり、いまの暮らしだし、いまの人生だし、いまの人たちなんだと思う・・・。それを行け入れるべきなんじゃないか。」(P208)

慟哭の夜から圧倒的救済の光さす海へ。鎮魂と生への祈りをこめた感動の意欲作でした。

2016年1月文藝春秋刊

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日明恵著「啓火心」 

2016-11-28 | た行

消防士大山雄大が活躍するミステリーシリーズ第3弾。都内で覚せい剤の密造所とみられる建物から出火が連続して起きる。燃え痕からはなぜか、多量のペットボトルやメタンの成分が検出される。現場にどうしてそんなものが?飯倉消防出張所に所属する若手消防士・大山雄大は密かに調査を開始する。そんなある日、雄大は掏摸からの被害から助けてやった向井という男と言葉を交わすようになるが彼はどうやらヤクザ風の男たちと嫌々ながらも付き合いがある様子だった。やがて、六本木界隈の危険な奴らから目をつけられ、雄大は思わぬ危機に陥る。工務店に勤める幼馴染の重森裕二や金持ちの引きこもりの守たちが雄大に協力し立ち向かうのだが・・・。

500ページ近くの長編で展開がゆっくりで過去に読んだはずなのにかなり前の為、思い出すのに時間がかかった。ヒロインや女が登場すればいいのにと思うのだが固い感じのミステリー。

0156月双葉社刊 

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