読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

貫井徳郎著「後悔と真実の色 」

2009-12-10 | 貫井 徳郎
若い女性を襲い、死体から人指し指を切り取る連続殺人魔「指蒐集家」を巡る所轄署の刑事、機動捜査隊の刑事、警視庁の男たちの群像物語です。
一応主人公は警視庁捜査一課第6係の主任である西条輝司警部補です。
西条は若くして警部補にまでなるほど有能で名探偵と呼ばれる位ですが、人付きあいはあまりよくなく「あの強固な呪縛から、いつか解き放たれたかった。」と
思い込むほど家庭生活にも問題を抱えています。
ほかにも、西条を猛烈に憎んでいる機動捜査隊の綿引警部補。
ネットの監視役を担当することになった三井巡査部長。
新聞記者に奢らせて、ときどき情報をリークしている村越刑事など、
皮肉屋の同僚や傍若無人なベテラン刑事、野心家の若手警官など、それぞれの生きざまが緻密に描写され、
無数の伏線となって張り巡らされて個性的な刑事たちの視点で展開されます。
また、犯人の独白も、ところどころに挿入されていて、両方の立場から事件が語られます。
警察は、ネットでの殺人予告、殺害の実況中継など犯人の不気味なパフォーマンスに翻弄され、足がかりさえ見えない状況下、
さすがの捜査一課のエース、西條輝司も自らのスキャンダルで身を持ち崩してしまう。
個性豊かな刑事たちキャラクターたちの心情、嫉妬、警察機構や組織の問題点などとくどいほどの人間関係が描写され物語を事件を複雑にして中盤まで我慢の読書です。
挿入される話は罠なのか?被害者たちにつながりはあるのか?
犯人の狙いは何か? 後半一気に展開される犯人と西條の攻防は面白かった。
この本で出てくる、犯罪者ばかりでなく落し物やその他警察に関わった全ての人の「閻魔帳」と呼ばれる警視庁のデータベースの存在は、健全な一般市民の目からは不気味なシステムに思われる。
2009年10月 幻冬社刊
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貫井徳郎著「空白の叫び 」

2009-05-27 | 貫井 徳郎
上下巻1100頁以上にわたる長編です。
未成年14歳の殺人事件を扱った一寸重たい心理サスペンスミステリーです。
ともに中学生で14歳の久藤美也、葛城拓馬、神原尚彦。
ほぼ同時期に別々に様々の理由で人を殺し中等少年院で出会う。
世の中への違和感を抱える彼らは、何を思いどんな行動に出るのか・・・。
人殺しを容認することはできないのだけれど、そこまでに追い詰められていく様子は、なんだか哀れ。本当に悪い奴は誰か・・・
殺人者になった3人の中学生の心の軌跡を心理を克明に辿りながら描いているのが
読む立場としては殺人者の心理をなぞるのは辛く気分は滅入る。
3人それぞれ各人の状況特徴を生かしたストーリー展開で3人を追い込んでいく
悪意の正体への結末に引き付けられ長編ではあるが3-4日かけて読みきった。
後半明らかになる全貌と結末に不満足感が残るが飽きさせない展開で面白い。
2006年 小学館刊 
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貫井 徳郎著「乱反射」

2009-05-04 | 貫井 徳郎
映画「犯人に告ぐ」の作者の長編小説。
一人の幼児の子供をめぐる物語。強風で街路樹が倒れてベビーカーを直撃。
乗っていた2歳の子どもが亡くなった。幼い命の死。
偶然と必然の関係。 偶然倒木時に通りかかった間の悪さ、しかし偶然とも思える木が倒れるべきたくさんの必然性が存在し、そんな沢山の偶然が集まって必然性が生まれたともいえる。
残された被害者の報われぬ悲しみ。遺された家族は、ただ慟哭するしかないのか?
裁けぬ殺人。父親である被害者の新聞記者が原因を突き詰める。
街路樹伐採の反対運動を起こす暇な主婦、救急病院の職務怠慢なアルバイト医、
救急外来の常習者、事なかれ主義の市役所職員、自分勝手な定年退職者、
運転の未熟なドライバー、樹木の診断を請け負った造園会社の社員等々・・・自宅のゴミをパーキングエリアのゴミ箱に捨てるとか、散歩中の飼い犬の糞を始末しない等そんなちょっとした身勝手さやルール違反、マナー違反。
複雑に絡み合うエゴイズムの果てに、悲劇は起こった。
たくさんの登場人物がほとんどが犯人という小説。
群像劇風で感情移入しにくいしすっきりしない原因で読み終わった後の後味の悪さが残る。
モラルなき現代日本を暴き出す罪さえ問えぬ人災の連鎖を暴いた社会派ミステリー。
イギリスの有名な女性ミステリー作家の作品。登場人物が殆どが犯人とういあの「○●殺人事件」もう一度読んでみるか・・・。
2009年2月朝日新聞出版刊
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貫井徳郎著「さよならの代わりに 」

2008-12-21 | 貫井 徳郎
プチSF青春恋愛&ミステリー。劇団“うさぎの眼”の看板女優が、上演中に
控え室で殺害され、主宰者の新條が容疑者として逮捕される。
事件と前後して現れた、真犯人の存在をほのめかす劇団ファンを名乗る謎の
美少女祐里。駆け出し劇団員の白井和希は、彼女と共に事件の真相を追い始める。
嘘か真か未来から来たという彼女に振り回され、時折見せる曖昧な言動に
戸惑いながらも、その不思議な魅力に次第に惹きつけられていく・・・。
難しいタイムパラドックスに引っ掛かるが設定としては面白い。
青春の爽やかさ、切なさがあふれた心地よい読後感のある作品です。
2004年 幻冬社 刊 
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貫井 徳郎著「愚行録」

2008-04-03 | 貫井 徳郎

新聞の切り抜き記事「3歳児衰弱死母親田中光子のネグレクトが原因」
で始まる物語。
しかし、物語はフリーのルポライターが未解決の
「都内で幼い子供二人を含む田向一家4人惨殺事件」の物盗りの犯行か、
怨恨か原因追求を様々な友人たちが一人称で語って聞かせる形式で進められる。
途中何度か女性の幼児の過去体験からの回想が挿入されてそれが誰の
回想なのかは最後まで不明のまますすめられる。
最後は意外なラスト落ちが用意されていて面白い。
顔の見えない被害者や真犯人の存在が不気味です。
『人間という生き物は、こんなにも愚かで、哀しい。
数多くのエピソードを通して浮かび上がる、
人間たちの愚行のカタログ』著者紹介分より
2006年 東京創元社刊  


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貫井徳郎著「被害者は誰? 」

2008-03-28 | 貫井 徳郎
豪邸の庭に埋められていた白骨化した死体は誰なのか?黙秘する犯人。
押収された手記から被害者を特定するのは安楽椅子探偵の
推理作家の「吉祥院慶彦」。
表題作他不倫現場を見た「目撃者は誰?」過去の名推理を小説化して
登場する探偵役は「探偵は誰?」本当の探偵は「名探偵は誰?」の
3編の中篇ミステリー小説が納められている。
推理マニア向けのかなりマニアックな著者の読者への挑戦小説。
思い込みや前提を設定して読むと著者の作った落とし穴に嵌まり込むこと
に・・・
スタイリッシュでシニカルでスマートな作家探偵に脱帽でした。
2003年 講談社 刊


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貫井 徳郎 著 「夜想」

2007-12-12 | 貫井 徳郎
「夜の闇の中で想っているだけだった、虚像を追い大事なものが
見えていなかった」
交通事故により妻と娘を一度に失った男32歳、雪藤直義。
母子家庭で娘亜由美と暮らしていた主婦子安嘉子、娘が家出して消えた
二人が個々の心の動きが交互に描かれる。
雪藤の落とした定期入れを拾った女性は、 物に触れるとそこに
籠った思いを感じ取れる不思議な能力を持っていた。
雪籐は、彼のために泣いてくれたその美しい女性・・・
天美遙のために生きようと決意するのだが・・・。
「家族を失った人間」の御しきれない深い悲しみ、絶望を抱えた
人間の描写が今回も生きている。
それを単なる「悲しみ」と表するするのはあまりにも当たり前
すぎるからこそ、新興宗教という組織を舞台にして、
信じることと癒しを描いた心理ミステリー作品
重いテーマを扱ってはいるがテンポ良く読めるので読みやすい物語です。
後半明らかになる真相と結末に一縷の望みがある気がします。
『自分の出来ることを人のためにしてみる。
無理しなくてもいい、背伸びしなくてもいい。
人から感謝されるというのは、気分がいいことなんです。』(文中より)
『救われたいと願っているうちは、決して苦しみから
逃げることは出来ない。自分を救うのは自分自身しかいません。』
『現実から目を逸らさずに・・・』(文中より)

2007年5月文藝春秋刊 1750円 

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貫井徳郎著「ミハスの落日」

2007-10-06 | 貫井 徳郎
ジュアンへの突然の呼び出しは、面識のない相手であったが、
名前だけなら誰でも知っている会社の創業者で財界の実力者であった。
不可解な気持ちを抱きつつ指定された家を訪問すると、
年老いた紳士は、私の母が関わっていたとされる事件、
三十年以上も昔の、信じがたい密室殺人の真相について語り始めた。・・・・
表題作
他、ストックホルム、サンフランシスコ、ジャカルタ、カイロ
の五つの都市を舞台にしたミステリーサスペンス5つの短編。

選ぶのは怖い・・・勇気を出す秘訣を教えよう・・選ぶ前に
ひとつだけ決めておくんだ。絶対に後悔しないってね。
どんな結果になっても・・・』(ジャカルタの黎明)より」

2007年 新潮社 刊
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